関心のある方は限定されてしまうかもしれませんが、勉強のために整理したのですが本当に改正に動きそうになったので、【法務系Advent Calender2015】のネタとしてエントリーさせていただきます。

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2015年に大きく動き出し、政府まで突き動かし始めました。そして、2016年に何らかの答えが出るかもしれないところまできました。

Airbnbに代表されるシェアリングエコノミーというイノベーション産業に、現行の旅館業法をそのまま適用することに違和感があることは規制当局を含め認識しているはずです。2012年ころからシェアリングエコノミーと呼ばれる個人の有するリソースを有効活用する文化が醸成されてきました。これにはインターネットが大きく関わっておりCtoCモデルとして急成長を遂げた背景がありますが、このようなビジネスへの規制はないか、あっても機能していないのが現実です。 そのような中で、まだインターネットなどない、家庭用電話すら十分に普及していなかった時代に制定された旅館業法の立法趣旨・立法事実から紐解いて、改めて規制のあり方を考えてみたいと思います。


  •   旅館業法の立法趣旨


今からおよそ70年以上前の昭23年に制定された旅館業法であるが、宿泊ビジネスとしてはもっと昔からあったといえる。このような旅館業法の立法事実や立法趣旨を検討するにあたって昭和23年通達が参考になると思います。

「旅館業法…これら多数人の集合出入りする場所の衛生上の取り締まりは、公衆衛生の見地からすこぶる重要な事項であり」

と記載されていることから、①多数人が集合出入りする場所であって、その場所の取り締まりに関しては、②公衆衛生の見地がすこぶる重要ということがわかります。

①たしかに、旅館は一般的に多数人が同時に宿泊することができる施設であることが多いです。

②公衆衛生とは、一般的な法律によく出てくる用語ですが、こと旅館業法に関しては、特定の事象を想定していたと考えられます。 当時は結核をはじめとする感染症が流行していたため、その感染拡大を阻止するための方策が必要でした。これと歩調を合わせるように結核予防法が昭和26年に制定されており、旅館業法の「衛生上の取り締まり」「公衆衛生」の真意は、結核をはじめとする感染症予防にあることは明らかでしょう。その証左として、旅館業法第5条第1号には宿泊を拒むことができる例外事由の一つ目として、「伝染性の疾病」が規定されています。

この背景事情をもとに旅館業法の目的と規制内容を見てみます。


  •   旅館業法の目的


旅館業法の目的(第一条)には、主に以下のように定められています。

①旅館業の業務の適正な運営の確保

②旅館業の健全な発達を図る

③利用者の需要の高度化及び多様化に対応したサービスの提供の促進

④公衆衛生及び国民生活の向上に寄与

当然ですが、「旅館業」の適正運営と健全な発達、そして「利用者」つまり「国民」の需要に対応したサービス提供と「公衆衛生」とが謳われています。


  • 現状の規制内容

ここまで見てきた立法事実や目的といった背景から分かるように、旅館業法における「旅館」とは

①多数人の集合出入りする場所

②多数人を同時に宿泊させる場所

③多数人が集合出入りすることから感染症等の予防が必要な場所

という要素が必要であると考えられます。


旅館業法では、上記目的のもと、「旅館」に対して規制がなされています。

①許可

②宿泊者名簿の備え置き

③構造設備の維持


とこのような規制があるわけですが、実際の運用は都道府県が行っており、法執行の現状

仮にシェアリングエコノミーにこのような規制を適用するとしても、エンフォースメントができない、到底現実的ではない、という問題があります。


  • シェアリングエコノミーとは

民泊やAirbnbに代表されるような、個人宅や民家を貸し出すシェアリングエコノミーについて考察してみます。


以上から、シェアリングエコノミーが想定している貸し出す「モノ」はもはや「旅館」ではないことが明らかです。

個人宅は旅館にはなりえないため、法律上も旅館に該当する、というあてはめは不正確です。

とはいえ、何も規制がないとなると、利用者の需要に対応することや利用者の安全を確保することが難しくなります。


  •  あるべき規制へのアプローチ

では、シェアリングエコノミーで対象とされる「モノ」に対して、どのような規制が考えられるでしょうか。

ここでの必要な規制を考えるにあたっては、旅館業法の目的との共通点と相違点を意識する必要があります。


旅館業法の規制内容である①許可制は、旅館を営業する事業者が取得すること想定しており、個人が取得することを想定していません。許可にあたっての判断要素は、構造設備、公衆衛生、そして犯罪の前歴がないことです。公衆衛生は前述のとおり、感染予防の観点から旅館には必要ですが、せいぜい数人を泊める場合には大きな考慮要素とはならないはずです。③構造設備の維持に関しては、そもそも個人宅は「旅館」の要件を満たしていないので、この規制は不要です。現に人が住めないような場所でない限り、居住用の空間であれば構造設備として十分だと思います。住んでいるマンションに友人数人を泊める際に、一定規模以上の広さを要求するのは不合理でしょう。

②宿泊者名簿は、誰を泊めたか、犯罪者や反社会的勢力に関係する者を泊めてないか事後的にチェックできる体制が必要なのでこの規制はシェアリングエコノミーにおいても必要です。

ここで新たに出てきたのが、犯罪の前歴がないことが許可にあたって考慮されていることです。これは旅館業法違反者を業界から排除するための要件であり、旅館業に限らず、シェアリングエコノミーにおいてもこのような悪い人は退席してもらうのは必然でしょう。


以下、別の視点から少し整理してみます。

旅館業法と比較すると分かりやすいと思うので、旅館業の許可を取得する段階で考慮されるべき事項(A)と、許可取得後、旅館として稼働する段階で考慮されるべき事項(B)とに分けて考えます。


1. 共通点

①本人確認制度(A)


本人確認は、インターネット上での個人情報の登録時において要求されることも多くなっており、いまや当然のようになってきました。旅館業法には「宿泊者名簿」の備え置きが要求されていますが、名前と住所と職業をその場で書いてもらうことにどこまで正確性があるのでしょうか、仮に嘘の記載をしても旅館側は気づかないのではないでしょうか。この観点からいうと、例えばAirbnbはパスポートの写しを要求しています。もちろん偽造や虚偽の可能性は排除できませんが、単に宿泊場所で本人確認書類を確認せず、アナログで記載してもらう場合とパスポートの写しを要求される場合とでどちらがより厳格でしょうか。


②税金(B)


旅館業にかかる税金は、許可の有無を問わないので、シェアリングエコノミーにおいても、事後的にお金で解決する、というのは既存業界にも納得感があるのではないでしょうか。むしろここは、既存業界と平仄を合わせる必要があると思います。

基本的には申告ベースでの課税にならざるを得ないので、シェアリングエコノミーを提供するプラットフォーム事業者があらかじめ徴収してまとめて納税する、という運用スキームもありうるかもしれません。そうするとプラットフォーム事業者の負担が増えますが、決済処理と納税申告時の手間だけなので、(実作業の内容を想定できていませんが)現実的には対応可能ではないでしょうか。あるいは貸す側の人が申告するためのフォーマットを用意してあげると親切でしょうか。


2. 相違点


③犯罪履歴の照会(A)


犯罪履歴の照会は、警察の協力が得られない限り自己申告になってしまいますが、旅館業の許可を取得する際に提出する申請書の中にも、誓約書があるため、自己申告で宣誓するという意味では同じです。ただ、誓約する相手方が都道府県なのかプラットフォーム事業者なのかという違いかと思います。貸す側の人にとってはさしたる違いはないでしょう。


④保険制度の創出(B)


利用者の安全を確保するという観点では非常に有益な制度だと思います。Uberのように社会経済的にも大きな影響力を持つ企業であれば通用して納得感も得られそうですが、特に保険については一定数以上のデータがないと保険会社としては商品設計が難しそうです。そこで、プラットフォーム事業者が自ら保険や補償を提供することが考えられますが、実は保険業者にとっても新規開拓できる市場なので、参入してくる業者は一定程度いるのではないでしょうか。


  • まとめ

現行の旅館業法も既存の業界においては、それなりに合理的な役目を果たしていると考えます。しかしながら、それは伝統的なホテルや旅館に対してのみ適用されるべきものであり、Airbnbのようなプラットフォーム事業者と、自宅や空き部屋を貸す人、借りる人という関係者がいる中に伝統的な旅館業法を適切に当てはめることは困難です。それぞれが果たすべき役割の中で適切な規制やルールを定めていくことが最重要と考えます。つまり、事前に貸す側の人だけ許可を取得するのでは不十分でもあり、不公平でもあるので、事業者に求める事項、貸す際に求める事項等、全ての関係者に適用されるような設計が必要と考えます。それが旅館業法の改正によりなされるのか、シェアリングエコノミー法を新たに制定するのかわかりませんが、2016年に一定の方向性が見えてくるのを楽しみに待ちたいと思います。

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