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14:銀河病



「あら、まあ坊ちゃん、お客様ですか!?」

騒ぎを聞きつけ、サフラナがやってきた。
雨に濡れたノーゴンさんとミネさんを見て、ぎょっとしている。

僕は彼女に「大事なお客だ」と言う。

「今すぐ客間を用意してくれ」

「は、はい……」

流石のサフラナでも戸惑いを隠せない様だったが、僕の言う通り客間の鍵を開けにいく。
ミネさんを、とりあえず横にしなければならない。

「さあ、ノーゴンさん、ミネさんをこちらへ。……詳しい事はそれから」

「……はい」

いつもは大人っぽく落ち着いた雰囲気のあるノーゴンさんだが、この時ばかりは流石に神妙な表mcm 財布 激安
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情で、ミネさんを大事に抱えていた。
この二人の絆は、きっととても強いものなんだろう。







ベルルとサフラナがミネさんを着替えさせ、ベッドに寝かせた。

その後僕は彼女の痣を確かめたのだが、それは右腕から首筋、胸元にかけ広がっている。ジワジワと小さな音を立て、生きているもののように流動しているように見え、いかにそれが特殊な病であるのか理解する。

これが、“銀河病”か。

「サフラナ……少し、席を外してくれるか?」

「し、しかし…」

「後からちゃんと話そう。今は、すまないが」

サフラナは当然、少し躊躇したが、僕の表情を見て状況の複雑さを悟ったのか「分かりました」と、頷く。

「ですが坊ちゃん、お客様にはお茶とお菓子をご用意させて頂きます。良いですね?」

「え? あ、ああ……。ありがとう、頼む」

流石サフラナ。僕の気の利かない所まで気が回る。

「出来れば、お茶とお菓子は沢山用意してくれ。ティーカップも……そうだな、9つ程」

「……9つ?」

これにはサフラナも驚きを隠せないと言う表情を、一瞬見せた。
しかし「分かりました坊ちゃん」と、答えてくれた。
彼女にはもう、様々な事を隠し通す事は出来ないだろう。元々ベルルが旧魔王の娘だと知っている、数少ない人だ。後で僕から、ちゃんと説明しなければならない。







「どういうことだノーゴン。なぜお前がついていながらミネがこのようになる?」

「だいたいお前はいつもミネに甘いのじゃ。主が無茶をしそうになったら、止めるのも大魔獣の役割じゃろう。呆れたぞ」

「いったいいつからミネは発病していたの? 穢れの多い土地に頻繁に出入りしてたって事? あらあらあら馬鹿ねえ……」

「……」

「お、おい……あんまりノーゴンをいじめるなって……」


椅子に座って意気消沈しているノーゴンさんの周りを、大魔獣のお姉様方が囲んで尋問している。
ローク様の凄みに、アリアリア様の呆れた口調、マルさんの純粋な問いの奥にある刺、ディカのただの無言が彼を襲う。
前々から思っていたけれど、大魔獣のほとんどは“雌”で、“雄”は少ない。
完全に雌>雄の構造が出来上がっている様で、一応同じ雄のサンドリアさんだけがノーゴンさんを庇っていた。

「いえ、全ては私が悪いのです……罵られても何の言い訳も出来ません」

「お前罵られるの好きじゃないか」

しかし、サンドリアさんの冷静なつっこみ。
ノーゴンさんは頭を抱え「あああ」と悲痛な声を上げる。

「ミネ様は随分昔から、この病を発病している様でした。しかし、ずっと私に隠し、魔界と人間界を行き来していたのです。私がもっと早くに気がついていれば……っ」

やがて彼はボンと音を立て小フクロウの姿になった。大きな金色の瞳からぼろぼろと涙が流れている。
濡れたフクロウの惨めな姿が、僕には見ていて辛かった。

「ノーちゃん……」

ベルルがウッと目に涙を溜めて、その小フクロウを抱きかかえる。
バスタオルで小フクロウを包み、モフモフの頭を撫でる。

ローク様は腕を組んだまま瞳を細め、短いため息をついた。

「……まあしかし、ノーゴンにも隠し通す所がミネらしい。この娘のもっとも駄目な所だ。……アリアリア様、ミネの症状はどの段階だ? もってあとどのくらいだと判断出来る?」

ローク様は横目にアリアリア様を見て、物騒な事を質問した。
アリアリア様はミネさんの元まで飛んでいって、その状態を確かめる。緑色の瞳がじわりと色を変えた。

「あまり良くない状態じゃの……末期とまでは行っていないが“黒雲”の状態じゃな。これに銀色の星が見え始めたら、もう末期と言える。命は……もって3ヶ月じゃな」

「3ヶ月!?」

僕は声を上げた。
ローク様とアリアリア様は冷静だったが、あまりに残された時間が短く、僕は頬に一筋汗を流した。

「そんな……たった3ヶ月しか無いなんて」

「銀河病とはそれほどに恐ろしい病だと言う事だ。一度発病したら、それを治す手だては無く、黒い痣は体中に広がっていく。あれを、人は“黒雲”というのだが、次第に点々とした白い斑点が浮かび、鈍い光を放つようになる。その状態を“星雲”と呼ぶ。……末期になるとそれが集結し、まるで目の様な病の“核”となるのだ。核は“銀河”と呼ばれ、それが心臓に到達したら、何もかも終わり。死、あるのみだ」

「……そんな」

ローク様は病の説明をしてくれたが、僕には到底理解出来ないもので、ベッドに横たわるミネさんの苦痛の表情だけを見つめた。

今は“黒雲”の状態らしい。
段階をみるに、黒雲から星雲になり、最終的に“銀河”が出来て、それが心臓に到達したら、死……

故に銀河病。

「なんて恐ろしい病なの? 魔界の人たちは、こんな病と闘っているの?」

ベルルが涙を流しながら、ノーゴンさんをぎゅっと胸に抱き、ミネさんの所まで寄っていった。

「おミネちゃん……とっても苦しそうよ。私、嫌よ、おミネちゃんが死ぬなんて……っ」

「ベルル」

僕はベルルの肩を抱いた。
ディカもベルルの側に寄って来て、彼女をひしと抱き締めている。多分、慰めたいのだ。

「まあしかし、この病は人にうつるものじゃない。そこは心配するな。魔界に行かない限り、お前たちに被害は無いだろう。……とりあえず、ミネをここで面倒見てやってくれないか?」

「それは……それは勿論です!!」

僕は断言した。
このようなミネさんを、このまま放っておく訳にはいかない。

ベルルの腕の中のノーゴンさんが、一度小さく鳴いた。

「……大変な事になったわね、お姉様。ミネが死んじゃうのは、私も嫌よ?」

マルさんが頬に手を当て、心配そうにローク様の表情を伺っていた。
サンドリアさんもムスッとしていたが「俺だって嫌だ」と呟く。

「分かっている」

分かっている、と噛み締める様に言ったローク様が、僕を見た。
僕は息を呑む。

そう、分かっていると頷かなければならないのは、僕のほうだ。
僕はそろそろ、ちゃんと自覚しなければならない。

「……分かっています、ローク様。時間は、3ヶ月ほどしか無いと言う事ですね」

「そう言う事だ小僧。お前にはあまり、重圧を与えたくなかったが……ミネを見殺しにする訳にはいかないからな」

「いえ、僕もそろそろ、何を一番にやらなければならないのか、決めるべきだと思っていましたから。……分かっています。銀河病の特効薬の、開発を急ぎます……」

身近な人が命の危険に晒されて、僕はやっと自分の戦うべき病の姿を知った。
ノーゴンさんがベルルの腕から飛び出し、再び人の姿に戻って、僕の前で膝をついて頭を下げた。

「お願いします、お願いしますグラシス様。ミネ様を、お助けください」

「ノーゴンさん、そんな、頭を上げてください。僕は……」

僕はまだ、それが出来るかどうか分からない。
そう言おうとして、やめた。

出来ると思って挑まなければ、到底無謀な挑戦だろう。

ベルルは心配そうに僕を見上げていた。
さっき、無茶をしてはいけないと彼女に言われたばかりだったから。

「旦那様……」

「ああ、大丈夫だよ。……でも、しばらくは王宮の仕事を休まなければならないだろうな。レッドバルト伯爵にも、少し相談に乗ってもらわないといけない。僕は、この3ヶ月の間、この薬の開発に全力をかけよう。見栄を張ってはいられない。多くの人の力を、借りなければならないだろうな……」

「旦那様……私……っ」

ベルルが僕に抱きついた。
これ以上無い力で、強く僕を励ます。

「大丈夫よ、旦那様なら絶対に出来るわ!! 私、今度こそお役に立てる様、頑張るから……っ」

「……ベルル」

本当は、僕にあまり無茶をして欲しくないというのが、彼女の本心だろう。
でも、頑張りどころで僕を励ましてくれる彼女は、やはり凄い。とても心強い。

僕には絶対的な味方が居るのだと思い知らされた。
それはとても大きな力であるに違いない。

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