シネマな時間に考察を。

心に届く映画を語る、シネマな時間に考察を。ヨーロッパ・中東・アジアを中心とした愛すべき短館系作品のレビューを綴っています。映画と心のちょっといい関係をさがして。心がきらりとひかる瞬間を大切に。


テーマ:
『アイ・アム・サム』 2001年/アメリカ 監督:ジェシー・ネルソン
出演:ショーン・ペン、ミシェル・ファイファー、ダコタ・ファニング
シネマな時間に考察を。-iam-title.gif
スターバックスで明るく働くサムは、7歳の知能しか持つことの出来ない知的障害者。彼の娘が誕生するところから物語は始まる。小さな赤ん坊をその手に抱えあげたその時、サムの頭に流れ出した音楽はビートルズの"Lucy in the sky with diamonds"そうして彼女はルーシーと名付けられた。しかし母親はサムと赤ん坊を置いて姿を消し、サムは男手ひとつでルーシーに惜しみなく愛情を注ぎ育てる。2人はささやかに幸せな日々を送っていた。やがて成長したルーシーがもうすぐ7歳になろうとする頃、2人を引き裂く哀しい運命が待ち受けていた。

wonderful choice, it's wonderful choice!

全編を彩るビートルズ・ナンバーには、それぞれの場面における主人公たちの心情が代弁されるかのようで、淡い色調の中にキラキラと輝く小さなしあわせと大きな愛情が音楽とともにとても優しく心地いい。親子の絆と愛を爽やかに描く、涼風的感動作品。オープニングクレジットに重なる冒頭の映像。ガラスケースの中に収められた数種類のシュガーを色別にせかせか並び替える指先のアップ。陳列されたマグカップを正面に向けると、おなじみスターバックスの緑のロゴが現れて。なんだか楽しくすんなりとサムの目線の先に立ち会うことができるようなこのオープニング。何よりコーヒーをオーダーするお客ひとりひとりに「ワンダフルチョイス、ワンダフルチョイス」と2回声をかけるサムに、あたかも「この映画を観にきたみんな、ワンダフルチョイス」とでも言ってもらえたようなそんな気にさえなる。ビートルズをこよなく愛し、ビートルズのことならなんでも知っている。のちに彼が出会うことになる「ルーシー」も「リタ」もビートルズの曲の中に登場する名前だ。



生まれたばかりのルーシーが成長する過程を描くためのフレームの使い方がとてもいい。大きくなったルーシーは公園でパパと楽しそうにブランコに乗り、かれら2人が愛に包まれて幸せに暮らしていることを伝える。成長期にある子供の「なぜ?あれなあに?」の質問を繰り返すルーシーの声がオフでのっかる。そして最後の質問と同時に画面は6歳のルーシーの姿を捉える。「どうしてパパは他のパパと違うの?」という質問にとつぜん不安を覚える一瞬。でもルーシーが最高にかわいい笑顔を向けて、パパがだいすきと言うのを聞くとこちらも思わず微笑んで。何があってもこの2人を温かく見守りたいと思わせてくれるのだ。

2人はいつも一緒。寝るときも。ベッドの上でサムはルーシーにいつも同じ絵本を読んで聞かせる。サムが唯一自信を持って読むことができる絵本だから。やがて小学校に入学したルーシーは、ある戸惑いを覚えるように。パパの知能を越えようとしていることに対する戸惑い。パパの知能を越してしまったら、パパの娘でいられなくなるかもしれない。パパにかわいがってもらえなくなるかもしれない。小学校の宿題の本読みの手本を見せようとするサム。でも難しい単語がいっぱい出てきてうまく読めない。ルーシーはパパより上手に読めることを自分で分かっている。それでわざとうまく読めないふりをする。differentという単語が分からないふりをしてパパに面目を持たせようとして。最後にはサムが得意なあの絵本が読みたいと言って宿題の本を放り出す。この本読みのシーンのルーシー。微妙な心情を表す顔の表情(演技)が信じられないくらい素晴らしい。ルーシーは知能の足りないサムを憐れんでいるわけではないと思う。パパがだいすきで、パパを愛するのと同じだけパパからも愛してもらいたいだけ。自分が賢くなってしまうことでパパが遠くに行ってしまわないように。サムはこの本読みの場面でdifferentを娘に教えてあげることができなくて少し焦り気味になる。それでも「ルーシーなら読めるはずだ、分かるはずだ。ほら、Dから始まるんだよ」と言って父親らしさを主張するところ、ここで最初の涙を誘われた。不安はあっても自信を失うまいとするサムの父親としての自尊心が素晴らしいと思ったから。


ソーシャルワーカーの判断によってルーシーは里親の元に預けられることに。サムは週に2回の面会しか許されなくなってしまう。物語が少ししんみりしてきたところに凄腕の女弁護士リタが登場。ストーリーに活気のいい流れが合流。サムとリタのまるで別世界の者同志のちぐはぐなやりとりから、やがてリタがサムに癒されるようになるまでの展開も素敵。しかしサムにとっては断然不利な状況の中、ルーシーを取り戻すための裁判が始まる。これまでしっかり者の印象の強かったルーシーが、里親と暮らすようになってからは幼い子供らしさが前面に出てくるようになる。大好きなパパがそばに居なくて寂しい、今すぐパパに会いたい!とぬいぐるみを抱えてパジャマのまま裸足でパパのうちまで潜りこむ始末。そんな健気なルーシーがなんだかとっても愛しくなって。

ルーシーとサムの親子だけではなく、この作品には彼らと関わる周りの人物たちにも物語がある。キャリアウーマンの弁護士リタ。デキル女性と見られるからこそ常に突っ走るしかないリタは、実は女性として母親としての自分に自信が持てず、誰よりも激しい劣等感を抱えている。私としてはこのリタの葛藤を垣間見たときが映画の中で一番泣いてしまったかもしれない。そしてサムのアパートの上階の住人、いつも穏やかでサムの力になってくれる優しいアニーは、実はどうやら父親との何か辛い過去を持っているらしい。証言台での彼女のあの表情が忘れられない。もう一人、ルーシーの里親となった女性。どういう理由で里子を捜していたかという説明はないけれど、彼女もまたようやく手に入れた我が子ルーシーを心から愛したいと願っていた。でもその願いは叶わずルーシーはサムのことしか受け入れようとはしない。里子を迎え入れた彼女の、映画には出てこないサイドストーリーを思うとやりきれない気持ちになる。彼女にもいつかきっと幸せになってもらいたい。


サムが知的障害者だからということは関係ない。女の子はいずれ父親に反発するようになるもの。今はとっても仲良しでお互い誰よりも愛し合っているこの父娘もいつかそんな日が来るかもしれない。楽しそうなラストシーンを観ながらそんなことを思った。でもきっと、2人が大好きなビートルズのナンバーが彼らを取り持ってくれるはず。そんなエピソードを想像しながら、エンドロールで最後の涙を拭った。


2002年6月17日 ワーナーマイカルシネマズにて鑑賞
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