トントンと、ドアをノックするシレーナ。程なく、木の板の向こうから、ぶっきらぼうな声が聞こえた。
 「開いてんよ。」
 「失礼致しますわ。」
 ノブを回して、シレーナが部屋へ入る。続いて、筆記用具とメモ用紙を携えたカマロンが入る。
 「何だ何だ、これから事情聴取ってわけか、おい。」
 部屋にいた男は、目深に被ったフードの上から、頭を掻く。
 「はい。その通りですわ。私の質問に、しっかりお答えになって下さいね。」
 その言葉に、男は両手を広げるジェスチャーで悪態をつく。
 だがシレーナは一向に気にせず、質問を始めた。
 「ジャスティンさんは、倒れる前に何をしておりましたか?」
 「ああん? 食事に決まってるだろ・・・・・・ええっとな、確かローストバルドスミートを食べていた時だったな。あいつは俺の隣だったけど、いちいち皿まで見てないから、よく分かんねーよ。」
 シレーナの目を見て、真面目に答え直す怪しい男。それで満足したのか、何も言わずに質問を続けた。
 「今回の5人が集まるきっかけは何でしょうか?」
 「あー、俺が呼んだんだ。たまには旨い飯でも食わないかってな。」
 ・・・・・・その後、数回の質問が続き。
 「では最後に一つ宜しいでしょうか? もし、貴方がたの中に犯人が居るとしたら、どなただと思われますか?」
 「そんな事知るか・・・って言いてえ所だけど、ジョニーは怪しいかもな。何かのランキングでジャスティンに負けたとか言って、相当悔しがっていたからな。」


 部屋を出たシレーナは、その足で隣の部屋へと向かい、その手でドアをトントン叩く。
 程なく中から声が聞こえ、シレーナはノブを回す。
 「失礼致しますわ。」
 「いえ、お気になさらずに、ミス・シレーナ。調査に協力するのは、我々ガードの勤めですから。」
 「有り難う御座います。それでは簡単に質問させて頂きますね。」
 しかしジョニーは、シレーナの言葉など耳に入っていなかった。視線はシレーナに釘付けのまま。
 「(何だ何だ、アクセルの野郎が恐れてる女だって聞いてたけど・・・美しいしバイーンだし、最高のレディではないか。噂は当てにならぬな。)」
 「あの、宜しいでしょうか?」
 そんな様子のジョニーを見て、シレーナは少しだけ怪訝な表情を浮かべた。
 「あ、いや、失礼。少々考え事をしておりまして。えと、質問でしたな。」
 「はい。では、ジャスティンさんが倒れた時の状況は分かりますか?」
 ジョニーは少し表情を歪める。そして、ガントレッドでヘルメットを掻きながら、言った。
 「実は・・・レディの前でこんな話をするのは失礼かもしれませんが・・・俺はトイレへ行っておりまして、倒れた時は居なかったのです。」
 「そうですか。ではどこで毒を飲まされたか、見当もつきませんか。」
 「はい・・・いや、そうだな。彼は確か、一度トイレに行ったような・・・。」
 「そうですか? いつ頃に?」
 「確か二品目・・・スープの後ぐらいだったかな。」
 ・・・・・・・その後、数回の質問が続き。
 「分かりました。では最後の質問ですが・・・ジョニーさんは、最近何かのランキングでジャスティンさんに負けたご様子ですが、それについて・・・。」
 そう言った途端、ジョニーの顔色は紅潮し、目玉は見事にスイミング。
 「あ、ああ、そうだ! あの男、俺が長年守ってきた、「ダイアロスへっぽこ男ランキング」「守ってくれなさそうな男ランキング」それに「口先三寸王」の三冠を全て持っていきやがったんだ。おかげで俺のアイデンティティはズタボロだ・・・っと、失礼。取り乱してしまいました。」
 そこまで言って、ようやくジョニーは気付いた。
 「ってまさか、俺を疑ってるのですか? お、俺ではないです! そ、そ、そうだ! フランチェスカなんか怪しいですよ。この間、ジャスティンの事を大分怒っていましたよ。」
 「・・・そうですか。貴重な情報、有り難う御座いました。」
 シレーナは軽く、お辞儀をする。
 「いえいえ、ガードとして当然の勤めですよ。それより・・・。」
 そう言うと、ジョニーはとびっきりの(本人談)笑顔を浮かべ、シレーナの前に歩み寄り。
 「それより、この後のご予定は空いておりますか? ミス・シレーナ。」
 白い歯に輝きを浮かべながら、シレーナの手をそっと掴んだ。
 と、シレーナは軽く微笑みを返すと。
 「申し訳在りませんわ。まだ忙しいものですから。」
 ジョニーの右手甲を掴み、くるっと180°ほど捻る。
 捻りの力は手から腕、身体へと瞬時に伝わり・・・ジョニーの足が浮き、身体が見事に半回転。床に、頭から落下した。
 シレーナ流合気術・小手返し
 物言わなくなったそれを残し、シレーナとカマロンは部屋を出た。
 
 女性陣の部屋が離れているのは、シレーナの配慮だろう。
 シレーナとカマロンは数分歩き、ようやく次の部屋へ到着した。
 「はぁーい、どうぞー。」
 ドアの向こうからは、気怠そうな声。
 「失礼致します。フランチェスカさんですわね。」
 「そうですよー。で、いつになったらここから帰れるの?」
 ベッドに座ったまま、ふくれっ面を見せる。
 シレーナは笑顔でそれをかわす。
 「申し訳ありませんわ。犯人が見つかるまで、ご協力お願い致します。」
 その返答に、更に頬をふくらませてみせた。
 「では質問宜しいでしょうか。貴女は倒れたジャスティンさんに真っ先に駆け寄ったと聞きましたが、何か変わったところはありましたか?」
 「うーん・・・変わったところって言っても、倒れる事自体変わってるんだから、分からないわ。」
 「倒れる前の、ジャスティンさんの様子はどうでした?」
 「そうですわね・・・はしゃいでいるだけでしたわ。料理は真っ先に食べ終わってましたし、変な様子もなかったですわね。」
 その答えに、シレーナはちょっと引っかかる。
 「あら? ジャスティンさんは、料理を食べるのがそんなに早かったのですか?」
 「ええ、そうですわ。私、席が隣だったからよく見えたのですが、あっという間に食べちゃうから、もっと味わって食べればいいのになー、って思いましたわ。」
 ・・・・・・この後、数回の質問が続き。
 「では最後の質問ですが・・・フランチェスカさん、この間、ジャスティンさんにバカにされたと聞きましたが・・・。」
 それを聞いて、フランチェスカはあからさまに表情を変える。
 「そうなのよ! あいつ、私が作ったクッキーが不味いとかいいやがったのよ! 腹立つじゃない・・・って、もしかして私、疑われている? いやですわ、私がそんなことするわけないじゃないですか・・・あ、そうだ! 睡蓮とか怪しいと思うわ。この間、睡蓮がジャスティンにバカにされたって怒ってたわ。」


 「どうぞ、入ってください。」
 睡蓮は自分でドアを開け、シレーナとカマロンを迎えた。
 「失礼致しますわ。」
 シレーナと、続けてカマロンが部屋に入り、ドアを閉める。
 シェフの誰かに用意して貰ったのだろう、睡蓮の部屋には椅子が3脚、置いてあった。
 「事情聴取でいらしたのですよね。私に分かる事なら、何でもお話し致しますわ。」
 「ええ、そうして頂けると助かりますわ。」
 3人は椅子に座り、そしてシレーナから口を開いた。
 「ジャスティンさんの様子で、おかしいところはありましたか?」
 そう聞かれ、首を軽く傾げる睡蓮。そして、言った。
 「そうですわね・・・そう言えば、悩んでいる節はありましたわ。」
 「あら、本当ですか? 他の方々は、そんな事言っておりませんでしたわ。」
 「ええ・・・私も、悩んでいる姿を見てしまっただけでして、誰にも言わなかったものですから・・・知っている人は少ないと思いますわ。」
 「その悩みとは、なんでしょうか?」
 「ええっと・・・自分はダイアロス島の勇者にふさわしいのだろうか、とかそんな感じでしたわ。」
 シレーナの目線合図で、カマロンはメモに言葉を付け加える。
 ・・・その後、数回の質問が続き。
 「では、最後に一つだけ。睡蓮さんとジャスティンさんが喧嘩していた、という証言を得たのですけど、それについては・・・?」
 そう言われると、睡蓮の顔はサァーッと赤くなる。
 「あ、あら、どっからそのお話を? 恥ずかしいですわ・・・あの、実はですね。私、お酒を飲むとどうしても自分を見失ってしまいまして・・・。それをジャスティンさんにからかわれた事があったのです。」
 睡蓮は下を向き、もじもじと話す。
 「それで・・・ついジャスティンさんを殴り飛ばしてしまって。ええ、でもその話はもう終わった事ですわ。でも誰が一体そんな事を? あ、きっと怪しい男さんですわ。あの方、この間ジャスティンさんに通報されて、商品を全てガードに没収されたって、怒っておりましたもの。」


 事情聴取を終え、部屋へと戻るシレーナとカマロン。
 メモを見ながら、煮え切らない表情で呟く。
 「こう見ますと、どなたも動機があるのですわね。アリバイがあるのは・・・敢えて言えば、ジョニーさんぐらいでしょうか?」
 と、その時。
 ドアをバンと開けて、ライチが入ってきた。
 「シレーナさまー、ホールの動き、まとめてきましたよー!」
 (第25章 完→第26章へ続く)

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