最近、国際的な舞台でも注目を集めているイスラエル映画。中でも、長編監督デビュー作『ジェリーフィッシュ』が2007年カンヌ国際映画祭でカメラ・ドール(最優秀新人監督賞)を受賞したエドガー・ケレット監督は、作家としても活躍する期待の才能。イスラエルの大都市テルアビブで生まれ育った監督に映画『ジェリーフィッシュ』について話を聞いた。
イスラエルでも希薄になりつつある人々のつながりと、孤独感に着目
物語は、浮き輪を持った不思議な少女に出会う若い女性、骨折した花嫁と海が見えるホテルに宿泊する花婿、ヘルパーとして雇われた家の老母と娘の心をつなぐフィリピン人女性の3人を中心にした、3つのエピソードが同時進行して進んでいく。
「私が描きたかったのは、人の経験や体験。そして登場人物そのものよりも、色々な場所に色々な人がいて色々な人生があること、そういう別々の人生が一つに集まる様を描きたかったんです」とエドガー・ケレット監督。しかし、登場人物たちの心の中には、ぬぐい切れない孤独感が横たわる。「現在のイスラエルでは、家族、国家、そして社会といったものの関係性がすごく薄れてきている。そういった、生活の中で人々が抱えている“孤独感”に着目したんです」
描かれる生活は、お酒を飲んだり、パーティをしたりと、イスラエルと聞いて我々がイメージしがちな“紛争”とはかけ離れた生活でもある。「実際のイスラエルの人々は、毎日、紛争のことばかり考えて生きているわけではありません。毎朝、普通に起きて、仕事や健康のことを考えていますし、紛争にばかり忙しいというわけではないんです。例えば時々日本にやってくる台風のような感じで、我々には紛争というものが存在します。日本の人が自分の夢を考える時に台風のことを意識しないように、イスラエルでも夢を考えるときに紛争のことを特別に意識したりはしないんです。実際にイスラエルに来てもらえれば、紛争を間近に感じるよりもむしろ、日々の生活、友達や仕事といった日常を感じ取ってもらえるはずです」
ジェリーフィッシュのように流される人々の生活を“海”に託して
タイトルの“ジェリーフィッシュ”とは“クラゲ”の意味。そして映画の中には“海”のモチーフが頻繁に登場する。「“海”によって、人々の生活がクラゲ(=ジェリーフィッシュ)のように流れのなすままになっていることを伝えようとしたんです。だから映像も“青”や“黄色”を意識的に使うようにして、都市の中でのシーンでも“海”を意識できるようにこだわりました」
カンヌ・パルムドール受賞という快挙については「本当にうれしい驚き。まったく想像してもいなかったから、喜びも一層という感じですね。それは妻のシーラ・ゲフォンも同じ気持ちでしょう」。ちなみに本作の脚本もシーラ・ゲフォンが担当。エドガー・ケレット/シーラ・ゲフォンの共同監督となっている。
長編作品の監督を経験しての感想を「作家活動との違いは、映画はより多くの人と関係し、協力して作っていく点。その中では当然、妥協しなければならないことも出てくる。でも、だからこそ映画には多様性という優れた部分があり、それこそが私が映画という仕事に求めていたものであり、発見したものでもあると言えますね」と語った監督。インタビュー時には、作家として一編の文学作品を書き進めていると語っていたが「映画用の脚本の準備も同時に進めています。妻のシラーがすでに脚本に取り掛かっているので、いずれまた、映画の世界にも戻ってきたいですね」と意欲はすでに次回作に向かっていた。
『ジェリーフィッシュ』
2008年3月15日(土)より 渋谷シネ・アミューズほか全国順次公開
(C) 2007 - Les Films du Poisson / Lama Productions LTD / ARTE France Cinéma
監督:エトガー・ケレット、シーラ・ゲフェン
出演:サラ・アドラー、ニコール・レイドマン、ゲラ・サンドラー、ノア・クノラー
配給:シネカノン
オフィシャルサイト:http://www.jellyfish-movie.com/
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