「ダイアロス島全域は高気圧に覆われ、本日も各地で35度を超す酷暑日となるでしょう。特にビスク地方は厳しい暑さが続く見込みです。続いては・・・。」
 そんなシェル・レラン店内の天井スピーカーから流れるラジオを聞くまでもなく。
 真っ青な空。黄金色に輝く海。水平線の彼方に浮かぶ入道雲。
 陽炎。霞む視界。まとわりつく蒸し暑さ。
 滴る汗。蝉の声。そして、そこにあるもの全てに平等に降り注ぐ、赤く熱い太陽光線。
 ビスクは夏真っ盛りであった。
 
 「ああああ! あっづーーい!!」
 ここ、レストラン、シェル・レラン内では、シェフ達が溶けていた。
 ある者はうちわをパタパタ、ある者は扇子をパタパタ。ある者は水を張ったバケツに足をひたし、またある者はかき氷をシャクシャクと。
 しかしそれでも暑さが消えるわけなく、シェフ達は暑さに対する不満をぶちまけながらも、動くことなくじぃーっとしていた。
 その様子を見て、溜息をつくシレーナ。
 「全く、だらしがないですわ・・・少し注意しないとダメですわね。」
 そうぶつぶつ言いながら、皆の前に出ようとする・・・と、その時。
 「シレーナ様~。ちょっといいですかぁ~?」
 特徴のある間延び声と共に、巨躯が姿を現した。
 「あらグロボ。どうしたのですか?」
 「実はですねぇ~。僕、また面白いイベントを考えたんだぁ~?」
 「貴方のイベント・・・ですか?」
 シレーナは反射的に眉をピクピクっと動かす・・・が、すぐ表情を戻し、そして少し考え、そして言った。
 「そうですわね。たまにはいいかもしれませんわね。」


 夕刻。
 シェル・レラン廊下、掲示板前に人だかりが出来ていた。ライチは気になって、トトトッと人混みまで駆けていき、最外周に居たコックに話しかけた。
 「ねえねえ、何かあったの?」
 「あ、ライチ君。この張り紙を見てみなよ。」
 「張り紙・・・?」
 人混みの隙間に顔を突っ込み、掲示板を見た。そこには、昼間には貼られていなかった、見覚えのない張り紙があった。
  
 ギルドガイド・グロボのイベント案内。
 暑さなんてぶっ飛ばせ! 納涼、肝試し大会!! 
 イベント会場:ムトゥーム地下墓地

 イベント詳細:当日発表
 本日夜8時から開催
 追記:全員参加する事
 
 「イベント? グロボさんってイベント企画するんだ。楽しそうだなー。」
 その瞬間、ざわめいていたシェフ達が静まりかえり、そして全員が一斉にライチの方を向いた。
 その表情は、驚愕。いや、もっと詳しく表すのなら「何言ってるんだ、こいつは?」と思ったときに思わず浮かべてしまうアレな表情。
 シェフの1人が、ライチの側まで顔を寄せて、誰にも聞こえないように声をかける。
 「ライチ君は、前のグロボ企画の時って、まだシェル・レランに来てなかったんだっけ?」
 「えと、えと。多分、来てないかな。・・・ねえねえ、何でみんな、こんな困った顔をしているの?」
 ライチはそっと、そのシェフに耳打ちする。 
 ライチの言うとおり、シェフ達の表情は暗かった。ある者は顔を片手で覆ったり、ある者は首をうなだれたり。
 シェフが答える。
 「実はね、グロボさんの企画は、無理・無茶・無謀の三拍子揃った、とんでもないものばかりなんだ。前回は、みんなでバードウオッチングって企画が、何故かタルタロッサパレスまで行かされて、散々な目にあったしね・・・。」
 「そうなんだ。」
 「だからライチ君、今夜は出来る限りの重装備で来た方がいいよ。」
 
 そして夜。
 ムトゥーム地下墓地案内板前で、車座になっている武装レラン、その数およそ30人。マブ教徒が横目でチラチラ様子を窺うのも気にせず、真剣な表情をしていた。
 シェフの1人が、手に持った一枚の紙を、鬱陶しそうに眺めながら言う。
 「これだからグロボ企画はやばいんだよな。どーするよ、これ。」
 「どうもこうも、グロボさんシェル・レランで待ってるんだろ。やらないともっとやばいし、何とかするしかないよな。」
 「けど、これ、何とかするの域を超えてないか?」
 そう言われ、シェフ達はそれぞれの手に握られた紙に、もう一度目を通した。
 
 ギルドガイド・グロボのイベント案内。
 暑さなんてぶっ飛ばせ! 納涼、肝試し大会!! 
 ~イベント内容~ 
 スタートからゴールまで、地図の通りに進んでいく。途中、怖いお化けとかが出るかも。その時は頑張ってお化け達もぶっ飛ばせ!
 ゴール地点に光る石が置いてあるから、1人1個持ってくれば合格!
 
 そして地図が添えられているのだが。
 ゴール地点は、どう見ても地下4階最深部、アスモダイデュークの住処であった。


 会議は紛糾する。
 「大体さ、グロボさん1人で全員分の光る石をここまで運んでるんだろ。どうやってやったんだ?」
 「あの人なら出来るだろ。何たって、帝国格闘大会で前人未踏の5連覇を成し遂げて、国王から永久王者の称号まで貰った人だろ。シレーナ様に負けて軍門に下るまで、負け知らずだったらしいじゃん。」
 「そんなだから、この企画が無茶だって分からないんだろ。」
 「4階の途中までは逃げ続ければ何とかなるけどさ。けど、最深部前ってスカルパスがもの凄く大量に闊歩してるし、まず通れないよ。」
 「1人ずつ行くんだろ。確実に死んでこいって内容だよな。」
 「これって、スカルパス達に話つけていて、本当に驚かすだけって事は無いかな?」
 「無い無い、まず無いね。タルタロッサ・パレスでも、ダーイン山でも、同じような希望を持ったけどアレだったじゃん。それ以前に、お化けが出たらぶっ飛ばせって書いてある時点で望みゼロだろそんなん。」
 会議は紛糾する。
 と、そこに。
 「ねえねえ、だったらこうすればいいじゃん!!」
 元気よく手を挙げるライチ。
 皆、一瞬その姿に注目、そして溜息をつき。
 「まあいいよ。どんな作戦か話してみてよ。」
 諦め半分の声で、誰かがそう言った。
 
 ライチが作戦を説明する。
 はじめは適当に聞き流そうとしていたシェフ達だが、皆一斉にイベント案内を読み返し、そして言った。
 「そうか、そういう手があったか・・・。」
 
 数刻後。ムトゥーム地下墓地4階、最深部。
 そこに、シェル・レランのコック服を着た武装シェフが1人・・・2人、3人・・・計30人。
 そう、シェフ達は全員で地下墓地へ潜っていったのだった。
 誰かが言う。
 「確かに1人で行かなくちゃいけないとは書いてなかったけどさ。最早これって、肝試しでも何でもなくて、只の狩りだよな。」
 「考えるな、感じるんだ。じゃなくてグロボ企画は考えたら負けだ。とりあえず、生き残る事だけ考えろ。」
 「そうだな。じゃあ行くぞ・・・GO!!」
 合図と共に武装レランは祭壇前へと雪崩れ込む。応戦してきたスカルパス達と刃を合わせ、魔法をかいくぐり、弓矢、銃弾を撃ち込んで。
 乱戦が繰り広げられる。
 一体一体の戦闘力はさほど高くないスカルパス。個別撃破を繰り返され、あっという間にその頭数は減っていき、ついにはゼロとなる。
 そして武装レラン達はデュークへ突撃。地下墓地の主とも称されるデュークだが、数の暴力には為す術もなく、激闘の末に倒された。
 そして武装レラン達は祭壇へ駆け上り、光る石を拾って、その足で地下墓地1階まで逃げていったのであった。
 
 そしてビスク港、シェル・レラン内。
 シェフ達は光る石をグロボに渡す。
 「みんな合格だねぇー。どう、暑さはぶっ飛ばせた?」
 「ええ・・・はい・・・(もう少しで暑さも寒さも分からない世界にぶっ飛ばされるところだったよ)」
 「それは良かったぞぉー。それじゃみんな、仕事頑張れよぉー。」
 「あ、はい。それじゃ、ここで失礼し・・・。」
 とそこで、グロボが一言。
 「このイベントは簡単だったから、次はもうちょっと難しくするぞぉー。」
 
 この後、シェル・レラン会議室で、第3回グロボ対策会議が開かれた。
 当然、会議は紛糾した。
 誰かがぽつりと言った。
 「お化けよりもスカルパスよりも、グロボさんに関わる事が肝試しだよな。」
 (第39章 完)

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