それは、ライチがシレーナの部屋をはたきでパタパタしている時だった。
 そもそもシレーナの部屋には調度品が少ない。食器棚に飾られている、イルミナ様から下賜された銀食器と、壁に掛けられている、パトロンから譲渡された古伊万里の大皿以外は、料理道具に材料、書籍やシレーナナックル、書類やハンコなどなど実用品ばかり。
 そんな中、ライチはいつも気になっている物があった。
 出窓に飾られている薄汚いひょうたん、である。
 調度品にしては汚すぎる、だが実用品にしても使っている姿を見た事がない。
 一体これは何なんだろうと、ライチはそれを見る度、疑問に思っていた。
 はたきは食器棚から机へ、そして出窓へ。目の前には、件のひょうたん。「何だろう、これー?」とぼぉーっと考えながら、手は機械的に窓際の埃を散らしていく。
 と、誤ってはたきの先端で、ひょうたんを突いてしまった。
 コン!
 小さな音が響く・・・それだけなら良かったのだが。運悪く、現在は掃除中。当然、窓は全開。
 ひょうたんは台座から落ちると、思いの外よく転がり・・・窓から転落。
 「ああーー!!」
 慌てて手を伸ばすが、掴むのは空気のみ。窓から身を乗り出し、地面を見るが・・・そこには、ひょうたんの破片が散らばっていた。
 ライチは破片を全て拾うと、周りに誰もいない事を確認してから、脱兎の如く現場から逃走。
 しかし、このままではいずれ見つかってしまうだろう。悩んだライチは、カマロンに相談した。
 「それは困りましたね。あのひょうたんは、お嬢様がアマゾネスから頂いた物としか聞いておりませんが・・・アマゾネスに頼めば、同じ物を譲っていただけるかもしれませんぞ。」
 その言葉を頼りに、ライチはヴァングリンドの巣穴へ向かった。


 門番のアマゾネスガードに話を付けて、ライチはアマゾネスボスと面会する。
 「あの・・・かくかくしかじか・・・という訳で、ひょうたんを譲って欲しいんです。」
 ライチの話をじっと聞いていたボスは、話が終わるとおもむろに口を開く。
 「ちょっとー、今の話マジでむかつくんだけど。それで私らが得することある? そんなんでひょうたんをあげられるわけないじゃん。リサー、こいつつまみ出しちゃってー。」
 「おっけー。」
 傍らのアマゾネスアーチャーが、ひょいっとライチの首根っこを摘んで、持ち上げる。
 「ちょ・・・うわ、わわわわ・・・。」
 アマゾネスアーチャーが、出口へ向けて歩き出す・・・と、そこでボスが止めた。
 「ちょっと待ってー、リサ。こいつの鞄、いい匂いがするんだよねー。メグ、ちょっと調べて。」
 「おっけ☆」
 傍らにいた、もう1人のアマゾネスアーチャーが、ライチのぞうさんリュックをまさぐる。と、その手に瓶が一本握られた。
 「ボス。ワインいっこゲットしたよ☆」
 「へー、いいもん持ってんじゃん。そうだ! これを100倍持ってきたら、考えてあげるよん。」


 巣穴からつまみ出されたライチは、その足でネオク・ラングへ向かう。そしてグレープとミニウォーターボトルを100個ずつ買い、ワインを作りはじめた。
 程なく、100個完成。
 「よーし、出来た。これでひょうたんが貰えるぞー。さてと・・・って、重っ。重いけど・・・持っていかないと。」
 ワインの入った木箱を両手で抱え上げ、よたよた歩きながら、ライチはヴァングリンドの巣穴へ向かった。
 ・・・・・・・・・。
 長い道のりを歩ききり、ようやく到着。そして、再びアマゾネスボスと面会した。
 「ふうっー、あの、持ってきました。」
 「へー、ホントに持ってきたんだ。凄いじゃん、あんた。」
 アマゾネスボスはニヤニヤと、ワイン入りの木箱を見つめる。傍らの、2人のアマゾネスアーチャーも同様。
 「じゃあ、ひょうたんと交換で、ね、ね?」
 ライチがそう言うと、何故か、アマゾネス達はニヤニヤ笑っていた。
 そして、ライチは・・・再び首根っこを掴まれて、巣穴入口まで連れてこられていた。
 「にゃー、にゃー! 何で、何で何でちゃんとワイン持ってきたじゃん!!」
 「ははっ、鈍いねー。まだ分からないの? ボスは、考えてあげるって言ったジャン。だからー、考えたけどやっぱダメーって事じゃない? じゃーねー。」
 そう言うと、アマゾネスアーチャーはライチをポーンと、投げ飛ばした。
 「えーん、嘘つき、嘘つきー!!」
 入口で、ライチは泣きながら抗議する。だがその声に応える者は居なかった・・・・・・わけではなかった。


 「成る程な。許せねーな、それは。なあ、ミルさん。」
 「そうですね。ちょっと懲らしめないといけませんね、ボン姉さん。」
 ビスク某所。某屋敷内。口から上が影に隠れて、その顔は見えないが。エルモニーとパンデモスが、ライチの話を聞いて、そう答えた。
 「え、それじゃ?」
 「ああ、梵語連、この一件に介入させて貰うぜ。ミルさん、人を集めな。ヴァングリンドの巣穴、かちこむぜ。」
 「あいよ。」
 スッと、パンデモスが姿を消す。
 「じゃあライチ君。明日の朝、ヴァングリンドの巣穴に来な。」

 そして翌日朝。
 戦闘装備で身を包んだライチが、巣穴入口に。すると、そこには20数人もの冒険者が待っていた。その中には、ボン姉とミルも居た。
 「お、来たかライチ君。準備はいいようだな。それじゃ・・・者共、かちこむぞ!!」
 「おー!!」
 ボン姉のかけ声と共に、冒険者達が巣穴へ突撃する。
 面食らったのは、アマゾネス達。
 「ちょっと、何なのこれ? ライヴ? あー・・・。」
 「私ら、やばいんじゃねー? うー・・・。」
 バタバタと、アマゾネス達が倒される。冒険者達は、巣穴を駆け、進み、そしてボスの間へ。
 「運命と呼ぶ以外他はない♪・・・て、あんた達ナンパ? ちょーウザいんだけど?」
 そこでは、アマゾネスボスとアーチャーが、カラオケを歌っていた。その周りをぐるっと冒険者達が取り囲み、ライチが一歩前に出る。
 「あー、あんたワインくれたやつジャン もしかしてリベンジってやつ?」
 「よくも僕を騙して、許さないよ! ワイン100本の仇、思い知れ!」
 その声と共に、冒険者達は一斉にアマゾネスへ飛びかかり・・・三人を、あっという間に縛り上げた。
 「もー、信じらんない。女の子にこんなことする、ふつー?」
 「サイテーって感じ?」
 アマゾネス達は口々に文句を言う。
 「へっ、これで人様を騙そうなんて、もう思うんじゃねーぞ!」
 その前で、ボン姉が仁王立ち。
 「・・・ねえ、ひょうたんは、ひょうたん?」
 ライチが聞く。と、アマゾネスボスが「そこだよ。」と言って、顎で場所を指し示した。
 そこは・・・ボン姉の足の下だった。
 「・・・あ。」
 そう、ひょうたんは、冒険者達が一斉に飛びかかった時。
 乱闘の最中に投げ出されて・・・ぐちゃぐちゃに壊れていたのだった。
 
 後日談
 ライチは、ひょうたんを割ってしまった事を、素直にシレーナへ告白した。
 しかしシレーナは涼しい顔でこう言った。
 「あらあら、割ってしまったんですの。大丈夫ですわ、アマゾネスに言えば、また向こうから献上してきますわよ。」
 (第20章 完)

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