確か、小田急の屋上で買ったんだよな。
24歳で大阪を離れて、それから蒲田に10年いましたとさ。で、ありがちな理由で西新宿に居を移す。まぁ、転換期ってヤツです。
で、人に聞かれたら『仕事の都合』とかって言ってみたかったりしたので、取り敢えず新宿。なんでかってぇと、俺らの仕事、朝早くロケなんぞに出発するときの集合場所ってのが、新宿のとある場所って決まってて、そこから歩いて7分ってところに、引っ越してみた。右を向いたら九龍みたいな雑居ビルがありーの、左を向けば副都心の摩天楼っていう難民感溢れるアパートを借りる。這い上がってやる的な妄想が膨らむ、昔からの町家が残る地区だった。でも、そこを選んだ本当の理由は、向かいが中学校で、その中庭が借景ってヤツだったから。梅に桜、向日葵、百日紅。牡丹もあったか。そんでもって借りた部屋のベランダがやたらと広くて、何かを育てようとクワズイモを買ったんだ。小田急で。
まぁ、それからなんやかやとあったんだけど、俺もクワズイモもなんとかやってきた。雪の日に3日ほど外に出しっぱなしにした時は、成長とか、ぴたっと止まって、やや焦った。フラレタって時は、クワズイモも痩せたりしちゃったりしたりして。いや、マジで。なんかバイオグラフに微妙にシンクロしてる可愛いヤツ、の筈だった。
そのクワズイモが枯れかけた。なんだか茎というか、幹というか、とにかく真ん中あたりでぶよぶよのぐにゅぐにゅになっちまって。成長が止まった時、そこの幹だけ、太くならずに、ちょっとくびれになってたんだけど、その辺りから、グワッと傾いでくる。で、なんか思わず…、
伐った。
真ん中あたりでばっさりと。葉っぱなんか、まだ青々としてたし、飾ろうかとも思ったんだけど、じっと見てたら、なんだか「ひょっとして俺もこんなのか?」って、なんだかなんだかで、思わずベランダにうっちゃった。そんで、鉢に残った方もほおっておいた。
そんで、一週間。
鉢の方には新芽が出て来た。それも1本とかじゃない。原始の森かというほどに茂ってきた。なんだこりゃ。
なんだこりゃだが、ちょっと嬉しかった。
おぉ、おかえり。ってなぐらい。
で、ケツがむすむずして、ベランダを覗いてみた。
まだ青かった。
枯れてない。
さして日も当たらなけりゃ、水なんてどこからってもんの、そのブッチギラレタクワズイモは、艶やかな姿態を陰ったベランダに横たえていた。
しばらく、だと思うが、ぼんやりと、ただただ眺めて、見なかったことにした。
その夜は雨だった。
雨音に眠り、雨音に目が覚めた、ちょい寝明けのAM3:07。
耳を澄ますと、葉を打つ雫の音が聞こえたような気がした。
…ガッと飛び起き、ベランダに飛び出す。葉の付け根に、縦軸に割れ目が入っていて、新芽が伸びようとしていた。
きっと、声にならない、何かを漏らしたように思う。
自転車を駆って、歌舞伎町を抜けた先の黄色い店に向かう。風車に喧嘩売ったおっさんの名前の店を、濡れ鼠の体で徘徊。鉢やら、水苔やら、土やら、栄養やらやら。金を払いながら、せっかく来たんだから、他になんかと思ったが、雨だし、列び直すのも面倒だし、イイヤとなって、そそくさ出る。
あぁ、雨脚が強くなってやがる。
なんで雨の夜に自転車なんだ。タクシーだっていいだろう。にしたって、列び直すのが面倒だって思ってる程度の俺がいったい、これはこれでなんのことやらなんだけど。
その朝、雨は相変わらずだったけど、気分は随分楽になった。
ずるい、俺。
思えば、このクワズイモとココまで来たんだ。
ごめんな。
なんて、言ってみたりしたのを覚えている。
今、根付いたのか?
新しい葉、俺の顔よりでかいぞ。
ありがとう。
助かったよ。
ありがとう。