2001年夫婦世界旅行のつづきです。8月半ばのバレンシア3日目。闘牛観戦中です。




part240 闘牛② 真打ち登場!




要約: (牛はピンクのマタドールにいたずらに走らされ、馬上のピカドールに“ほどほどに”槍で突き刺される。)そして、“格上”のマタドールがさらに牛を“ちょい刺し”して、やっと真打のマタドールが登場するのだった。
















ピカドール(鉄の鎧に守られた馬上の騎士)の槍で“適度に”傷つけられた牛は、しばらくの間、避難所から出てきたピンクのマタドールに引きつけられ、血を流しながらさらに走らされ、消耗していく。




その間にピカドールは余裕で退場。そして次はピンクのマタドールよりは“格上”らしいマタドールが2、3人登場し、いよいよ牛を刺しにかかるのだった。かさ




 ピカドールの長槍とは違って、破魔矢ほどの長さの中振りの矢のような刀(?)をそれぞれが数本持っている。柄の所には一面、手品の道具のように派手な飾りがついている。いきなり花が咲いたステッキのようでもある。インテリアにもなりそうな刀だ。




 それを一度に1人2本ずつ、牛とすれ違いざまに、牛の背に突き刺していく。牛の背には合計6~8本ほど刀が突き刺さる。




 一度に1本しか刺せなければ、これまた観客からブーイングを食らう。牛から逃げて刺しそこなったりしたら、ブーイングは一際激しい。




 牛はさんざん走り回され、馬上から槍でグリグリ背を抉(えぐ)られ、またも走り回された上に、数本の刀を背中に突き立てられるわけだ。この頃には、その背は血で真っ赤だ。




牛の真っ黒い背中は、先ほどまでは濡れているようにしか見えなかったが、いまや黒い背中が血の色で真っ赤に染まっているのがはっきり見て取れる。脇腹も流れ落ちる血で染まっている。砂にボタボタと血が滴る。牛に、もはや闘牛場に走りこんできた当初の元気はない。「突進」も長続きはしない。




(このパターンが多かったが、これはちょっと傷め過ぎのパターンだと思う。血もさほど出ておらず、牛もまだかなり元気に走り回る状態で、真打ち登場! のパターンが一番見応えがあった。




もしかしたら、真打ちのマタドールから、どのくらい傷めておくか、予めリクエストが出ているのではないだろうか……とつい邪推してしまう。)




ここまで来て、ようやく真打登場となるのであった。真打は一段と華やかな衣装に赤い布と剣を携えて、颯爽と登場してくる。キラキラ




ピンクのマタドールが小柄でずんぐりむっくりした者が多いのに対して、真打マタドールはすらりと長身。衣装は肌に吸い付くようにぴっちりとその身を覆い、マタドールのしなやかな筋肉の線をむっちりと描き出す。お尻がぷりぷりして見える。




この真打ちに牛を向かわせるタイミングもなかなか難しいようだ。ピンクのマタドールの隠れた技の見せ所――しかし、誰にも称えられない見せ所――なのかもしれない。




「さぁ、来い!」と待ち受けている真打ちにうまくバトンタッチできず、ずっと牛に付きまとわれてしまうピンクのマタドールもいた。彼は、早く真打ちに牛を向かわせなければ……と焦るのだろう。その焦りが牛にも分かるのか、牛は余計そのマタドールにつきまとい、真打ちのマタドールなど見向きもしない。




真打ちも「こっちだぞ」と赤い布を振って見せるが、牛はなぜかピンクのマタドールにご執心。牛に見向きもされないで砂場に立っているマタドールは滑稽ですらあった。




逆に、真打ちのマタドールが観客に余裕を見せて挨拶などしているところに牛を差し向けてしまっては、まだ闘う体勢も整っていない真打ちを危険に晒すことになってしまう。実に、ここはなかなかタイミングの難しいところだ。




 ビロードで出来ているのだろうか。真打ちのマタドールの真紅の布は、ピンクの薄っぺらい布と違って、明らかに上質の素材だ。重すぎず軽すぎず、マタドールの腕の動きに合わせてふぅわり、さっ、さぁ~と舞ってみせる。




緋色に誘われるのか、牛は今一度全身の力を振り絞って、マタドールへ突っかかっていく。しかし、最初の頃の突進とは比べようもない。




それでも手負いの牛は恐ろしいものだろう。タイミングがずれれば、どんなに弱った牛にだって、人間の方がやられるのではないだろうか。鋭く尖った角で突き上げるように突進してくる牛に、真っ正面から立ち向かうマタドールはやはり勇敢なものなのだろう。




真打ちのマタドールは牛を手玉に取る。牛にぴったりと寄り添ってみせたりする。マタドールが広げた赤い布に牛は馬鹿みたく吸い込まれていくかに見える。もしかしたら、それこそがマタドールの技なのかもしれない。




「牛は赤い色を見るとそれに向かって突進する」ものと思っていたが、どうやらそうではなく、牛は赤い色を見ると単に興奮するだけなのではないだろうか。




牛は赤い布をひらひらされると、布の方ではなく、まさにマタドール目掛けて突き進むのだった。が、上手いマタドールは紙一重の差でさっと避け、牛に赤い布を潜らせる。だから、牛が赤い布目掛けて突進したように見えるのだ。




 ひとしきりマタドールと牛との踊るがごとき「格闘」の後、「遊びは終わりだ」とばかりにマタドールが姿勢を整える。牛から少し距離を取って、マタドールの長い剣が「行くぞ!」とばかりに構えられる。場内は「いよいよだ」という期待に満ち、緊張して一瞬静まる感じだ。




私の横のおっさんなどは「固唾を飲んで見守る」という言い回しを絵に描いたようだった。ごくり……。いよいよだぞ。さぁ、うまくやれよ? と心の中で唱えていたに違いない。




観客の期待を一身に背負って、マタドールが剣を振りかざす。牛が突進してくるところを、すわっ、すれすれに避けて、すれ違いざま、牛の“急所”を一撃! 





すれ違いざま振り下ろされた刀が、すっと牛の背中と頭の間辺りに深々と入ったように見える。牛とマタドールは互いに背を向けて立ち止まる。マタドールがさっと牛を振り返る。牛は背を向けたまま立っている。




闘牛場全体が息を飲む。「やった」のか……? と、次の瞬間、ドゥと牛が倒れる。どっと拍手喝采だ。




なんだか剣士の決闘シーンを思い出させる。切られてから倒れるまでの一瞬の間が、似ている。




しかし、真打ちの剣がずぶりと牛の背に刺し込まれたからといって、牛が即死することは少ないようだ。大抵の場合、瀕死の牛はよろけつつも立ち上がり、なおも戦闘態勢を取るのであった。




と、そこに、またもやピンクのマタドールがわらわらと登場してきて、もはやろくに動けなくなった牛を取り囲み、右から左からピンクの布を煽りつけ、牛をその場でぐるぐる回らせる。




牛は力突き、とうとうドドゥと地に倒れ伏す。すると、マタドールの1人が小ぶりのナイフのようなものを片手に牛に近づき、倒れている牛の脳天にドスッと突き刺す。牛はぴくっと脚を震わせて、今度こそ4本の脚を伸ばし切って横倒しに動かなくなる。




これで牛は“お終い”である。観客席からの拍手を受けながら、脳天にナイフを突き刺したマタドールが、そのナイフで牛の頭をひとしきりグリグリさせて、ようやく脳天からナイフを引き抜く。ナイフについた牛の血を牛の頭にこすり付けて拭う。




一旦どこかへ引っ込んだ真打ちのマタドールがすぐ再び登場し、観客席に高々と手をあげて再び観客の大拍手に応える。




マタドールたちがすべて柵扉の中に退場し拍手が鳴り止む。と、今度は大きな柵扉が開き、鈴をつけた無骨な馬が3頭並んで、鈴をギシャンギシャン鳴らしながら入場してくる。




灰色の制服を着た男たちも2、3人出てきて、縄で死んだ牛の脚を縛り、鈴付きの馬にその縄を結び付ける。馬に牛を引かせるのだ。




ギシャンシャンシャン。馬は鈴音も重たく、牛を見せて回るように闘牛場内を弧を描きながら軽く走る。牛は死してなお引きずり回されるわけだ。 




――なぜそこまでするのだ、みんな。楽しいか? ――ガーン




“鈴馬”が入ってきた柵扉は大きく開かれたままになっている。扉の奥はコンクリートの通路になっているようだが、日陰になっているのか真っ暗な洞窟のように見える。




その“真っ暗な洞窟”の正面辺りまでくると、馬たちはそこに向かって体勢を整え静止する。鈴が鳴り止む。




そして、今度は一転、灰色の男が馬に拍車をかけるや、ドドドドド……。馬も灰色の男たちも牛の死体も、みな一斉に柵扉の暗い“洞窟”の中へと疾走していった。




と、同時に楽団の曲が軽快に始まり、「さわやかなショー」の幕切れを示すのだった。




ジャシャンシャンシャンシャッ……激しく鳴り響いた鈴の音と、ズザザザザァ……牛の亡骸が重たげに引きずられていく音がやたらと耳に残る。




彼らの姿はあっという間に“洞窟”の中に消え、柵扉は閉じられ、後には血に汚れ踏み荒らされた砂の舞台がしんと残っている。砂煙がまだ立ち上がっている。




牛の葬送までが一連のショーなのだ。死んでいった牛に対してなのか、「ショー」に対してなのか、会場からひとしきり拍手が起こった。




これが闘牛か……。ガーン




しばらくして、砂場に掃除夫が現れる。血を吸い込んだどす黒い砂を帚で掃き取り、踏み荒らされた砂を平たい板棒で平らに均(なら)していく。丁度相撲の土俵を掃き清めるシーンに似ている。




掃除夫が立ち去ると、また次の「ショー」が始まるのであった。シラー





           つづく


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2001年夫婦世界旅行のつづきです。8月半ばのバレンシア3日目。闘牛の始まる前の愉快な雰囲気を味わっていたら、いつの間にか闘牛が始まりました。




part239 闘牛① 卑怯だぞ、みんな!




要約: 儀式めいた砂場の清掃を眺め、ぼんやりしているといつの間にか闘牛が始まっていた。まず格下マタドールが牛を走らせ疲労させる。次にピカドールが馬上から槍で突き刺し牛を傷めつける。よってたかって、卑怯だぞ、みんな!(闘牛はまだまだ続く。)









いかにもスペシャルといった“舞台席”の横のトランペットが鳴り響くと、いよいよ何か始まると言う雰囲気に闘牛場は包まれる。しかし、まだ闘牛が始まるわけではなかった。




どんなご立派な方が座るのかわからないが、特別な座席はその賓客を待ってまだ空いたままだ。下方の値段の高い席はまだまだがらがらだ。我らがアンダナーダ席周辺だけが、ほのぼのと活気づいている。ビール




午後の陽射しがまだギラギラと照り付ける5時。楽団の音合わせが始まった。闘牛場は美しい砂色。一面掃き清められた“相撲の土俵”に似ている。キラキラ




と、手前の赤い柵が開き、散水車が入場。ゆっくりと場内を走りながら、その砂の舞台をほどよく湿らし始めた。散水車は一通り水を撒くと、また赤い柵の中へと去っていった。流れ星




打ち水をされた砂の舞台。楽団の軽い“準備演奏”。降り注ぐ太陽。心地よい夏風。物売りの“呼び声”。愉快なざわめき。そんな空気にうっとりしていると、水を含んだ砂は見る見るうちに元の乾いた砂色に変わっていった。メラメラ




すると再び手前の赤い柵が開いた。今度は「線引き」だった。石灰の粉が入った小さな“手引き車”を男が黙々と引いていく。砂場に石灰の白い線で大きな円を二つ描いた。何のための線なのか分からないが、みごとに円だ。円を描き終わると、“線引き男”も柵の中に姿を消した。キラキラ




“水撒き”も“円描き”も闘牛に捧げられる神聖な儀式のように思える。キラキラ




丸い闘牛場の砂の舞台は真っ赤に塗られた頑丈そうな鉄柵で囲まれている。四方4箇所にマタドールが逃げ込む避難所がある。頑丈な鉄の戸袋のように見える。(席が遠いのでよくわからない。)メガネ




柵扉も4箇所ある。そのうちの1箇所は常に牛が駆け出してくる間口が狭い柵扉。我々のすぐ下にある柵は馬やマタドールが出入りする柵だった。




先ほど一際高らかに鳴ったかに思えたファンファーレが始まりの合図だったのだろうか。楽団の演奏はいつ本演奏になったのか分からないうちに、気がついたらその演奏は熱を帯びており、砂舞台にはきらびやかな衣装のマタドールが数人うろつき始めた。ピンクの布をひらつかせている。




――本当は赤い布を持ったマタドールこそが本当の「マタドール」で、ピンクの布のマタドールは「マタドール」ではなく、格の低い何とかという呼び名があるらしい。が、よくわからないので、一緒くたに「マタドール」としておく。――




 しかし、見るからに緊張感というものが全くない。“シャドウボクシング”ならぬ“シャドウ闘牛”でもするかのように、ピンクの布をさも牛を捌いているかのように振っているマタドールがいるかと思うと、服の乱れを直しているマタドールもいる。打ち合わせでもしているのか、寄り添って何やら話しているマタドールもいる。何なんだ、この気合のなさは?むっ




すると、ガシンッと鈍い音を立てて、赤い柵が一つ開かれた。と、奥から小ぶりの黒い牛が鼻息荒く走り出てきた。一番近くにいるマタドールに狙いを定めるや、迷わず突き進んでいく。「こいつ~っむかっ」って感じで、砂煙を上げながら突進していく。元気溌剌だ。いや、少し怒っている?えっ




狙われたマタドールは、柵に設えられた避難所板の裏にたちまちひらりと身を隠す。牛は急には止まれない。マタドールが隠れた板や柵に頭から体当たりしていく。ガスンと鈍重な音を響かせて牛の角が鉄板にぶち当たる。と、観客席からは期待と満足のため息が漏れる。虹




牛は既にリボンのついた針のようなもの(楔か?)を背中に打ち込まれていた。予め傷つけて怒らせておくのだね。えっ




牛がうろついている間は、逃げたマタドールは避難所から出てこようとしない。で、もっと遠くの方にいるマタドールが、「こっちにおいで~」とばかりにピンクの布をひらつかせて牛を誘う。オバケ




牛は、「あいつ~っパンチ!」って感じで、そっちのマタドールに狙いを定めて、突進していく。すると、向こうのマタドールは向こうにあった避難所にひらりと逃げ込む。ガスンと牛がまたもや鉄板に突っ込む。歓声が上がる。虹




と、さっきまで避難所に引っ込んでいたマタドールが出てきて、こっちから向こうの牛を誘うのであった。




牛はピンクの布に誘われて、「あいつ~っ」「こいつ~っ」と怒りながら、あっちへドドドド……ガシン! こっちへドドドド……ズガン! 走り回り、頭突き回りしているうちに、哀れ、牛はさすがにバテてくる。しょぼん




その頃になって、いつの間に登場していたのか、赤い布を抱えたマタドールが1人。走り回る牛からは遠く離れた位置で、悠々と砂の舞台を楽しむように歩いているのが目に入る。えっ





彼は観客席の方に近づき、観客と何やら言葉を交わしているようにも見える。随分余裕だ。これから牛と闘う人間には見えない。シラー




どうやら、ピンクの布を持ったのは、牛の気を引いて、走らせて疲れさせるのが仕事のマタドールで、たった一人赤い布を持っているのは、最後の最後に牛を仕留める“スター”マタドールらしい。




常に4,5人一緒に登場するピンクのマタドールは、皆および腰で、布を恐る恐る振っては、すぐに避難所に隠れてしまう。ひどいのになると、牛がちらりと顔を向けただけで、さっと避難所に飛び込む。避難所から出てこず、身を隠したまま、布だけピラピラ振っているマタドールさえいる。




もしかして、ピンクのマタドールは道化的存在なのかもしれない。牛を怖がって見せれば見せるほど、その後の真打ち、赤い布を持ったマタドールの華麗な勇敢さが強調されるというものだ。かお




ピンクのマタドールが4~5人掛かりで、牛をあっちへこっちへと走り回らせる。 ――1匹にみんなで寄ってたかって……卑怯だぞ! と、思わず思ってしまう。――プンプン





ピンクのマタドールはおどけて、へっぴり腰で逃げ回りながら、さりげなく確実に牛をいたぶっていく。決して赤い布のマタドールの方へ牛を向かわせない。




ちょっと牛が赤いマタドールの方へ行きかけたら、大慌てだ。牛に飛びつかんばかりの勢いで、牛の興味を我が方に引き戻していた。ここは「ピンクのマタドールが、面白おかしく牛を走らせ、疲れさせる一幕」と決まっているんだね。




そうこうするうちに、赤いマタドールはいつの間にか姿を消してしまう。お茶でも飲みにいったか? って感じだ。えっ




走り回され焦(じ)らされ、牛の“気”がさらに荒ぶり、なおかつ疲れてきた頃、別の柵が開き、ガッシャンガッシャン鈍く鉄を擦らせながら、鉄の鎧(よろい)に身を包んだ騎士が2人、これまた鉄の鎧を纏った馬に跨って登場する。手には柄の長い槍を携えている。「ピカドールPicador」と言うらしい。ビックリマーク





馬の鎧は膝下辺りまですっぽり馬の体を覆っている。あれでは背中に乗せている騎士も含めて、相当な荷重だろう。馬の細い脚が痛々しい。




ゆっくりとガシャンガシャン鎧を鳴らしながら、2頭きれいに足並みを揃えて闘牛場の中央へと進んでいく。




そして、なんと、その重装備に関わらず、軽快なステップを踏み出した。サラブレッドのように華奢な脚をして、斜めやら後ろ(?)やらにステップを踏んで、跳ねるように走り回り、牛を煽り、牛をすかして、楽団の奏でる曲に合わせてスキップし、牛を小馬鹿にしてみせるのだ。その馬の軽やかな足取りだけでも、一見の価値はあるだろう。 音譜




一通り“ダンス”を終えると、いよいよ牛との対決だ。グー




馬は鉄兜のようなものを頭から被らされて、すっかり目隠しされているようだ。騎士の合図だけで動いているのか。 




――ガイドブックの説明には、「片目馬」とあったから、片方だけ見えるようになっていたのかもしれない。――




なぜ、あんな目隠しを? もしかして、牛の姿が見えてしまったら、馬が怯えて牛との対決どころか、軽やかなステップさえ踏めなくなってしまうからではないのか? そう思ったら、見ているこちらが妙に緊張してきた。宝石赤




と、おどけたピンクのマタドールが、牛をピカドールの方へと向かわせる。牛は突如馬に向かって猛然と突進していく。ピンクのマタドールは、役目は済んだとばかりにすかさず避難所の方へ引っ込む。




ドドドド……。砂煙を立てて牛が突進していく。牛の気配に怯えるように馬がひるむ。ピカドールは馬を抑えつけるようにして、牛に対して馬を横に向かせる。




牛は馬の横っ腹目掛けて突進し、馬の腹部の鎧を抉(えぐ)り上げるようにぶつかって行く。




ガッシーン! 激しい金音を立てて、牛が馬の横っ腹の鎧にぶち当たる。観客席が一際沸く。馬はびびって足をジタバタさせかけるが、ピカドールが必死に制する。2頭ぴったり並んで、牛の“押し”に堪える。




牛は馬の横腹を、なおも執拗に下から抉りあげるようにして格闘する。何度も横っ腹目掛けてぶち当たっていく。馬は牛にじりじりと押される。横腹に牛の角が突き刺さったのではないかと見える。




馬にしてみれば、たまらないだろう。重い鎧を身に纏っているので、ご自慢の脚力で敵を蹴り上げることもできなければ、逃げることもできない。




目隠しされたまま、血を求めて熱くなっている獰猛な人間の欲望と、牛の殺気を感じつつ、舞い上がる砂煙の臭いと牛の臭い、大地(砂地)を揺るがすような牛の突進の音を肌で感じる。その上に、背中には鎧を着た騎士がずっしりと乗っていて自分を圧迫し、ただでも苦しいのに、猛り狂った牛の頭突きを横っ腹に思いっきり受けるのだ。




重い、臭い、怖い、痛い、やばいっ。馬としては泣いて走って帰りたいところではないだろうか。おそらく、馬のそうした恐怖心を抑えつけるための「目隠し」なのだろうね。私が馬ならとっくの昔に騎士も鎧も振るい落として一目散に逃げるね。ガーン




しかし、馬は堪えている。馬の鎧も相当頑丈なようだ。馬の細い足はよろめきながらも何とか踏みとどまっているのであった。




馬上のピカドールはその隙に長い槍を牛の背中にドスリと刺す。牛に突き刺さった槍をそのままグイグイ押して、牛を馬から引き離そうとする。 ――高い所から、自分は鎧で武装して……卑怯だぞ! と思わず思う。――




牛の背が陽を受けて光る。濡れている? ……血だった! 背中から噴き出た血が、牛の黒い背中を濡れてみせているのであった。えっ




このとき、ピカドールがうまく牛を引き離すことができないと、牛を傷つけ過ぎて消耗させてしまう。牛は何度も何度も槍で背を突き刺され、血に濡れていく。どくどくと赤い血に染まって行く。砂に血が滴る。砂が血を吸って黒ずむ。ガーン




こうなるともう牛が弱り切って、闘える状態ではなくなってしまう。このピカドールの後に、おもむろに赤い布のマタドールと牛との闘いが待っているのだ。肝心の真打登場まで牛が持たなくなっては、折角の“舞台”が台無しなのだった。




3匹目の牛のときは、ピカドールの槍が利き過ぎた。大きな牛だったこともあるが、なかなか馬から離れない牛をピカドールがぐさぐさぐさぐさ刺しまくってしまった。





血まみれになり、よろよろと今にも倒れそうになった牛は、もはや駆けつけた他のマタドールに突進して行くこともできず、それでもピンクの布に煽られて走ろうとするのだが、とうとうガクリと前足を折って、その場にのめってしまった。




場内は激しいブーイングの嵐。その牛は途中で退場となってしまった。真打登場ならず、闘牛の大団円を見ずして幕が降りたという感じなのだろうか。大失敗を演じたピカドールはブーイングの嵐の中をすごすごと帰っていくことになる。




ピカドールの役目は適度に牛を傷つけ弱らせることのようだ。これからうまく殺すために、“適度に傷つける”――何と恐ろしい発想だろうか。


つづく


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追記:あ」には意味がある? ビックリマークはてなマーク













昨日、旅行日記「part238 ♪あ、ビア・コラ♪」 で、


ビア・コラおじさんのビールやコーラを売り歩く声「あ、ビア・コラ♪」というセリフを、なんの疑問も持たず、当時日記に書かれていたそのままにアップした。




が、昨晩、妙な疑問が発覚した。えっ




夫に「ビア・コラ」おじさんの話を振ったところ、夫はすぐに思い出して、「あ、ビア・コラ♪ あ、ビア・ビア♪♪音譜」と懐かしい絶妙な節をつけて唱え始めた。




で、しばらく2人で「あ、ビア・コラ♪」と唄っていたわけだが、ふと夫が、


この最初の『あ』って、なんだろうね。」と言い出した。




「え? 何言ってるの? そりゃ、掛け声でしょ。調子を整えているんでしょう~。」と私は何の迷いもなく答えた。




が、考えてみたら、掛け声の「あ」って、日本語だけじゃないかいな? スペイン人も何か調子つけるのに「あ、○○!」なんて言うか? 言う気もするが……、少し変?むっ




スペイン語で『あ』って、何か意味があるんじゃないの?と夫。


げげげ? そんな? でも……そうかも……?ガーン


慌てて旅行中持ち歩いた『ヨーロッパ9か国語』スペイン語のページを開く。メガネ




と、


「…があります。 Hay…   アイ…」



「…はありますか。 ¿Hay…?   アイ…↗  」



「…はありません。 No hay…  ノー アイ…」





hay アイ」という動詞があった!



もしかしたら、ビア・コラおじさんのセリフは「♪アィ ビア・コラ♪」だったのではないか? とい新解釈(?)が急浮上!




で、「アィ、ビア・コラ♪↘ アィ ビア・コラ♪♪↗ 」とやってみる。音譜









う~ん。こっちの方がいっそう「らしい」ではないか。ビックリマーク




ビア・コラおじさんは「あ、ビア・コラ」と日本人のように合いの手の「あ」を入れて言っていたのではなく、「アィ ビア・コラ」とちゃんとスペイン語で「ビール、コーラ、あります~」と売り言葉を口にしていた?! ビール




合いの手の「あ」だと思い込んで聞いていたので、何も確かめなかった。今となっては謎であるが、耳の奥の奥に残るおじさんの声を思い出してみると、多分、「アィ ビア・コラ♪」と言っていたように思えてきたのであった。そっちの方が調子がいいように思えてきた。音譜わんわん






スペイン語に堪能な方(堪能でない方も)、ご存知ならば、コメントくださいませ。天使




ビール&コーラ売りの売り声は「あ、ビア・コラ音譜」ではなく、「アィ ビア・コラ音譜」なのでしょうか?はてなマークはてなマークはてなマーク




つづく
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2001年夫婦世界旅行のつづきです。8月半ばのバルセロナ3日目。夕方4時過ぎ。いよいよ闘牛場へ。





part238 ♪あ、ビア・コラ♪




要約: 闘牛の開始が何時なのか正確にわからないまま、とにかくチケットに記されている最も早い時間、4時半に合わせて闘牛場に入場してみた。我々の安いチケット席は活気に満ちていた。闘牛を楽しみに待っていた人々の飾らない笑顔があった。










4時半という時刻はやはり「開場」の時間だったようだ。先ほどは通りを歩いている人などほとんどいなかったのに、今はどこから湧いてくるのか、あちらこちら、闘牛場目指して人々が歩いている。そして、ぞろぞろと闘牛場へ吸い込まれていく。




丸い闘牛場にはいくつか入り口があり、どこから入っていいのかわからなかった。闘牛場に来ている人は朗らかな人ばかりで、我々が「アンダナーダ」席のありかを尋ねると、皆にこやかに教えてくれる。あっちだ、そっちだと、肩をポンポンと叩いてきて実にフレンドリーだ。恋の矢




「アンダナーダ」という席は、観客席の最上階に近い辺りだった。アンダナーダ席は柵で仕切られて、それより下方の、もっと闘牛場に近い、ワンランク上の席には入れないようになっていた。




下の方の「値段の高い席」にはかなり空きが目立つ。席が空いていたら、こっそり下の方の席に潜り込んでやろうかと目論んでいたのだが、移動するのは、ちょっと無理そうだ。




値段の高い席の入り口には、係りの人(警備員?)が等間隔に立っていて、客のチケットをチェックしているようだ。




我々の席にはそんな係りの人はいない。お気楽なものだ。アンダナーダの席はどんどん人で埋まってきた。




我々の席の斜め下方に丁度楽団の舞台が出来ていて、小さなオーケストラが控えていた。指揮者も楽団員も皆かなりのご高齢に見える。その楽団の席の反対方向に、VIP席らしい舞台席があって、誰が座るのか、椅子も超豪華である。その横に、小大鼓とトランペットが陣取っていた。




闘牛場に、まだまだ眩しい夏の陽射しが陽気に照り付けている。写真や漫画でしか見たことのなかった闘牛場が、円を描いて目の前にある。最上層の辺りから見下ろしていると、闘牛場がかなり大きく見える。自分たちが空に近いように感じる。キラキラ




段々になった客席は、下の方の席はがらがらで、活気がない。我々のアンダナーダの席よりも椅子の素材もよさそうだ(プラスティックだが)。ぽつりぽつりと座っている客層もお上品そうだ。着ている服も高級そうだ。こりゃ、警備員でも出して見守らなくては……ってことになるのかしらん。




で、我々の周りはというと、いつの間にか人で一杯。“立ち見”の人もいる。客層は、特に“おっさん”が多い。みんなラフな服装で、仲間同士のおしゃべりに夢中なおっさんたちもいれば、一人で味わいに来ているって感じのおっさんもいる。他に行くところがないって感じの孤独そうなおっさんもいる。




中には席に座らず、コンクリートの地べたに直接座って、柵から足を出してぶらつかせているおっさんもいる。みなさん、かなりリラックスしたご様子。こりゃ、警備員も何も、知ったこっちゃないね。




色々な物売りが客席を周って歩く。バゲット売り、ビール&コーラ売り、アイス売り、マタドール(闘牛士)の写真売り。客たちはポケットを探って小銭を出しては、あれこれ買う。




ぎらぎら照りつける夏の陽射しに目を細めつつ、物売りと客とのやり取りを聞いていると、なんとも楽しい。特に楽しかったのが、ビール&コーラ売りだった。チョキ




昔、電車の駅のプラットフォームで見かけた“弁当売り”のように、平たい箱をベルトで首から引っ掛けて、軽快な売り声を上げて行き来する。




あ、ビア・コラッ♪♪♬ (尻下がりに音譜ビア・コラ♪(尻上がりに音譜)」 これが、「はぁ~。えんや~とっとぉ♪♪♬ やんや~とっとぉ♪」という民謡の“合いの手”とよく似ている。あれをちょっとリズムカルにした感じ。少しラップ調? ラップバージョンで、「あ、松島のっ♪」と歌い出したくなる。音譜




「ビア・コラ」おじさんの中年太りで出っ張ったお腹ががっしりと支えている箱の中には、ビールとコーラが並んでいた。小さなスナックも売っているようだ。ああ、こんな午後の陽気な陽射しの中で、ビールなんて、い~ね~♪ ビール




……と思ったが、ここはバルセロナ。警備員も知らん顔のアンダナーダ席。酒飲んで浮かれるのは危険だ! と夫は思っているようだ。 「ビールだよ。飲む?」と私が水を向けると、即座に「要らない。」と首をぷるぷる振る。




「あなた、飲みたいのなら、飲めばいいじゃない。僕に構わず飲んでいいよ?」と言ってくれるが、……1人で飲んでもなぁ……。





それに周りを見ると、おっさんたちはビールを飲んでいる人が多いが、女性はビールを飲んでいないではないか?




偶々(たまたま)かもしれないが、もしかしたら、闘牛場でビールを飲む女なんて、「はしたない女」と見られるのかもしれない? えっ




海外にも女性の“タブー”が結構ある。「女性は人前で煙草を吸ってはいけない。」「女性は人前でなくとも煙草を吸うもんではない。」「女性が勝手にワインを注いではいけない。」「女性はスカーフ巻いて顔隠さなくてはいけない」etc.etc.……。だぁぁぁっらっしゃいっ!(黙らっしゃいっ)と叫びたくなる。プンプン





が、郷に入っては郷に従え。とりあえず、現地のマナー、現地の“女性観”をあまり損なわないようにしたいものである。別に今ここでビールを飲まなくたって死ぬわけでなし。特別なビールが売られているわけでなし。




(例えば「闘牛ビール」とか、「牛のマークのビール」とか、「ビール・マタドール」とか、「オーレ・ビール」とか「ビール 血と砂」とか……etc.だったら、飲まずにいられないだろうが。)





しかし、陽射しがさんさんと照りつけて暑い。喉が渇いた。よし、ここはコーラで我慢しておこう! と、ようやく決心して「ビア・コラ」おじさんを呼び止めた。パー




愛想一杯におじさんは、「あ、ビア?」と聞いてくる。私もにっこり笑って、「あ、ノッ! コラ、コラ!」と返す。すると、「あ~、◎☆▲。ノッ・コラ。ノッ・コラ♨✤※♬」と言って、ほとんど空っぽになった箱の中身を見せる。ビールしか入っていない。コーラは数本入っていたが、空き瓶だ。コーラは売り切れたらしい。





「え~? ノ・コラ?」「シ~。ビア・ビア?」「う~ん。ビア、ノッ! コラ、ノ~?」「ノッ。ノ、コラ」「こらこら~。」……と何だかふざけたような片言の掛け合いになり、結局、「そりゃ、残念。」とばかりにお互い肩をすくめて、「ビア・コラ?」の掛け合いを打ち切ったのであった。愉快、愉快。ニコニコ




「ビア・コラ」おじさんは「ワケの分からん東洋人だなぁ」と思ったかもしれないが、嫌な顔一つせず、にこにこ満点の笑顔で、再び売り声を上げながら去っていった。




その掛け声を今一度よく聞いたら、今までは「ビア・コラ♪♪ あ、ビア・コラ♪」だったのに、今は「ビア・ビア♪♪ あ、ビア・ビア♪音譜」になっているじゃないか。気がつかなかった!えっ 


  




参照:宮城県民謡「斉太郎節(大漁唄い込み)」


 


(注:私の記憶が確かならば、「えんやーとっとぉ、えんやーととぉ」と合いの手が入って、以下の唄が始まる。)




松島の サーヨー 瑞巌寺ほどの


   寺もないとエー


 アレワエーエ エトソーリャ 大漁だエー


前は海 サーヨー うしろは山で


   小松原とエー


  アレワエーエ エトソーリャ大漁だエー        


石巻 サーヨー その名も高い


   日和山とエー


アレワエーエ エトソーリャ 大漁だエー


(↑「プラムレコード」というサイトから歌詞を勝手に拝借しました。グラシアス。)


      


         つづく


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2001年夫婦世界旅行のつづきです。8月半ばの日曜日。バルセロナ3日目。闘牛のチケットは手に入れましたが……。




part237 闘牛は何時に始まるの?




要約: さて、チケットは手に入れたが、闘牛は7時に始まるはずなのに、チケットにはそれとは別の時間が印刷されているのであった。スペインの「夕方」って何時なんだろう?










さて、手に入れたチケットを見ると、「4時半」と「6時半」という時刻が表示してある。しかし、それが何の時刻なのかは、トンと分からない。はてなマーク




「開場」か「開演」の時刻なのだろうとは思うが、ⓘ(ツーリストインフォメーション)の人は、「闘牛は7時に始まる!」と何度も言い切っていた。パンダ





となると、やはり「開場」の時間が4時半で、6時半は「着席」の時間ででもあるのだろうか? あるいは「開演」そのものが7時ではなく、6時半なのだろうか? はてなマーク





“スペイン人は時間にルーズだが、闘牛だけは時間きっちりに始まる”ということだった。本に拠ると闘牛は「夕方から始まる」とあった。4時半なんてスペイン人には「夕方」とは言えないだろう。





どうなっているのだろう? もしかして、「前半」が4時半にまず始まり、「後半」が6時半に始まるという意味なのか? はてさて……。





今一度、あの列に並んで窓口の人に確認するのも面倒だ。 (さっきの“横入り男たち”は、この“時間”のことを確認していたのかもしれないね。) とにかく何も見逃したくないから、4時半に間に合うように行けばいいや。ニコニコ




4時半までの数時間、闘牛場から歩いて行けるサグラダ・ファミリア教会へ足を伸ばした。堪能しているほどの時間はないので、中には入らず、教会の外側をぐるりと回って、その外貌を楽しんだ。キラキラ




サグラダ・ファミリアは、1882年に建設が始まって以来(ガウディが建設に関わったのは1883年以降らしいが)、いまだに「建設中」である。完成は200年後ということで、つまり2082年? 外観だけ見ていると、既に歴史的建造物の風格があるのだが。虹





古い石造りは壮麗且つ敬虔なカテドラルを思わせる。しかし、その装飾たるや、ハチャメチャな、奇想天外なものだ。完成図は一体どうなっているのだろうか。教会内は吹き晒しのようだ。う~む。外観だけで圧倒される。キラキラ




一回りしたら、サグラダ・ファミリア教会の斜め前にあるカフェで早めの夕食を取った。テーブルにつくと、道路を挟んでサグラダ・ファミリア教会が間近に見上げられる。ビール




絶好のロケーションのせいか、日曜で他の店が開いていないからか、そのカフェは客で溢れていた。しかし、食事は今一つだし、注文の品はなかなか持ってこないし、「コップ」で頼んだビールを「カラフ」で頼んだことにして請求書を持ってくるし、ひどいものだった。プンプン






気分をすこぶる壊して、闘牛場へとって返したのだった。オバケ




           


つづく


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