壊れても・・壊れないもの・・1・・aikoto | お茶目に生きよう!!だって好きなんだも~ん☆

壊れても・・壊れないもの・・1・・aikoto

交わるとのない、二色の心が、一つのカラダに溶けて・・鼓動しあう。

決して混ざり合うことなどないけれど、二つの色彩が、ぐちゃぐちゃに、もつれあい、ほつれあい、むさぼりあいながら、マーブル状の模様を描き、微妙な距離を保ちながら、お互いのカラダの隅々まで、すべてを共有しあったと錯覚を起こすくらい、俺たちは・・一つのカラダに溶けて、鼓動しあう・・。

静かな夜に・・俺たちは・・ギシギシと聞き覚えのあるベッドのきしむ音に守られて・・お互いの体が二つであることを忘れるくらいに、どくどくと、悦びの音を脈打つ・・。

いつものベッドでいつものように、俺は、背中であいつの鼓動を感じながら、なんとなく・・聞いてみる。
「なあ・・、やっぱり、これ・・いい加減、限界かな・・」「ん・・ああ・・。かもね」

バスルームから戻ってきたあいつは、さほど気にもしていないようで、えらくけだるい、眠たそうな声で、そう答えると、ぐーっと、かけ布団をひっぱった・・。
「ん・・だよ。自分の部屋に行けよ・・」と、俺もふとんをひっぱりかえす。
ギシッ・・。俺に背を向けて眠るあいつが、ほんのすこしだけ体をずらす。どうやら・・ここで、また、眠るらしい。俺は・・ふん・・と、鼻をならしながら、「せっかく、お互いの部屋ができたのに・・意味ねーな」と、つぶやく。

ギシッ・・。返事は・・使い古したベッドのキシミ・・かよ。

なんとなく・・俺は、誰に聞くわけでもなく・・つぶやいてみる・・。
「壊れても・・壊れないものってあると思うか?」

高校の時から、なんとなく意気投合したあいつと俺は、なんとなく同じ大学に通うことが決まって以来、なんとなく、親友で恋人のまま、なんとなーく、一緒に暮らしている。

そんな俺たちは、大学時代は、一部屋に一つのベッドを置いて暮らしていたけれど、社会人になり、お互いの収入も安定しはじめた頃、そろそろ、自分たちの部屋があってもいいよな・・と、どちらが先に言い出したわけでもなく、なんとなくそんな話になり、前よりも少しだけ、お互いのプライベートな時間のすごせる部屋のある、このマンションに引っ越してきた。

なんとなく・・俺が夢に描いてた生活は、相変わらず・・続いている。俺は、こんな生活がいつまでも続けばいい・・と思っているけれど、社会に出て、世の中を知るたびに、こんなんで・・いいのか?俺たちは?いや、俺は、このままがいいけれど・・、ほんとうに、こいつにとって・・このままで、いいのか・・なんて不安に襲われる。
だけど、それを口に出してあいつに言ってしまったら、なんだか、この夢のような生活が崩れていくような気がして・・、俺は、あいつにこんな気持ちをぶつけることもできず、ただ、もんもんと・・葛藤している。そんな中での、引っ越しは、不安でもあるし、距離を取ることで、何かが生まれるかもしれない・・って期待でもあるわけで・・。

だけど、あいつは、あいかわらず何も考えてないのか、あいかわらず陽気で、直球で、そんなあいつの行動が、俺を不安にするし、安心させてもくれる・・。
まったく・・。

「やっぱ、まずはベッドだよな・・?今のは、壊れそうだしな。」と、あいつは、不動産屋で部屋が決まったその足で、まっささに大手の輸入インテリア総合店へ行き、寝具コーナーに飛んで行った。
俺は、妙にはしゃぐあいつの横で、そうだよな・・と、うなずきながら、ベッドを見ていたものの、なんとなく決められずにいた。

結局、あいつだけが、ちょっと広めの、がっしりとした作りのベッドを選び、引っ越しの日に、まっさきに部屋に届くように契約をしたが、俺は、気に入ったベッドが見つからず、いや、なんだか、あのいまにもぶっ壊れそうなベッドを手放したら、せっかく築いてきた、こいつとの時間を失ってしまいそうな気がして、俺は・・新しいベッドに買い替える気になれず、結局、あいつの買い物につきあっただけで、帰ってきてしまった。
先に帰ってりゃよかった。

帰り道、あいつは、新しいベッドが来ることが、よほどうれしかったのか、鼻歌交じりにうきうきと前を歩いていく。
俺は、なんだか、みょうに・・そんなうれしそうなあいつに、イラッして・・、あいつの後ろを、無言で歩いていた。
だけど、あいつは、別段俺の機嫌を気にすることもなく、後ろを歩く俺の予定を確認するように、たまに振り返って顔を見るものの、同意を求めるわけでもなく、独り言のようにぶつぶつと、引っ越しまでにしなきゃいけないことをあれこれ言いながら、すたすたと歩く。

なんだよ。引越しをするのは、おまえだけじゃないんだぞ・・。なんだか、おいてかれた気分だ。

俺とあいつは、たぶん、今のところうまくいってると思う。特別にどこかに行くわけでもなく、特別な会話があるわけでもなく、お互いの時間をお互いに邪魔することなく、そこにお互いの存在があるってだけで、俺たちの生活は成り立っている。

時間が合えば食事をして・・、時間が合えば買い物に行き・・、時間がなくても、なんとなくお互いの空気を感じ、社会人になってすれちがいの生活が続いても、俺たちは、さほど・・それを苦にすることもなく、お互いにいい関係ですごしている。たぶん、夢で描いていた、俺たちの理想の生活を俺たちは、手に入れたんだと思う。

だけど、この生活がいままで続いたのも、あの、ベッドのおかげなんじゃないか・・。

お互いの時間が合わずに、すれちがいの生活をしていても、たまに、くだらないことで喧嘩をしたとしても、何日も口をきかない日が続いても、あのベッドで、お互いのぬくもりを感じることができたから、俺たちは、いつのまにか、和解できたんじゃないか。
俺たちの帰る場所は、やっぱり・・あのベッドしかなくて、俺にとっては、あのベッドはどこよりも、大切な場所で・・。

なのに、あっさりと手放す・・あいつに、あのベッドに、未練のないあいつに、俺は、なんとなく、イラッとした。
だけど、それを口に出すのもなんだか躊躇するくらいに、あの日のあいつは、上機嫌だった。

そんなに・・何がうれしいんだよ・・。なんて、俺はかなりすねていたけれど。あいつは、飯でも食おうぜ・・なんて、素知らぬ顔で、俺のもやもやをやり過ごす。

たぶん、いつものパターン。いつだって陽気なあいつは、俺の取りとめのない憂鬱を、なんとなくどっかに蹴散らしてくれる。
どうした?なんて、聞くわけでもなく、適当に放ってるだけなのに、なんとなく、これが居心地いいのは、やっぱり、一緒にいて楽だ・・と思う。