スコティッシュ・フォールド | 多摩川のふもとで犬や猫と暮らしている

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動物病院 EL FARO 院長が日々の診療の中で考えたことや思いついたことを書いています。

内容は、動物や獣医療に関することや、それ以外のことも、色々です。

今日はちょっと真面目な話を書きます。

スコティッシュフォールド(以下「スコちゃん」)という品種の猫がいます。猫好きの方はご存知だと思いますが、ご存じない方はこちらを参考にしてみてください。

このwikipediaの写真にもあるように、丸顔で耳が折れ曲がっていて、とても可愛い猫さんです。この「折れ耳」という特徴が変わっているのに加え、性格もおとなしくて人懐っこいので、最近(以前からですが)とっても人気のある品種です。

このところ立て続けに、スコちゃんの診察をしましたが、非常に気になることがあります。上記Wikipediaの文章から一部引用すると…


特有の同型接合性障害

折れ耳を作る遺伝子(Fd)は、通常の猫の立った耳の遺伝子(fd)に対して優性であり、耳の折れたスコティッシュフォールド同士で交配するとほぼ100%耳の折れた子猫しか生まれないが、しかし、この折れ耳同士の組み合わせで生まれた子猫のほとんどは同型接合性障害の為に成長と共に骨瘤や心臓病、重度の内臓疾患などを発症する為、折れ耳同士や血統が近い猫同士での交配は回避されるべきである。
しかし、前述のように折れ耳が立ってしまったり、折れ耳遺伝子を持っていても生まれつき折れの弱い個体を立ち耳だと勘違いした場合や折れ耳の子猫の方が市場価値がある為、また飼い主の同型接合障害についての無知の為に折れ耳同士の交配が多く行われているのが現状でもある。
そのような事情から健康な繁殖の為にスコティッシュフォールドの交配では、折れ耳のスコティッシュフォールドと、立ち耳のスコティッシュフォールドもしくはアメリカンショートヘア、ブリティッシュショートヘアの「折れ耳と立ち耳」のペアで、なおかつ交配する親のスコティッシュフォールドは「折れ耳と立ち耳」の子で血統が出来るだけ遠い猫同士であることが、障害を出来る限り回避するために推奨されている。
同胎の兄弟猫の3分の2以上が折れ耳であったり、子猫の段階で尻尾が太かったり短かったり動きが滑らかでない場合は、尻尾や脚の関節や指を触るなど観察をし、同型接合性障害についての注意が必要である。
なお折れ耳同士のオスとメスを飼う場合には去勢や避妊手術を行う必要がある。



というように、この品種の交配/繁殖は、正しい知識が無いと非常に難しく、気をつけないと遺伝的な障害を持った可哀想な猫さんを生み出してしまうことになるのです。

下のレントゲン写真は、つい先日来院したスコちゃんの後ろ足を撮影したものです。踵(飛節)から足根骨~中足骨周囲の骨が増殖して変形し、全体に足が太く短くなっており、関節は曲がらずに固定された状態になってしまっています。こういう状態を「骨瘤」と呼び、強い痛みを生じます。足だけではなく、背骨や尻尾の骨に同様の変化が出る場合もあります。
この写真の子は足が痛くて殆ど歩けない、という状態でしたが、他にもワクチン接種などで来院したスコちゃん(普通に歩き回っている)の足を触ってみると「骨瘤」が出来始めている、というケースも何例かありました。








決して断言することは出来ませんが…このような酷い骨瘤が出来てしまうスコちゃんというのは恐らく、「折れ耳」どうしの交配で産まれた可哀想な子、という可能性が非常に高いと思われます。

「折れ耳」×「立ち耳」の交配で産まれた「折れ耳」のスコちゃんでも骨瘤が生じる可能性がある、とは言うものの、やはり「折れ耳」の両親から産まれた子に見られる骨瘤の方が圧倒的に重症化することが知られています。

特にペットショップなどで、両親の情報が全く判らない状態で売られている子の場合は…やはり要注意と考えざるを得ないでしょう…しかしそれ以前に問題なのは、このようなことを全く知らないで自家繁殖させてしまう一般の飼い主さんが結構いらっしゃる、ということです。スコティッシュフォールドに限らず、犬でも猫でも一般家庭での自家繁殖はお勧め出来ませんが、特にこの品種は注意が必要です。

皆様にお願いです。スコティッシュフォールドの安易な繁殖は絶対にしないでください。

それから、「これからスコティッシュフォールドを飼いたい」と考えている方がいましたら、是非「立ち耳」のスコちゃんを飼ってみませんか?
「せっかくスコティッシュを飼うのに、耳が立ってたら意味が無い」と言われるかもしれません。しかし、上記引用文にも書かれているように、健康な「折れ耳」スコちゃんを生み出すためには、「折れ耳ヘテロ」のスコ×「立ち耳」のスコ、もしくはアメリカンorブリティッシュショートヘアを交配して、「折れ耳ホモ」の個体が産まれないようにする必要があります(「ホモ」とか「ヘテロ」などの遺伝用語の説明はここでは割愛します。悪しからず)。すると必然的に、半数は「立ち耳」のスコが産まれて来るということになります。ペットショップなどの市場に出回るのは「折れ耳ヘテロ」のスコちゃんですが、当然ながらこれと同数の「立ち耳」スコちゃんが産まれている筈です…彼らはどこに行ってしまうのでしょう??

「立ち耳」スコちゃんを飼う、と言うことは、スコの健全な繁殖に貢献している、ということの意思表示でもあります。スコ好きならばなおさらのこと、「立ち耳のスコちゃんを飼う」と言うことの意味とその素晴らしさを是非理解して欲しい…と思います。