2015年。アメリカ。"ME AND EARL AND THE DYING GIRL".

 アルフォンソ・ゴメス=レホン監督。ブライアン・イーノ、ニコ・マーリー音楽。

 映画オタクの少年二人と白血病で死につつある少女との半年くらいの交流を描いたヤングアダルト小説(邦訳なし)を原作にした物語。フォックス・サーチライト版の『世界の中心で愛を叫ぶ』みたいな雰囲気もある。

 しかし、この作品の面白いところはロマンティックになったりセンチメンタルになったりするのを極力排除しようと努力している点にある。主人公役のトーマス・マンのすっとぼけた独白がそれに貢献している。そして驚くべき点は映画を見ることは人生に何の役にも立たないどころか百害あって一利なしという隠された主題の存在である。実際に物語の上では白血病で瀕死の少女を映画が殺す結果をもたらしてしまっている。おそらく原作は平凡なものだったのだろうが、監督の映画への愛憎が奇妙な不協和音を物語に与えているような印象がある。

 

 男二人に女ひとりという設定から連想されうる恋愛の要素は完全にゼロなのもすごい。約半年間の友情と別れの物語だったが、エモーショナルな演出を排除した結果、あっさりし過ぎな物語になってしまっていると思う人が多いのかも知れないが、このくらいがちょうど良いように見える。主人公グレッグの友人で映画の共同製作者でもあるアール(RJ・サイラー)の出番が少なすぎてキャラクターが不鮮明で存在感が薄かったり、スクールカーストの描写が紋切り型過ぎる、もっと効率よくキャラクター描写が出来なかったのかと思うところが多々あるなど欠点の目立つ作品だが、嫌いにはなれない要素が多すぎる。

 

 主人公のグレッグ(トーマス・マン)は自主映画製作が趣味で、古今東西のクラシック映画のパロディみたいな作品を大量に製作して自作のDVDパッケージに収納している。そのパロディ映画がちょこちょこ出てくるのが楽しい息抜きになっている。判別できた限りでは、ゴダールやコッポラやキューブリック、ベルイマン、ヴィスコンティ、カルト映画の『血を吸うカメラ』や『真夜中のカーボーイ』や『ミーン・ストリート』、『ブルー・ベルベット』、『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』などが数秒間登場する。グレッグのベッドの横にはトリュフォーの『大人はわかってくれない』のポスターが貼られていて、映画編集に使っているマックブック(WindowsNotePCだったかも知れない)の待ち受け画面にも『大人はわかってくれない』の撮影風景が使われている。優等生的な映画マニアという設定である。

 

 グレッグが通っている映画マニア向けのDVDショップが現実にこういう店があったら通い詰めるだろうと思われる素晴らしさで、店内の雰囲気が1990年代にあちこちにあったアナログレコードの店に似ており、当時を懐かしく思い起こしたりした。

 父親(ニック・オファーマン、何かの映画で見た顔だが思い出せない、大学教授らしい、若いころにロック好きでオールマン・ブラザーズバンドのグレッグ・オールマンの名前を息子に与えている)や高校の歴史教師(ジョン・バーンサルが怪演)の影響でグレッグがヴェルナー・ヘルツォークの映画ばかり見ているのもおかしい。ヴェンダースでもファスビンダーでもなくヘルツォークなのが2010年代のリアリティなのかも知れない。

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 もともと特に親しかったわけでもない白血病のレイチェル(オリヴィア・クック)と友だちになったグレッグは、クラスメイトの巨乳美女のマディソン(キャサリン・ヒューズ)の提案でレイチェルのための映画を作ることにする。グレッグはなぜかマディソンにプロムに誘われる。マディソンという女性は物語の冒頭から絡んできて原作では重要なキャラクターだったのかも知れないが、映画の上ではグレッグとの関係に謎が多く、省略されているのだろう。

 プロムの日にタキシードを着てリムジンに乗ったグレッグはマディソンを迎えに行くのかと思ったら、レイチェルが入院している病院に到着する。余命数日と思われるレイチェルに編集作業中のラッシュを見せていると、レイチェルの容体が悪化してそのまま彼女は息絶える。

 レイチェルが死んでからがグレッグの成長物語で、墓場の下からレイチェルが各方面へ送ったメッセージのおかげで無事に大学進学することになったグレッグは、生きている間は知らなかったレイチェルの豊かなパーソナリティを発見していく。ややセンチメンタルに描かれるそれらのエピソードはレイチェルとは映画そのものでもあったのだというロマンチックな物語になってしまっている。

 センチメンタルとロマンチックに逆らうと冒頭で主人公が宣言しておきながらこれでは台無しではないか、と裏切られた気分になりそうな所をブライアン・イーノとニコ・マーリーの無機的な音楽がクールダウンさせてくれる。

 映画は百害あって一利なし、しかしそれでも俺は映画が好きなんだ、みじめにむごたらしく死んでもかまわない、俺は映画を選ぶよ、というスタッフの魂の叫びが聞こえたような聞こえなかったような、ちょっときれいにまとめ過ぎた気はするものの、余韻を残さないぶつ切りの終わり方は気に入った。