最も価値があるワインとは? | 恵比寿 Rouge ou Blanc ルージュ・ウ・ブラン

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ワインショップの棚に並んでいる、ワイン1本の値段。

○百円~○千円~○万円~○十万円~○百万円・・・

こんなに差があるのは何故でしょうか?


ざっくり言えば、生産者のコスト&利益、輸送業者のコスト&利益、販売業者のコスト&利益などを含めたものが、この値段です。

多くの流通&小売商品と同じプロセスがあるのは、容易に想像がつきます。

例えば、大きな工場で大量生産されたバッグと、こだわった材料から職人が手作業で一つ一つ丁寧に仕上げたバッグが、同じ値段ではないのと同じでしょう。

広大な畑で栽培したブドウを、機械を使って収穫し、大きなタンクで醸造したワインと、小さな畑で1本の樹に実るブドウの房の数も絞り、人間の手で収穫し、小さな桶で醸造したワインが、同じ値段ではないのは納得ができます。


格付けだけで考えると、同等の価値があるように見えて、生産者の違いによって金額に差がある事もあります。

同じ村や畑の名前のワインを複数の生産者がリリースしていたりするブルゴーニュの、例えば、ジュブレイ・シャンベルタン村は、コート・ドール(黄金の丘)と呼ばれる名醸地の中で、約500haのブドウ畑を持つ比較的大きな村です。全体の約2/3にあたる面積からは「村名」を名乗れるクラスのブドウが栽培されていて、多数の生産者が AC「ジュブレイ・シャンベルタン」という名前のワインをリリースをしています。同じ名前なのに、その価格には差があります。2千円台で買える銘柄もあれば、5~7千円台、1万円以上する銘柄も。

起伏がある地形のコート・ドールの村では、標高が高く、斜面の向きや角度も良く、土壌の質も含めて、すべての条件に恵まれた場所にグラン・クリュ(特級)の畑があり、その斜面の下にプルミエ・クリュ(1級)の畑があり、そのさらに下に「村名」を名乗れるクラスの畑があり、そのさらに下の平坦地と国道74号線の周辺に AC「ブルゴーニュ」などの広域クラスとなる畑があるのが一般的です。

これに対して、ジュブレイ・シャンベルタン村は、「村名」を名乗れるクラスの畑が平坦地まで広がっており、さらに国道74号線を渡った、西側の斜面とは逆側にも畑があります。74号線の東側にこれほど畑が広がっている村は珍しく、実際に約4割ぐらいのAC「ジュブレイ・シャンベルタン」は、こちら側から造られているようです。
これは、立地としては劣る平坦地の畑のワインと、プルミエ・クリュ(1級)の畑に近い、斜面の良い場所の畑のワインが、同じ名前でリリースされている事を意味します。そして、中身はどうであれ「ジュヴレイ・シャンベルタンというラベルを貼れば売れる」と、利益を中心に考える生産者のワインと、利益よりも品質を重視して考える生産者のワインも、同じ名前で・・・という事も考えられるわけです。

だから多くの愛好家は、生産者にも注目して購入します。どの場所の畑を所有していて、どういったポリシーでワイン造りをしているのか。それが、完成したワインのクオリティの差となり、人気の差が生まれ、そのまま値段に差が出てくるというわけです。


需要と供給のバランスも重要です。

例えば希少なボトルの筆頭とも言える、シャンボール・ミュジニー村の人気の造り手「ジョルジュ・ルーミエ」がリリースする、グラン・クリュ「ミュジニー」。年間生産本数は、約300~600本(ヴィンテージによって異なります)。あの「ロマネ・コンティ」でさえ約3000~7000本ですから、その僅か1/10しかない計算です(畑の広さは、「ミュジニー」0.1ha 「ロマネ・コンティ」1.8 ha ※1haは縦100m×横100m)。なかなか出会えないのも無理はありません。そして生産量が少ないのに、それを世界中の愛好家が競って買いあさっているため、値段が高騰するのは当然です。

高級ワインは、たしかに生産コストも安くはないでしょう。莫大な金額の畑の地代、栽培や醸造や瓶詰めにかかる費用、その設備や人件費、熟成に最適な高品質の樽、偽造を防ぐために特別なボトルやエチケットを使っていたり、長期熟成向きの品質が良いコルクを使っていたり・・・

それでも、やはり生産コストだけではなく、希少価値が最終的に大きく反映されているようです。

その昔、人気アーティストのコンサート会場の外には「ダフ屋」と呼ばれる商売人が立っているのをよく見かけました(現在はどうなんでしょう?)。チケットが売り切れてしまって買えず、会場に入場できなくて困っているファンに、どこからか手に入れた貴重なチケットを親切に売ってくれるおじさん。喜んでチケットを買おうとすると、正規金額の数倍~数十倍を請求されるという怪しげな商売です。普通に買ったら5千円のチケットが、3万円~10万円で売られていても、どうしてもコンサートを観たいファンは購入するんですね。

「その価値に応じて、値段が変わる」

オークションでは、アンティークの食器や家具など様々な物が、希少性や人気に見合った値段で売買されてますし、プロ野球選手も年俸が、数億円だったり、数百万円だったり・・・世の中にはイロイロありますね。


では価値を決めるものとは?

ワインにおいては、著名な評論家の意見が大きく影響を与えているように思えてなりません。「パーカーポイント98点」、「スぺクテイター99点」・・・
ジャーナリストの評価を、ワインショップの棚やメールマガジンといった様々な広告に引用しているのを頻繁に見かけます。あたかも品質を示す数値のように錯覚をしてしまい、惑わされる消費者も多いのでは。
こういった点数がワイン選びの参考になる事も確かにありますが、ジャーナリストの影響力が高まるにつれて弊害も起こっているようです。
高得点が付いたワインは世界中で売れて、すぐに入手困難になり、価格も高騰する。ジャーナリストの好みを意識して、本来のスタイルから高得点が付きそうなものへ転換し、人為的にワイン造りをする生産者も出てくる。

そもそも、個人それぞれの好みが違う嗜好品を、点数で評価する難しさ。

カルビーのポテトチップス・コンソメ味は90点で、コイケヤのポテトチップス・コンソメ味は91点。
カルビーのポテトチップス・のりしお味は92点で、コイケヤのポテトチップス・のりしお味は93点・・・

ゴッホの「ひまわり」は94点で、ダヴィンチの「モナリザ」は95点・・・

ビートルズの「レット・イット・ビー」は96点で、ローリングストーンズの「サティスファクション」は97点・・・

「こっちのほうが優れている」と、誰が言いきれるでしょうか?
そして、優劣を決める必要があるのかどうか。

個人的には、「ワインを熟知したあの専門家が○点をつけているなら○○だろう」、「あの専門家の好みは○○だから、きっと○○だろう」と、参考程度にしています。あくまでガイドですから。それが本来の姿のはずです。


評論家が100点をつけたワイン、人気の生産者が300本しかリリースしない希少なワイン、1本100万円で売られているワイン・・・

この上ない幸福の味を体験できるのと同時に、その希少性や、背景にあるストーリー、プレミアムな価格が、記念日や特別な時間にゴージャスな色彩を添えてくれることもあるでしょう。1本のボトルに詰められたロマンを一緒に飲む、という楽しみ方も素敵です。

しかし必ずしも万人が美味しいと言うとは限らないと思います。それを飲む人の好みやシチュエーションに合わなければ、まったく価値がありません。

そして時には、評論家が酷評したワイン、大量生産されているワイン、リーズナブルな価格で売られているワイン・・・が、しっくりくる場面があったり、好みにピタリと合って感動する事もあるのではないでしょうか。

だからこそ自由に。せっかく幅広く世界に存在しているのですから。

高級レストランの有名シェフが腕をふるったフォワグラやトリュフの料理と、お母さんのカレーや彼女の手作りハンバーグ。どれも美味しいし、どれが最も優れているか?なんて、どうでもいい事ですよね。