コバルト編集部ブログ

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みなさまごきげんよう&あけましておめでとうございます




新年早々校了にいそしむ間に、気づけば東海大仰星が勝ったり帝京が勝ったりパナソニックが勝ったりしているわけですが、みなさまはいかがお過ごしですか。

先週の秩父宮第2試合、後半40分のホーンが鳴った後の東芝のトライにはしびれましたねえ。

まあ(て)の贔屓チームは日本選手権を逃したわけですが( ̄ー ̄;

あ、あと神戸製鋼のエリス選手おもろいね。




さてそんなわけでコバルト文庫2月刊と雑誌Cobalt3月号の校了は無事終わりました。




コバルト文庫2月刊全4冊は1月29日発売。




本日は『炎の蜃気楼昭和編 無頼星ブルース』のためし読みをご紹介




なお、残り3冊のためし読みはWebコバルトのほうで読めますのでどうぞよろしくお願いしますm(_ _ )m




編集(て)



『炎の蜃気楼昭和編 無頼星ブルース』
(桑原水菜 イラスト/高嶋上総)





 廃屋となった工場跡には隙間風が吹いている。

 剥き出しになった鉄骨と錆びた機械が放置してある他は、きわめて殺風景だというほかない。割れたガラスから冷たい風が吹き込んでいる。その風を避けるように、ふたりは階段の下に身を潜めていた。

 消毒用アルコールの瓶が転がっている。

 夜も更けてきた。

「……いま何時だ。直江」

 問いかけたのは、景虎だった。

 その隣に座り込んでいるのは、直江だった。胸から腹にかけて包帯が巻かれ、わずかに血が滲んでいる。腕時計を見た。文字盤のガラスにひびが入っていたが、針はかろうじて動いている。

「一時五十分……」
「……今夜も宿無しか。みじめなもんだな」

 苦笑いして、湿気った煙草を口にくわえようとしたが、敵に見つかってはいけない、と思い、火をつける前に箱に戻した。

「傷はどうだ」
「自分で縫いましたから、化膿さえしなければ、じきに」
「診せてみろ」

 触れかけた景虎の手を、直江が払った。景虎は行き場をなくした手を、革ジャンパーのポケットにねじこんだ。直江は包帯の上から腹の傷に手を当てた。

「………。こうやって、私たちはまた帰る場を失っていくんですね」

 景虎は何も言わない。ただ殺気を秘めた眼差しで、割れたガラスの向こうを睨みつけている。街灯の明かりに廃工場の埃が舞う。遠くでパトカーのサイレンが聞こえた。

「未練か? 全部わかっていたことだ」
「わかっていた……? いいえ、あなたはわかってなんかいなかったんです」

 直江は肩で笑い、痛む傷を押さえた。

「家族も友も殺されておきながら、あなたは朽木を殺せなかった。もう二度と元には戻らないものを修復できるなんて信じたあなたの甘さが」
「黙れ、直江」
「死者になど思い入れた、報いなんだ」

 景虎が直江を睨みつけた。その目は暗く煮え立っている。額には深い傷跡が残り、青白い頬はこけ、血色を失った唇はがさがさになっていた。

「おまえに理解されたいとは思わない」

 ――俺は朽木慎二のままでいたい。

 ――助けてくれ、加瀬。おまえだけが頼みなんだよ!

 押し殺した景虎の声は、凍えたように震えている。

「理解できるとも思わない」
「したいとも思わない。こんな状況で、この期に及んで、まだ人を信じようなんて思えるあなたの神経が」

 直江は冷ややかに言った。

「私には理解できない」
「それだよ、直江。それがおまえの弱さだ。オレを批判していれば、おまえは役目を果たした気分になれるんだろうが」

 景虎は折り曲げた膝に、肘を載せて、遠い目をした。

「そうやって人を責めていれば、自分の無意味さから目を背けていられるんだろうよ」

 だが、あからさまな景虎の示威にも、直江は反応しない。ただ冷ややかに、心底寒気がするような眼差しで見つめ返すだけだ。その目の奥に屈辱を浮かべながら、ぶつけるのではなく、ただ黙って呑み込んで呪わしげな眼差しを向けてくる。

「………。どうした。罵るのがおまえの仕事なんだろう。反論してみろよ」
「私があなたに期待するのは、今となってはもう、冥界上杉軍の大将として使命を全うすることだけです」

 直江は無表情で言った。

「私は後見人。それ以上でも以下でもないのですから」

 景虎は疼痛を噛み殺し、壁に頭を預け割れたガラス窓の向こうをまた眺めた。直江も疲労感に負けて、うなだれた。

 どこかで野良犬が吠えている。

 こんなに間近にいても、慰め合うことすらできない心の距離を噛みしめる。

 虚無しかない。声に出せない思いの丈を呑みくだして、互いの気配を感じていることしかできない。

 暖房器具もない廃工場は、しんしんと寒さがつのる。

 そこにある互いの確かな温もりを、刃のように感じるのは虚しい以外のなんでもない。

(息苦しい……)

 それが怪我のせいではないことも、直江にはわかっていた。

 景虎の気配を感じている時間が、こんなに息苦しいと思うことなど今までなかった。

 傷の痛みではない。決してそうではない。直江は血の滲む包帯を掴んだ。

(こんなに長く近くにいても、この人は俺のものには決してならない)

 景虎は割れガラスの向こうを見ている。その少し癖のある黒髪に、街灯の明かりが縁取る。

 直江は闇に溶け込むような背中を見つめている。

(永遠に、ならない)

「………。あなたが今、誰のことを考えているか。当ててみましょうか」

 ぴく、と景虎の肩が揺れた。

 直江は言った。

「美奈子」

 景虎は、何も言わない。

 沈黙したまま、振り返ることもなく、外を眺めている。

 そういう景虎の胸の内だけは、誰よりもわかる自分が、滑稽だと直江は感じた。

 野良犬の吠え立てる声が、やけにやかましい。

 直江は耐えるように、耳をふさいだ。




 本心なんて、気づかなければよかった。

 ずっとずっと、本当はどうしたかったのか、なんて気づかなければよかった。

 決して叶わない、と知ってから、気づく。

 誰かのものになってしまうくらいなら、あなたを壊してしまおうか。

 勝つことも叶わず、手に入れることも叶わないならば、

 心ごと殺してしまうほかない。



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