~時間(とき)はあの日に 戻せるだろうか 最終章~


【39】




ムシャクシャしていた モヤモヤしていた


何か気をまぎらわすものはないだろうか


仕事を終えたぼくは帰り道の途中で 駅前書店に寄ってみた


その店内でぼくは 何冊かの雑誌を手に取ってみた


その中に 『ポエム時評』という雑誌があった


ポエムか 懐かしいな


ぼくは学生の頃 児童文芸研究会ポエム部会に入っていて


仲間が書くポエムを批評し合ったり 自分でもポエムを書いていたりしてたっけ


そんな思いでページをめくっていたら、 気になるポエムが目にとまった






『つぶやき』


みかなぎ塔子




春にそよぐ風は 歌を歌ってしまいそうで 嫌いです


夏空のあざやか色の雲は 心が弾みそうで 嫌いです


そして秋の澄み切った空は さわやかになりそうで嫌いです


今のわたしは たったひとり 暗い部屋でうずくまっていたいの


膝小僧を抱えて 寒さに震えていたいの


そんな中で あなたのすべてを 忘れてしまいたいの


けれど どうしてなの?


そんな中にいると かえって


あなたが浮かんでくるのは







このポエムの文体 リズム そして詩人の名前に


心当たりがあった


この詩人 みかなぎ塔子は きさらぎ凛子ではないのか?


そしてこのポエムは ぼくへのメッセージではないのか?


ぼくはこの雑誌編集部に問い合わせてみようと思った


それでラチが開かなかったら ぼくは編集部気付で


彼女に手紙を書こうと思った




前略 ぼくはコバというものです


突然で申し訳ありませんが


あなたはもしかして 凛子さんではありませんか?


凛子さんだったら ぼくと会ってくれませんか


話したいことが たくさんあるんです


来年の2月第2土曜日午後6時


5年前に南こうせつとかぐや姫のコンサートがあった


あの日あの場所で待てます


早々



ぼくは凛子を待っていた 早稲田の大隅講堂からの年月を数えた


雪が降りしきる大隅講堂の前で 来るはずもない凛子を待った日から


もう時間(とき)は あの日から 5年の歳月が流れていたのだ


ぼくは 心をときめかせ


来年の2月第2土曜日午後6時のことを考えた


そしてカシクが演じた芝居


時間(とき)はあの日に 戻せるだろうか


というタイトルを思った


時間(とき)はあの日に 戻せるだろうか


いや 戻さなくては ならないのだ



http://ameblo.jp/choromycat/entry-11751648081.html





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【40】






カシクの家の前で 群馬ナンバーのワンボックスカーが停車していた


カシクはそのクルマの助手席で身体をモゾモゾ動かして


お腹に巻いていたサラシと ハンドボールのボールを取り出して


ふうっと 深く息を吐き出した


するとカシクのお腹は 何もなかったかのように


ぺっちゃんこになった


ああ 楽チン これで妊婦さんのお芝居 終了


お芝居は 家に着くまで お芝居なんです


カシクはクルマを運転していたサトルクンに笑いかける


サトルクン きみの夫役の演技も 完璧だったよ


だから誰も私たちのお芝居に 気づかなかったと思うの


サトルクンは微笑みながら


でもカシク どうしてあのファミレスで


次のお芝居のリハーサルをやろうなんて思ったの?


カシクはサトルクンに 静かに答える


実はあれにはね 三つの理由があるの


ひとつはね ずいぶん前に あのお店の主任が私に お芝居をしてくれたの


でもあんまり下手だったから


いつか私がお手本を 見せてやりたいなって思っていた


カシクは続けた


ふたつ目はね 私 あの主任が好きだったの でも 相手にされなかったの


カシクは遠くを見つめながら つぶやく


でもカシクは主任に相手にされなかったけど


今は幸せだから安心してくださいってことを 見せたかったの


それがたとえ お芝居でもね


カシクは考え込むようにして 少し黙った そしてややあって


最後は やはり 私自身のケジメかな?


カシクはそう言って 今度は深い溜息をつく


そう これは私自身が 彼への気持ちを断ち切るための


儀式・・・


そこまで言ってカシクは 視線をクルマのフロント越しに移した


そこから見える夜空は 漆黒が広がっているだけの


劇場の緞帳(どんちょう)に似ていた



【41】

カシクは笑いながら 運転席にいるサトルクンに話しかける


私たちのお芝居 「時間(とき)はあの日に 戻せるだろうか」だけど


ねえ サトルクン きみはどう思う?


時間(とき)はあの日に 戻せると 思う?




《第4章 了》



原題 昔 東京の片隅で 第23話ー10


初出 2014年4月28日






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