苦闘する日本製造業。今夜は生き残りをかける日の丸半導体メーカー’エルピーダメモリー’を取材。台湾メーカーとの提携に動く坂本幸雄社長に密着。

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エルピーダはDRAMの世界シェア第3位。6位以下の台湾メーカーとの提携を模索していた。台湾は世界有数のデジタル機器生産地。低価格パソコンを製造したのも台湾である。坂本は「安く作る技術を手に入れたい。日本の人件費の高さを吸収するのは技術だけでは無理」と語る。

’産業のコメ’と言われる半導体であるが、DRAM出荷額シェアはひところ70%あったものが10%以下に落ち込んでいる。復活を賭けて設立されたエルピーダメモリはNEC・日立・三菱電機から技術者を送り込んで従業員5800人の会社。プレミアDRAMに投資を集中し日本のシェアは上昇した。坂本幸雄は7年前に社長に就任し、優秀な従業員が誇りだと語るが、今は高性能のプレミアDRAMが売れない。リーマンショック後は安いDRAMばかり売れる状況。

さらに追い討ちをかけたのがドイツの世界5位のメーカー’キマンダ’が破産申告した。この世界は世界3位でも危ないのだ。シェア争いは激烈で1位2位の韓国勢が日台連合つぶしにこないかという心配もあった。

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2月末坂本は台湾に向かった。提携を決めるつもりで行き、総督府のナンバー2と会う。台湾当局の承認は必須の条件であり、坂本も自信を持って臨んだが、承認は得られなかった。坂本も「理由は言えない」と口ごもる。

翌朝ある情報を掴んだ。この提携を阻む勢力があるらしい。それはアメリカの’マイクロンテクノロジー’だった。世界4位のメーカーでアメリカも生き残りをかけて台湾メーカーとの提携を模索していた。

この日、坂本は弱音を吐いた。「最近は意地になって仕事をしているが、限界だなあとおもうこともある。」

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DRAMは携帯電話の中にもある。ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリーといい、エルビータは高性能製品を製造している。しかし世界経済の変化が、欧米向け高性能のものが売れずに、中国・インドなど新興国向けの安いものが売れる時代になった。対応するにはアジアメーカーとの提携が必須なのだ。1位サムスン、2位ハイニックスの韓国勢に対抗するには特に台湾メーカーとの提携が欠かせない。

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台湾は公的資金導入を決めており、当局の影響力が強まったいる。

では国境を越えた提携に国はどう動いたのか?

まず台湾当局は’台湾メモリー’社を設立して、傘下にDRAMメーカーを置き、当局が主導権を握った。当局から来日した交渉責任者の宣さんは「提携の決め手は技術をどれだけ提供してくれるか」だという。技術を提出することは日本の特性が流出しかねないため、日本当局も産業再生法の改正に着手し、国内会社を守りために国会対策をやっていくという。坂本は日本政府のサポートに期待した。「後手後手でやっていると日本の企業はダメになる。」と危機感を募らせる。

台湾から再び交渉責任者が来日、工場を視察し、新たな提案を持ちかけてきた。それは「エルビータに出資したい」というもの。

日本が誇るDRAM技術は微細化の技術。回線の線と線との間は100ナノだ。DRAM開発の責任者五味秀樹取締役はNEC出身。「命がけで仕事している。」と台湾メーカーへの技術移転に難色を示す。坂本から移転プランを策定するよう指示され、先端技術を渡す案、渡さない案の2案作成。先端技術は今でも開発を進めており、台湾に出したくはなかった。しかし経営は苦しく、1700億円の赤字予測が出ていた。

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坂本は政府を訪問するが、まだ法整備は整っていなかった。技術移転は止むなしと考えるようになっていた。

五味さんが上京し、坂本との交渉開始。移転しない案は坂本がうなづかない。移転案を採用する坂本に、五味は「辞めてください」ということですか?と食い下がるが、坂本は譲らない。五味は「論理的に頭とカラダがついていかない。」と嘆く。坂本は「今のままだったらエルビータは残らない。技術も残らない。」と説得。

こうした経緯の後に、坂本は台湾当局に技術移転を伝え、当局からもエルビータと提携を進める旨の連絡が入った。

詰めの段階に入り、台湾経済部を訪問した坂本。ある一行を待っていた。それは日本の経済産業省の高官だった。この段階で坂本は経済産業省の出方を知らされていなかった。

政府は公的資金でエルビータを支援することを表明。法律が成立していない段階での異例の措置だった。木村審議官が出てきて、当局同士で話し合うことになったのだ。

しかし今も提携交渉は続いている。

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公的支援は 台湾当局→台湾メモリー→200億円→エルビータ

        日本政府→政策投資銀行→300億円→エルビータ

の図式となり、緊急避難措置として行なっている。

リーマンショック後、アメリカのGM支援を初めとして、国により自国企業を支援する動きが世界中に広まった。

しかしこれは一時的なもの、エルビータもわかっており、今後は両面作戦(低価格もの、高性能もの)で克服していかないと立ち行かなくなると考えている。

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最後に鎌田キャスターが坂本社長を訪問。

鎌田「世界の動きでもあるが、政府資金を受けることをどう思うか?」

坂本「世界の政府が支援しているのでルールの違う戦場で戦っては勝てない。企業がつぶれたら何も残らない。」

鎌田「展望はあるのか?」

坂本「差別化を図っていく部分を明確にしていかないと厳しい。過去の成功体験に囚われていてはダメで、悪いときに必死になって努力することが次の飛躍の土台になる。」

エルビータとはギリシャ語で「土台」という意味である。