経済学と数学

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「リカード貿易問題の最終解決」から。
私が本書の最大の弱点だと思う点である。

本書は、貿易経済を数理モデル化することにかなりのページをさいている。
そして数学に関しての態度考え方は、以下に引用する内容でうかがい知ることができる。
P253『経済学という社会科学にとって数学は必須のものではないという認識がおおくのマルクス学者にあるのであろう.数学的解析の必要のない,あるいは届かない問題領域があることはわたしも認める.しかし,国際価格論は,本書第5章に示すような数学的解析があってはじめて全体の構造がみえてくる領域である.』

数理モデルの是非を考える時に、そもそも数理モデルとはいかなるものか知っておく必要がある。Wikiの数理モデルの解説は私にとって常識的かつ適切な内容だ。重要な表現を引用する。
『構築されたモデルが、元の現象を適切に記述しているか否かは、数学の外の問題で、原理的には論理的には真偽は判定不可能である。』
『生体や社会のように対象が複雑で、階層間の法則の分離の様子が自明でない場合や、スケールが一つ下の要素を考えるだけで要素数の多さやその多様性などによ り変数が爆発的に多くなってしまうものとなれば、適切な変数の設定やモデル化ができるかどうかはもとより、人間に理解できる程度に単純で普遍的な現象論の存在を仮定すること自体に議論がわかれるところである』

要するにその数理モデルが正しいかどうかは、実際にデータを取ってみて検証してみる他はないのであるが、数学上の高度な法則を用いるだけでその数式の証明をおこなおうとしているように見える。例えば不動点定理の証明を持って(証明できているか自体にも異論があるようだ)、均衡点の存在が証明できたからと言って、均衡すること自体の証明にはならないように、凸多面体理論は定義された多面体を扱うことはできてもその定義自体を証明することはできない。
今まで経済学の論文もいくつか見てきたが、証明できていない数式を容易に導入し、それを数学的手法を駆使して変形しておかしな結論をだしているものが結構ある。おかしな結論は、導入された間違った式に由来するものであるが、変形する仮定でおかしな結論は強調され、おかしな結論に至る理由は逆に見え辛くなっていた。高度な数学の利用は、統計や精々金利の計算などの現実的に必要な部分だけにしておいて、数学の美しい法則から経済学の法則が導かれるなどという妄想は止めておいた方がよいと思われる。(自然科学ではありえない根本的な考え方の間違いであるところが、著名な経済学者ですら気付かずにおこなっている。中には、この愚かな作業こそが経済学の優れたところだと勘違いしている人間さえ存在する)

塩沢教授の現実に対する洞察力はすばらしくモデル構築の方向性は正しい。しかしそれを証明するアプローチは、実証結果を当てはめたり、コンピューターでシミュレーションしたりすることであるべきだ。
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