ちょこボラ!しよう

「ちょこボラ」とは、「ちょこっとボランティアする」こと。今すぐ簡単にはじめられる「ちょこボラ」の数々を紹介します。


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まだあたたかいもえの亡骸をいつまでもだっこしていたかった。が、そうもしていられない。涙を拭って気を取り直し、数年前に取材で知り合ったペットの火葬業者・加藤さんに連絡をとる。加藤さんは他業者と異なり、犬猫のみならずインコやハムスター、フェレットなど小動物の骨をキレイに残す方法で火葬してくれる。「ペットもだいじな家族の一員」という気持ちを尊重してくださる、心あるペットの葬儀屋さんだ。

幸い、電話はすぐつながった。今亡くなったばかりであることを告げると、加藤さんは遺体を横向きにしておなかのところに保冷剤を抱かせ、あたまをちょっと高くして、バスタオルで体を包んでおくようにと言った。保冷剤を抱かせたもえの体は急激に冷え、1時間もすると死後硬直? すっかり固くなって、まるではく製のようになった。

学校から戻ってきた娘は、もえの死におどろき、ぽろぽろと涙をこぼした。ただの病気なのだから、いつかは治って元気になるはず。そう信じて疑わなかったらしい。生まれて初めて体験する永遠の別れ。

翌日は台風接近中の雨模様だったが、もえの亡骸をバッグにつめて、焼き場のあるお寺まで遠路はるばる電車でむかった。到着して待合室に入ると、意外にも我々の前後にお仲間がたくさん。なかにはじいちゃんばあちゃん孫etcを含む、一家総出で火葬にのぞむご家族もいた。みな、加藤さんに火葬をお願いしているらしい。

待つこと30分。もえの番がやってきた。お寺の入り口にある小さな火葬場に入ると、そこにはペット専用かと思われる小さな焼き台が用意されている。その台の上にバスタオルにくるんだままの遺体を置き、お花と、娘が昨夜書いたお手紙をそえる。お花に囲まれて永眠るもえ、死体になってもかわいいよ。

それじゃあね。もえ。バイバイ。
バイバイ。バイバイ。もえちゃん。

お別れがすむと、遺体がのった焼き台がゆっくりと炉に入れられていく。加藤さんは娘に言った。もえちゃんはね、これから天国の病院にいくんだよ。でもすぐにもどってくるから。もとの元気な状態で帰ってくるから大丈夫。もう少し待っててね。それじゃ、炉に火を入れますよ。

それからさらに20分。もえの遺体はキレイに焼かれ、焼き台には白い骨が整然と残されていた。真っ白な欠片はまるで珊瑚みたい。

これは顔の骨。これが歯。残ってますね、しっかりと。そしてこれがのど仏。「天使の羽」ともいわれるんですが、わかりますか? 

加藤さんは説明しながらていねいにひとつひとつ、骨を骨つぼにおさめていった。ペットのお骨をずっと手もとにおいておきたいという人もいるのですが、それはやはりよくありません。埋葬するなり、ペット霊園にお預けするなり、なんらかの供養をしてあげてください。ただし、歯を一本だけ。このカプセルに入れておきます。お骨と埋葬してもいいですし、お手もとに残してもかまいません。歯は抜けたり生えたりするものですから、これだけは特別ということでノ。ステンレスでできたカプセル型のキーホルダーのなかに、加藤さんはもえの歯の一片をそっとおさめ、お骨とは別に渡してくれた。

金色の厳かな骨つぼケースに包まれたもえを連れて寺を出るころ、雨脚はなおいっそうはげしくなっていた。迫り来る嵐の足音を遥か彼方で感じながら、帰路の長い道中、私はあらゆる場所でいくどとなく、もえの姿を目にしていた。レストランの窓辺、電車の空席、駅の階段。雑踏にまぎれながらその姿は鮮明で、おびえるふうもひるむふうもない。生前と変わらぬ様子であらわれては、ときおり思い出したように、ちらりと私を見遣るのだった。

家に到着すると、もえの姿はさらに鮮明になった。首につけた鈴の音さえ聞こえてくる。ただいま、もえ。大丈夫だった? ひとりぼっちにしてごめん。お薬のまなきゃね。お刺身食べようか? もえの体を抱き上げて、そうつぶやく自分の姿まで見えてくる。奥の部屋で横になっているもえ。猫トイレの砂をかっかと蹴っているもえ。薄暗い廊下をとんとん歩いている後ろ姿のもえ。ソファでごろ寝する娘にそっと近付いて、いっしょに横たわるもえ。丸くなっているもえ。眠っているもえ。


気付くと、両目から滝のような涙が流れていた。記憶のなかから立ち現れるもえの残像をひざに載せて、今はただ、泣いて泣いて、泣いて泣いて。空洞を埋め尽くすように、ただ泣くしかなかった。

ママ、泣いてるの?

てのひらで顔を覆い、歯を食いしばる私の姿を見るやいなや、娘は突然身をひるがえし、部屋の扉をぴしゃりと閉めた。窓も障子もドアもすべて閉ざし、カーテンもすべて閉めおわると、私のそばに来て黙って座った。

もえは私のひざからするりとおりて、娘のとなりに丸まって、たいくつそうに怪訝そうに、ふたたびまどみはじめた。

もえちゃん4
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