錯覚という盲目について。 | 恵比寿 Rouge ou Blanc ルージュ・ウ・ブラン

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「人間の感覚は、なんて曖昧なんだろう」と、思う事がよくあります。

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長さが違うように見える2つの横の直線は、どちらも同じ長さで、

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大きさが違うように見える中央の丸は、どちらも同じ大きさです。

これは視覚の一例ですが、「五感」と呼ばれる他、聴覚、嗅覚、触覚、味覚、でもこういった錯覚はあると思います。

人間の脳は情報を処理する時に、過去の経験などを元に、実際の情報に加えて、他の情報を自動的に補完したり、全体のバランスをとったりするそうです。

例えば料理を味わう時にも、舌で感じる味覚だけではなく、目で見た情報、鼻で嗅いだ情報、耳で聞いた音の情報、手や口で触れた情報が、総合して影響します。

暖かい料理を「青色の皿」に盛りつけて食べてみると、味わいの感じ方はどうでしょうか?
ブルー系の色には「冷たい」イメージがあるので、美味しさが半減してしまう気がします。油がジュージューと音をたてている、熱々に温められた鉄の器で、目の前に同じ料理が運ばれてきた場合、まったく味わいの感じ方が違うはずです。
逆に、夏の暑い日にそうめんを食べるなら「青色の器」も悪くなさそうですし、さらに「ガラスの透明な器」であれば、涼しげなイメージが増幅して、さらに印象が変わることでしょう。

もし仮に同じ料理を、家庭でテレビを観ながら食べるシチュエーションと、心地よい照明とBGM、綺麗な食器などで演出されたゴージャスなレストランで食べるのとで比べてみた場合、味の感じ方はどれぐらい違うでしょうか?

「スーパーのお惣菜コーナーで買ったもの」、「有名なシェフが高級食材を使って特別に作ったもの」、「賞味期限ギリギリで古いもの」、「獲れたてで新鮮なもの」・・・といった情報を事前に聞いたうえで、料理を食べてみたら味の感じ方はどうでしょうか?

外観は同じものに見える、「日本産」ウナギと「中国産」ウナギで、どのくらい味の差を感じとれるでしょうか?
もし産地の表示が偽装されていた場合、それを簡単に見破れるでしょうか?


過去の経験、知識、先入観、思い込み、固定観念・・・

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本当に様々なものが影響を及ぼし、実際は直線なのに、あたかも歪んでいるかのように錯覚してしまう事がある・・・


仏ボルドーや米カリフォルニアの大学では、ワインに関する研究が進んでいて、とても興味深い実験データが多くあります。

完全な暗闇で、ワインをテイスティングした場合、白ワインを赤ワインと間違えたり、赤ワインを白ワインと間違える学生が続出し、ロゼワインをロゼであると正確に当てられた学生は殆どいなかったという結果は、視覚で得られる情報がいかに重要かを物語っていますし(ボディが黒くて中身がまったく見えないテイスティング・グラスも存在しますね。これを使った実験も同じ事です)、

暗闇ではない正常な環境で、まったく同じ銘柄の白ワインが入ったグラスを複数用意し、赤い色素を使って人工的に着色をしてロゼと赤であるかのように見せかけたものを紛れ込ませた実験では、ロゼに見える白ワインを実際は辛口であるのに「残糖分があり甘い」とコメントしたり、赤にみえる白ワインに赤ワイン特有のコメントをしてしまったという結果は、視覚の情報から「ロゼは甘い」「赤は渋い」などといった先入観が強く影響した事の表れです。

さらに、グラスに注がれた複数の赤ワインに同じ銘柄のものを紛れ込ませ、「数千円で購入する事ができるワイン」、「数万円する高級なワイン」といった情報を事前に与えてテイスティングした時に、実際はまったく同じ銘柄であるのに、「高級なワイン」と思い込んでいるグラスに好意的なコメントをし、実際に脳波など科学的な数値にまで違いが表れたという結果もあります。


一般的なワイン消費者だけではなく、日常的にワインを深く味わっている専門家であっても、正確に味わいを分析するのは簡単ではありません。

実際、プロのソムリエが競うコンクールなどでも、ブラインド・テイスティング(ワインの銘柄を隠したテスト)で、ブドウ品種、産地、ヴィンテージ、銘柄までピタリと当ててしまうのは漫画の中だけの話で、ブドウ品種すら間違える事が多々あるのです。
(余談ですが、ちょうど今年の3月に東京で開催された世界大会の決勝では、インド産のシュナン・ブランやイスラエル産のピノ・ノワールといった難問が出題され、世界チャンピオンとなった一流ソムリエも含めて誰も当てる事ができなかったとか。開催国が日本という事もあって、インドのシュナン・ブランを日本の甲州だと答えたり。これも先入観かもしれません)


錯覚は、ただの盲目よりも複雑で難しい。

曇りのないピュアな心で、真摯に向き合いたいものです。ワインだけに限った話ではなく。

http://www.youtube.com/watch?v=0u0JfDgs2G0