クエンティン・タランティーノ監督の新作映画『イングロリアス・バスターズ』

総統以下、名だたるドイツ軍兵士たちを、連合軍の特殊部隊「イングロリアス・バスターズ」の面々がブチ殺して行く映画と聞いていましたが、実際は…。

タランティーノ好きの映画ファンが「最高の映画ッ!!」と興奮する理由も、“ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺”と言えばまず「アンネの日記」を思い浮かべる善男善女たちが「んまっ!!」と眉をひそめる理由も、よくわかります。

ちなみにCheeseは…、頭の皮をゾリゾリはぎ取るとか、喉をナイフでかっ切るとか、そういう残虐描写はあんまり好きではないのですが、バカっぽい演出に彩られてはいるものの、タランティーノ監督のメッセージが読み取れるこの作品は、けっこう好きです。
直接の流血は少なめだし。

イングロリアス・バスターズ オリジナル・サウンドトラック

<STORY>
1941年、「ユダヤ・ハンター」と呼ばれるランダ大佐に家族を惨殺されたユダヤ人少女・ショシャナはひとり生き延びる。その頃、連合軍ではナチスを皆殺しするための特殊部隊“イングロリアス・バスターズ”がレイン中尉の指揮下で活躍していた。1944年のある日、フランスのとある映画館で、ドイツのプロパガンダ映画のプレミア上映が行われることが決定した。そこに総統以下、ナチスの高官が揃うと知ったバスターズは、映画館を襲撃することを計画するのだが…。


<Cheeseの解説>
この物語は、大まかにわけて、二つのラインでストーリーが展開していきます。

ひとつは、家族を惨殺されながら、ひとりで生き延びたユダヤ人少女・ショシャナの復讐物語。
もうひとつが、ナチを皆殺しにしてやろうとほくそ笑む、連合軍の特殊部隊イングロリアス・バスターズの物語。

この二つのラインに、「ユダヤ・ハンター」と呼ばれるナチの将校が絡んで、物語を盛り上げていくのです。


前者のショシャナの物語は、言わば“万人受けする”物語。
一家をナチに殺されたかよわき美女が、千載一遇のチャンスを得て、自分の持てる武器(映画館、燃えやすい映画フィルム、映画の編集技術、美貌など)をすべて活かして、ナチス・ドイツの面々を一網打尽にブチ殺そうと計画します。


後者のイングロリアス・バスターズの物語は、“タランティーノ的映画マニア”のための物語。
一癖も二癖もあるキャラクターたちが、濃ゆ~い演技を見せてくれます。

「ユダヤの熊」と呼ばれるイーライ・ロスの登場シーンなんか、まさにその典型。
タランティーノ・ファンやホラー映画ファンにとっては大興奮のシーンなのですが、普通の人にとっては「誰なの、この眉毛濃い人」ってなものでしょう。
やっぱりね…、一般的にはイーライ・ロスなんて知らない人の方が多いと思うわけです。


そういう意味で、“タランティーノ的映画マニア”度が異なると、この映画に対する評価はガラッと変わってくるので、要注意です。
「ブラピのイタリア語最高! イーライ・ロスも良かったし、ダニエル・ブリュールのさりげない自己中心的ナルシストっぷりも良かった~」と思ってる彼の横で、彼女は「カンヌで男優賞を受賞しただけあって、クリストフ・ヴァルツの演技とか、4ヶ国語を巧みに使い分ける脚本は良く出来てると思うけど、この暴力描写はないわ…」とひいちゃってることもありえます。

まあ、頭の皮を剥ぐ演出は、やっぱり引くよね。
『キル・ビル』ルーシー・リューを思い出しました。


でも、炎の中に浮かび上がるゆらゆらと浮かび上がるショシャナの不敵な笑顔とか、多言語が入り乱れるヨーロッパ戦線だからこそ起こり得た些細な作戦のほころびとか、素晴らしいシーンや見逃せないシークエンスはたくさんあります。

映画館中に張り巡らされたハーケンクロイツ旗がメラメラと燃え上がるシーンなんて、「ユダヤ人であるショシャナが、わざわざナチスのために飾りつけたハーケンクロイツなのだ」と思えばこそ、一般観客のテンションも上がるはず。
そこに「総統なんぼのもんじゃい」と言わんばかりの機銃掃射。
ここは、マニア的に拍手喝采のシーンでしょう。
だって、特にそうしなくてもみんな死んじゃうハズなんだから、ほんとは必要ないのです。


それにしても、ナチス・ドイツがプロパガンダに利用した映画というものを、逆にナチスを虐殺する道具にして、更にその物語を映画にしてしまうなんて、さすがタランティーノ。
その上、自らの大好きな「会話劇」「大虐殺」「女の復讐劇」という要素をもれなく盛り込んじゃうなんて、素敵過ぎます。
そして、復讐と惨殺の先にあるものは、漁夫の利でしかないという結末も。


ナチのランダ大佐を演じたクリストフ・ヴァルツの、4ヶ国語を活かした緻密かつ嫌味っぽい演技も、バスターズの親分・レイン中尉を演じたブラッド・ピットのガサツかつ田舎っぽい演技も対照的で良かったですね。

でも、一番の拾いものはショシャナを演じたフランス人女優、メラニー・ロランかも。
幅の広い二重瞼が、なんとなーくユマ・サーマンに似ています。
彼女自身もユダヤの血を引いているようですね。

彼女の決意のメイク・シーンの長回しは、「これぞタランティーノ映画!」という感じ。
彼女の移動を部屋を俯瞰するカメラでずーっと追っていくシーンは、必見です。


『イングロリアス・バスターズ』(152分/アメリカ/2009年)
原題:Inglourious Basterds
公開:2009年11月20日
配給:東宝東和
劇場:TOHOシネマズ日劇ほか全国にて
監督・脚本・製作:クエンティン・タランティーノ
出演:ブラッド・ピットメラニー・ロランクリストフ・ヴァルツイーライ・ロスマイケル・ファスベンダーダイアン・クルーガー
公式HP:http://i-basterds.com/

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