★ 『百万円と苦虫女』

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2008年。「百万円と苦虫女」製作委員会。
  タナダユキ監督・脚本。
 いろいろと違和感を感じながらも、忘れられない映画となった『赤い文化住宅の初子』 に続くタナダユキ監督作品だったが、この映画にはあまり前作のような違和感はなく、演出に洗練されたものさえ感じるところがあった。
 エンディングの曲が『赤い』はUAだったのが、今回はクラムボンの原田郁子になったことに比例しているようにも見えた。

 この作品の方が前作よりすぐれたものになっているのだろう、という気はしたが、どちらもあまり好きにはなれない作品ながら、『赤い文化住宅の初子』のほうが衝撃度の大きさでは勝っているので多少は好ましく感じる。
 しかし、鈍感ささえ感じる部分もあった前作と比較すると、こちらの演出の切れ味は鋭くなっている。

 社会にひそむ暴力に対する感受性の素晴らしさは相変わらずさえていて、小学生の弟がいじめられる描写にも、『死にぞこないの青』と比較すると、こちらの方がより生々しく、今どきの子どものいじめ方はこういうものなのだろう、と思わさせられた。

 ちょっと日本でロードムービーを実現しようと試みたような、前半の行き当たりばったりの放浪の旅の過程が面白かったので、そのまま続くのかと思ったら、そのままだったら何時間かかるのかわからない状態になってしまうこともあるのか、森山未來の登場とともに物語のトーンが変わったような印象があり、そこからちょっと大急ぎで物語の結論みたいなものへ進んで行ったような感じがした。

 何か大きなかん違いをしているのかも知れないが、後半の部分に何となく詰めの甘さがあったような気がする。
 現実の世界とそのままつながったままに終わったような『赤い文化住宅の初子』に対して、こちらはファンタジーみたいなものに見えてしまったのは、森山未來が実は善意の人物だったと説明される部分にしらけたからかもしれない。
 しかし、主人公の鈴子が、森山未來が善意の人物だとは知らないままに、視線を交わらせることもなく街を去ってゆく姿にはすがすがしさがあった。
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映画の感想文日記-hyakumanen1
 もっとも印象に残ったのはピエール瀧が演じる桃農家でのエピソードで、過疎化の進む村で農家の長男として生きる中年男の鬱屈した感情をピエール瀧の表情が感動的なまでにあらわしていて、これは素晴らしかった。
 『松ヶ根乱射事件』で最後にピストルを乱射する巡査役の新井浩文に匹敵する素晴らしさだった。
 海の家でのエピソードでの竹財輝之助の存在も良かった。蒼井優に向かって、「君とぼくとはソウルメイトなんだと思う。」みたいなことを言うシーンには笑った。
映画の感想文日記-hyakumanen2
 地方都市の場面からストーリーとしては盛り上がりを見せたが、森山未來が演じる大学生は、借りた金を踏み倒す卑劣な男のままでも問題はなかったように思った。
 この地方都市でのエピソードはあまり心に響かない言葉が多かったような印象もある。が、物語の核心はこの地方都市での場面になっている。
映画の感想文日記-hyakumanen3
 この映画での蒼井優はキレたら何をしでかすかわからないというおそろしさがあって、かなり引き気味に見ていたので、作品の世界に入り込めなかったのかも知れない。
 20代はじめで犯罪者となる人の多くはこの映画での蒼井優のような自己正当化の果てに犯罪者と呼ばれる立場になるのだろう、という印象が強かった。
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