文学どうでしょう

書評家・文学ライター、立宮翔太の読書ブログ。


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戦争と平和〈1〉 (岩波文庫)/トルストイ

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レフ・トルストイ(藤沼貴訳)『戦争と平和』(全6巻、岩波文庫)読み終わりました。Amazonのリンクは1巻だけを貼っておきます。

『戦争と平和』は文学に興味のある方も、そうでない方も知っているであろう世界文学の金字塔です。いつか読んでみたいと思っている方もたくさんいらっしゃるだろうと思います。

長い作品ですので、一気に読もうと思わずに、毎日少しずつ読んでいくのが読破のこつですよ。

10ページとか20ページでも大丈夫です。物語の感覚を忘れない程度に読み続けるとよいと思います。

3巻くらいからかなり面白くなります。なぜ面白くなるかはあらすじのところでまた触れますね。

ロシア文学ファンは、どうやらドストエフスキー派とトルストイ派に分かれるようです。

ドストエフスキーはドストエフスキーですごく面白いですが、ぼくは断然トルストイ派なんです。

ドストエフスキーの小説に出てくる登場人物はとてもぎらぎらしていて、テーマや思索も深く、重い感じです。

そうしたキャラクターの思索などは興味深いですが、物語の筋に引き込まれたり、感情移入をしたりという感じではないんです。

一方トルストイの小説は、なによりストーリーがすごく面白いんです。感情移入がすごくしやすい。夢中になります。

トルストイの小説の登場人物もわりと思索的なキャラクターは多いんですが、わりと分かりやすい思索なんです。

ぼくらも生きていて、悩むことはよくありますよね。ささいな人間関係のジレンマに苦しめられたりなど、人それぞれの悩みがあると思います。

トルストイの小説のキャラクターも思い悩むんです。思い悩んで苦しんで、そうしてどう生きていくべきかの答えを探していく。

そこにすごく共感できますし、なによりいつの間にか勇気づけられるところがあるんです。

ドストエフスキーのキャラクターの思索が深く重く、神の存在についてなど、どこか日常生活を超えたところにあるのに対し、トルストイのキャラクターの思索はぼくら読者に寄り添ってくれる気がします。

考えるための考え、考えて出てくる考えではなく、ありふれた生活から見えてくる道を迷いながら求めていく感じです。だからぼくはトルストイが好きなんです。

『戦争と平和』もかなり面白い小説ですが、おすすめしづらいポイントがいくつかあります。そのポイントに触れる前に、おすすめの小説をあげておきます。

トルストイはやはり『アンナ・カレーニナ』が抜群に面白いです。こちらは読みやすいですし、ぼくはリョーヴィンが大好きなんです。

詳しくは『アンナ・カレーニナ』の記事を読んでいただけると嬉しいです。

あと読んでいて連想していたのは、マーガレット・ミッチェルの『風と共に去りぬ』です。

この『戦争と平和』に影響を受けたとも言われる『風と共に去りぬ』は、よりメロドラマな感じが強く、そちらもかなり面白い作品になっています。

アメリカの南北戦争が舞台なんですが、スカーレット・オハラというかなり強気なヒロインと伊達男レット・バトラーがぶつかり合いながら、愛し合う姿に胸打たれます。

物語の構造として『戦争と平和』と『風と共に去りぬ』はある程度似ている部分があります。

どちらも戦争が描かれていること、そして恋愛が重要な部分をしめること。『風と共に去りぬ』には、スカーレット・オハラ、『戦争と平和』にはナターシャという魅力的なヒロインが登場すること。

ただ、『風と共に去りぬ』は登場人物がわりと絞られていることがあって、スカーレット・オハラから見たレット・バトラーあるいはアシュリーの像さえつかめばいいんですが、実は『戦争と平和』には主人公といえる人物がいないんです。その分、感情移入なんかはしづらい部分があります。

おすすめしづらいポイントの1つめは、まさにそこにあります。主人公がいないというよりは、主人公が複数いる感じなんです。もちろんそこがこの作品の大きな魅力になっているんですが、若干読みづらい部分があります。

もう1つは、戦争が舞台になっていること。戦争を描いた小説が好きな人はよいですが、特段好きでもない人は、そういった部分で若干苦労するかもしれません。

トルストイの歴史観なんかもかなり出てきます。こちらも1人の人物から見た戦争の風景ではないので、複眼的に描写されているのが、読みづらさに繋がってしまうおそれがあります。

ぼくは今あえてデメリットのように書いてますが、短所は逆に長所になるものでして、まさにそこにこそトルストイの小説の面白さがあるとも言えます。1人の人間の枠におさまらない物語。壮大で、雄大で、感動的な小説です。

作品のあらすじ


物語の中心人物をまず男性から、ぐっと絞ると3人です。アンドレイ・ボルコンスキー、ピエール・べズーホフ、ニコライ・ロストフの3人。女性をぐっと絞ると、ナターシャ、ソーニャ、マリアの3人になります。

中でも、ナターシャというのが、この壮大な物語のヒロインになります。

1巻では、迫り来る戦争の影が見え隠れする中、パーティーのようなものが開かれたりもします。ロシアにはそれぞれの名前の日があったりするらしいんです。ここでの戦争とは、フランス軍との戦いです。あの有名なナポレオンが、ロシアに遠征しに来るというんです。

ばーっとたくさんの登場人物が出てきて、もう誰が誰だか分からないと思います。まあある程度分からなくても大丈夫です。1巻はある程度流しながら読んでもいいんです。

1巻で出てくるナターシャは、あふれるような魅力はありますが、まだ少女です。ナターシャは重要な人物ですので、注目しながら読んでみてください。ナターシャのお兄さんがニコライ・ロストフです。ニコライは戦争に行こうと思っています。

幼い恋が描かれたりもします。ナターシャにも初恋の相手がいますし、兄のニコライ・ロストフは、遠縁でロストフ家に引き取られているソーニャとお互い想いあっています。

ロストフ家は貴族なんですが、実は破産しかかっているんです。収入以上にお金を使ってしまうから。豪勢な生活が当たり前になってしまっているので、浪費が止まらないんです。そこで、ニコライの奥さんとしては、持参金のたくさんある令嬢が望ましい。

ソーニャは持参金がない娘ですから、ニコライはソーニャと結婚したくても周りが許さないんです。ニコライとソーニャは物語の重要なカップルになります。

物語の中核をしめる人物として、アンドレイ・ボルコンスキーが登場します。アンドレイはある野望を持って戦争に行きますが、色々なことがあって、ある考えに至ります。アンドレイも重要な人物になってくるので、覚えておいてください。

アンドレイは、妊娠した奥さんを置いて戦争に行くんです。子供を産んですぐ奥さんは亡くなってしまいます。この子供の面倒を見るのが、アンドレイの妹マリアです。

マリアは父親と一緒に暮らしてますが、この父親がマリアに冷たくあたるんです。容貌もそれほどよくないから、自分はこうして結婚もせずに、ひっそりと生きていくんだと心に決めています。

そしてもう1人の重要な人物が登場します。アンドレイの親友で、ピエール・べズーホフという人物。このピエールは、ある程度『アンナ・カレーニナ』のリョーヴィンに似ているところがあります。

平凡に生きてきたピエールの人生は突然大きく変わります。ピエールは伯爵の私生児だったんですが、伯爵の死に伴って、身分と莫大な財産、そして美貌の妻も手に入れます。ところがそれで人生が満ち足りたかというと、決してそうではないんです。

ピエールは様々の事柄に思い悩みます。奥さんと中々うまくいかないんです。奥さんは社交界ですごく認められた存在なんですが、浮気をしているという噂もあったりします。ピエールはフリーメーソンの組織に入り、自分の進むべき道を求めていきます。

ここまで大体、大丈夫でしょうか。ナターシャとニコライ・ロストフが兄妹で、ニコライと想い合っているのが遠縁にあたって、ロストフ家に引き取られているソーニャです。そして、アンドレイ・ボルコンスキーとマリアが兄妹です。そして突然身分が上がったピエール・べズーホフ。

この辺りの人間関係が『戦争と平和』のメインになります。

ナポレオンが攻めてきて、物語の登場人物たちはそれぞれ戦争に向かいます。物語は3巻くらいからぐっと面白くなります。ナターシャが大人になるからです。ナターシャが大人になって、求婚者が現れる。それが誰かを書いてもいいんですが、物語の展開上、若干ネタバレになるおそれがあるので伏せておきます。

ナターシャは恋に落ちて、結婚を決意しますが、相手の男性の父親が猛反対するんです。そこで、一年の間、様子を見ることになります。その間2人は離れ離れ。ナターシャは一途に相手のことを想い続けます。ところがある時、魅力的な男性に出会ってしまいます。揺れるナターシャの心。

ストーリーラインの紹介はこの辺りにしておきますね。ナターシャが誰と結婚するか、どのように成長していくかというのが物語の大きなテーマになるんです。

ニコライ・ロストフとソーニャの2人は結ばれるのか? ピエール・べズーホフは自分の進むべき道が見つかるのか? 静かに暮らすマリアに幸せは訪れるのか? そしてナターシャは愛をつかむことができるのか!?

戦争を舞台に、いくつかの貴族の一族の生活と恋愛を描いた物語です。登場人物が複数いることがある種の読みづらさに繋がっていますが、それだけに壮大なスケールの物語になっています。

なによりナターシャですね。ナターシャは、すごく魅力的なキャラクターです。うまく言葉にできないんですが。途中ナターシャの心は揺れます。その結果、大きなものを背負っていかなければならなくなるわけですが、それはおそらくナターシャがまだ成長しきってないからなんですね。

物語全体を通してみると、いかにナターシャが変わっていくかが分かります。そうした変化があるところが、『アンナ・カレーニナ』の主人公アンナと違うところです。

ナターシャが大人になってからは抜群に面白くて、ぐいぐい読んでいけますので、ちょっと3巻くらいまではがんばって読んでみてください。わーっとたくさん登場人物が出てきますが、アンドレイ・ボルコンスキー、ピエール・べズーホフ、ニコライ・ロストフ、ナターシャ、ソーニャ、マリアの6人をおさえておけばなんとかなります。

それでも覚え切れないという人は、アンドレイ・ボルコンスキー、ピエール・べズーホフ、ナターシャの3人だけでもせめて。アンドレイとピエールです。名前だけでも覚えて帰ってください。

岩波文庫だと、前巻のあらすじと登場人物表、コラムなんかも入ってます。すごく読みやすくていいですが、登場人物表はあまり読まない方がいいです。特に6巻のナターシャの項目は読まない方が吉です。わりとナターシャがどうなるか書いてしまっているので。

ドストエフスキーの時も同じことを書きましたが、『戦争と平和』を読みたいけれど、長くて読めるかなあと不安になっている方。こんな長い記事を読んでくださるくらい根気があるなら、絶対大丈夫ですよ! 最後まで読んでくださってどうもありがとうございます。1人でもトルストイ好きが増えることを祈りつつ。立宮翔太でした。
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