シネマな時間に考察を。

心に届く映画を語る、シネマな時間に考察を。ヨーロッパ・中東・アジアを中心とした愛すべき短館系作品のレビューを綴っています。映画と心のちょっといい関係をさがして。心がきらりとひかる瞬間を大切に。


テーマ:

忘れられない記憶の海で、
永遠に続くものをさがしていた。


『パーマネント野ばら』
2010年/日本/100min 監督:吉田大八
出演:菅野美穂、小池栄子、池脇千鶴、夏木マリ


シネマな時間に考察を。


構成の行き届いた作品だった。

ストーリーが予め用意されている原作の映画化というのは、

つまるところ作り手の表現力に拠る部分が大きい。

視線をどこからどこへ向けるのか。

物語を見つめるまなざしは幾つ用意するのか。


原作を知らずに映画を観たので比較することはできないけれど、主人公とカメラとの距離のとり方、縮め方、伸ばし方が実に巧いと感じた。モノローグを排したことで、説明的にはならずにそれぞれの人物の心情をじっくり眺めさせることに成功している。


シネマな時間に考察を。 ひとくせもふたくせもある町の女たちがムンムンとその湿度を上げる中、なおこだけはひとり涼しげで言うなれば影も薄い。離婚直後の出戻りで、癒しきれない傷を抱えているであろうことは伺える。

けれどこの時はまだ、彼女の抱える切ない秘密には誰も気付けない。


物語も終盤にさしかかり、これまでの空気感をきゅっと変えることになるシークエンスがやってくる。ここまではなおこ目線に寄り添いながら町の風景と人々の日常をみつめてきたが、目覚めるとカシマが消えていたというあたりから、カメラはなおこをぱっと突き放し、なおこの身と心から少し離れた位置から彼女をみつめる。観る側は急に不安になり、動揺すら覚える。なにかがおかしいと。この温泉宿のくだりは原作にはないエピソードだというから、ここは映画として一番の成功要素だったといえよう。


パーマネント(永久・永遠)なものなんてない。
ずっと、という恋もなければずっと、という思い出もない。


シネマな時間に考察を。 ともちゃんは言う。人は二度死ぬんだと。
一度目は、生きるのをやめた時。

そして次は、人に忘れられた時。
だから彼女は失ったものたちを丘の上に埋めていった。忘れるために。


なおこの肩の傷は、幼い頃の母に対する寂しさから生じた傷だった。

子供だった頃のなおこが母を睨んだその目と同じ目を今、

娘のももが自分に向けている。同じ思いをさせている。


シネマな時間に考察を。 みっちゃんの「(なおこは)大丈夫だよ」という最後のセリフ。それを受け、母まさ子が初めて相好を崩したやわらかい安堵の表情がひとつ。母だけでない、パーマ屋の常連客もみんななおこの秘密を共有していたんだと知る。みんなで彼女を見守ってきたのだと。フラッシュバックのようにこれまでの映像の断片を思い出し、

なおこの秘密と彼らの優しさに切なくなる。


握り合った筈のカシマの大きな手のひらは、一握りの砂と儚く消えた。
妄想に逃げていたと気付いた浜辺で、ももが自分を呼ぶ声に振り返る。
母であるなおこのその穏やかな表情が、

夕陽の染めるオレンジ色とともにすぅっとあたりに染みていく。


ももの声がなおこを現実に迎え入れた。
思い出と妄想を夕方の浜辺にそっと埋めて。



『パーマネント野ばら』:2011年2月3日 DVDにて鑑賞

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