『ビヨンド・サイレンス』 
(1996年・ドイツ) 監・脚:カロリーヌ・リンク


ろうの両親を持つララは、いつも父と母の耳となり口となって両親を助けている。何かあれば学校を早退してとんでいく。優しくて活発で元気なララ。愛情に溢れている家族。誕生日に叔母にクラリネットをもらったララはその音色に心を奪われ毎日練習に励む。そんなララを見てどこか淋しげな両親。やがて18になったララ。音楽学校の入学試験のため家を出て叔母の所に身を寄せる。父はまだララのクラリネットに反対している。そんなある日、母が自転車で事故に遭ったと聞き・・。

子離れできない父親と、両親を愛しながらも自分の夢を見つけて1歩踏み出してゆく娘との和解、娘時代に果たせなかった夢を姪に託す叔母のひそかなエゴ、ろうであることで親から特別に可愛がられていた弟を不愉快に思ったまま、いつしか心が離れていった姉と弟の思いやりと絆の復活、そういった身近な人々の心の成長と愛を爽やかに描いた作品。ドイツの冬、心が澄み渡るようなみずみずしい映像が素晴らしい。ろうの両親が夜ベッドで「あの子が離れていく」と娘のことを静かに手話で話すシーンや、演奏会の舞台の壁にかけられたシャガールの絵を「シャガールは知っていた。世界は音楽で出来ていると」という演奏家の言葉、姉と弟が雪夜のガラス越しに手話で心の絆を取り戻す場面、ろうの父が手話で語ることばに時々出てくる詩的な表現(雪が降ると世界が沈黙する。素敵だ。)など、ポエティックに印象的なシーンが多い。とても素敵な作品だ。さらに少女役のララを演じた女の子のなんと美しいこと!



2001年9月26日 DVDにて鑑賞