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6月刊ためし読みシリーズラストを飾るのは、大人気シリーズのこちら



※5月28日追記・昨日の記事のタイトルが「5月刊ためし読み~」になっておりましたが正しくは「6月刊」でした。お詫びして訂正いたします。過去を振り返ってしまった。。。


編集(て)



『鬼舞 見習い陰陽師と囚われた蝶』
(瀬川貴次 イラスト/星野和夏子)



(あらすじ)
呪天事件で多くの陰陽師を失った陰陽寮では、安倍吉平を学生から正式な陰陽師へと格上げする話が出た。吉平は弟の吉昌も一緒に、と主張したが、吉昌は「後進の育成のため」と辞退する。納得の行かない吉平は、道冬たちを特訓し、吉昌の後顧の憂いを払拭しようとするが、新たな敵が現れ!? 一方、渡辺綱とその主・源頼光は、賊を追った先で、記憶を失った美女を保護することになり……?


 賀茂光栄は陰陽宗家・賀茂氏の後継者である。

 陰陽寮における地位はまだ、暦道を講義する権博士だが、いずれは彼の父親がそうであったように寮の長官(かみ)になるであろうと目されている。

 三十代の前半で、風貌からしていかにも実直そうだ。安倍晴明のような華やかさは乏しいものの、周囲から寄せられる信頼においては、けして遜色はない。むしろ実務的な能力においては、彼のほうが優れていよう。

 その光栄が本日の講義の確認をしているところに、吉平が吉昌を引きずって現れたのであった。

「おやおや、これは──」

 苦笑いを浮かべつつ、光栄はふたりの得業生を迎えた。彼らとは赤子の頃からの付き合いであり、兄が弟を溺愛し、弟のほうは辟易していることもよく知っている。

「どうかしたのかな、吉平、吉昌」

 充分な予測はついていたくせに、光栄は知らぬ顔でそう切り出した。

 吉平は勝手に円座の上にすわり、吉昌も自らの隣にすわらせてから用件を切り出す。

「父上からうかがいました。わたしを陰陽師に昇格させる話があると」

 うんうんと光栄はうなずいた。吉昌は初耳だったらしく、

「それはそれは」

 兄に向かって身体の向きを換えると、吉昌は丁寧に一礼をした。

「おめでとうございます。兄上ならば、さぞや優秀な陰陽師となられましょう。──では、わたしはこれで」

 立ちあがりかけた吉昌の袖を引き、吉平は彼を無理やりすわらせる。

「話はこれからだよ、吉昌。わたしが陰陽師になるのならば、吉昌もいっしょでないと」
「いっしょに?」
「ああ」

 吉昌はとまどいに視線を揺らして、光栄を振り返った。

「そのようなお話が出ているのですか?」

 応えかけた光栄の視界に、格子戸のむこうから室内をうかがう道冬がちらりと映った。視線が合った瞬間、道冬はさっと身を隠したが、まだそこにいるのは間違いない。

(つまり、父親から昇格の話を聞いた吉平が、吉昌もいっしょではないといやだと反旗を翻し、道冬の目の前で吉昌を拉致してきたと、はいはい、そういうことだな)

 大体の構図を読み取って、光栄は心の中でため息をついた。

(やはり、吉平は一筋縄ではいかなかったか……)

 わかりきっていた展開を、さあ受け止めてやるぞと自らに言い聞かせ、光栄は何食わぬ顔で口を開いた。

「わたしは、吉昌もいっしょに昇格させてよろしいのではと、あのひとに言ったのだがね」
「それで父はなんと?」

 食い気味に尋ねたのは、吉平ではなく吉昌だった。昇格に関心はなくとも、父親からの評価には無関心ではいられないのだなと、光栄は微笑ましく思いつつ説明する。

「陰陽師としての力量に問題はない。だが、いましばらく、後輩たちと学ばせておいたほうが当人のさらなる成長に繋がるだろうと言っておられたよ」

 吉昌は師の言葉を吟味するように視線を泳がせた。その結果、ある程度の納得はできたように浅くうなずく。

「はい……。わたしはまだ学生として後輩たちとともに学びたく存じます」
「吉昌」

 吉平は傷ついたように弟から身をひいた。

「兄とともに陰陽師にはなりたくないと?」
「そういうことではございません、兄上」

 吉昌は急に大人びた口調になって吉平に言った。

「いずれはわたしも陰陽師になります。兄上とともに、陰陽道から得た知識でひとびとの迷いを断ち切り、魔を退けていく務めにも励みましょう。ですが、いまはまだ学生の身分でやりたいことが残っているのです」
「それはなんなのかな?」
「それは……」

 兄の問いかけに、吉昌はいったん言葉を切った。自らに同じ問いをし、その返事に耳を傾けるように目を伏せる。

 長くは待たせなかった。吉昌は顔を上げ、兄と真っ向から視線を合わせた。

「それは、おのれの未熟さの克服かもしれません。あるいは後輩の育成かも。残念ながら、わたしにも、しかとはわかりかねます。ですが──彼らとともに学ぶことで、得られる何かがまだあると感じるのです。この機会をみすみす失いたくないのです」

 吉平はわずかに眉をひそめて、首を横に振った。

「吉昌は未熟ではないよ。すでに朝廷陰陽師を立派に勤めあげられるだけの力を備えている」
「ありがとうございます、兄上」

 吉昌は心からの礼を述べた。

「いずれはわたしも陰陽師になります。父上や兄上の補佐も務めあげてご覧いれましょう。ですから、学生の身でいるうちは、できることを精いっぱいやらせてください。いましばらく、このままでいさせて欲しいのです」

 固辞する弟に、吉平は哀しげに表情を曇らせた。容姿にも才能にも恵まれ、天才と呼ばれた陰陽得業生が、まるで途方に暮れた小さな童のように見えてくる。

 吉昌の説得は難しいと悟った吉平は、光栄を振り返った。

「ならば、わたしの陰陽師昇格も先送りにしてくださいませ」
「いや、それは。去年の一連の騒ぎのせいで、陰陽師の数も少なくなってしまってだな」
「でしたら、暦道の大春日あたりを代わりに昇格させてください」
「そんな簡単に片づく話でもないのだぞ、吉平。いずれは、おまえたち兄弟が陰陽寮の中心となってだな」

 くどくどと光栄の説得が続くのに、吉平は師の弁を聞く素振りさえ見せない。

「こら、吉昌。おまえからも吉平になんとか言ってくれ」

 音をあげて吉昌に援護を求めても、

「そう申されましても。兄こそ朝廷陰陽師にふさわしい器かと思いますれば」

 と返される。できることなら、この期にうっとおしい兄から完全に独り立ちしたいと考えているのが筒抜けだ。

 光栄は小さくうめいて額に手を当てた。あの父親にして、この息子たちありで、安倍の血統の扱いにくさを彼は改めて実感していた。


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