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2008-09-27 20:16:41

「雨上がりの道を」 第九章 息吹 (了)

テーマ:永遠の少年たちへ

あたりは焼け野原であった。


エイジが戦場に赴いてからたった二ヶ月後に終戦を告げる天皇陛下の玉音放送が流れてから、もうすぐ一年がたとうとしているにも関わらず、相変わらず人々はバラック住まいであった。

街中には引き揚げ兵が溢れ闇市が横行していた。

盗人が、両腕一杯の食料を抱えて、横を走りすぎていく。


学生服姿の義男は、そんな中を一人歩いていた。


空からは小雨が降っていた。

一体あの苛烈な戦争には、何の意味があったのであろう。

お国のためにと、己の夢を犠牲にして散っていった同胞たちの魂は、果たしてこのような未来を望んでいたのであろうか。


東条英機など政府の要人は、極東国際軍事裁判にかけられるという。

おそらく、そのうちの何人かは戦犯として処刑されるであろう。

戦争に負けたから悲劇が起こるのであろうか。


いや、それは違う。


日本が勝ったとしても、米国の要人が処刑されたであろう。

日本軍に多くの死傷者が出たように、米軍にも多くの死者が出たであろう。

勝者も敗者も、多くの死者を出す戦争。


そこには何の価値があるのであろうか。


気がつくと、義男はあの校庭にいた。

そこにあった光景は、義男の顔を一瞬緩ませた。


「エイジ。お前が夢見た、平和な世の中だぞ。」


義男はそう言うと、花壇の前の岩に腰を下ろした。

そしてかぶっていた学帽を脱ぐと、ゆっくりと膝の上に置いた。

校庭では、つぎはぎだらけの服を着た二人の子どもが、楽しそうにキャッチボールをしていた。


飽くることなく、何度も何度も。


義男は、いつの間にか雨がやんだ空を見上げた。


「夏ももうすぐだ、エイジ。」


降り注ぐ日光を右手で遮りながら、義男は思った。

この暖かい光は、遠い空の下にいるエイジにも同じく降り注いでいるであろうか。


「早く帰って来い、エイジ。雨はもう上がったぞ。」


義男はそう言うと、ゆっくりと立ち上がると、校庭の土の感触を確かめるよう、一歩、また一歩と歩き始めた。


雨上がりの道は心地よかった。

その澄んだ空気を胸一杯に吸うと、この上もなく気持ちよかった。

そんな義男の後姿を、雨に濡れた紫陽花だけがじっと見つめていた。


義男はその後、二度とこの校庭にやってくることはなかった。

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