ライチは小さい身体を更に縮こまらせながら、冷たい石壁に身を擦らせるように歩く。
 ここはムトゥーム地下墓地最下層、デスナイトの守る墳墓。その虚ろな目にライチが映れば、直ちに彼らは動き、無慈悲にデスサイズを振り下ろすだろう。だからこそ、ライチは慎重に、慎重に部屋の壁を伝って歩く。
 そして、運良くデスナイトに見つかることなく、部屋を抜けた。
 「・・・はあっ・・・怖かったー。」
 一つ、息を吐いてから。
 再び気合いを入れ、ウッドゥンポールを両手で握る。
 「えと、カマロンさんが教えてくれた場所は・・・この先だったかな・・・あ、あった!」
 広い通路の先に、石造りの短い階段。所々が欠け、抜け落ち、ヒビが入っている。踏んでも大丈夫そうな段を選びながら降りていくと・・・。
 「(・・・居た!)」
 ライチは心の中で叫ぶ。捜していた人を、見つけた。
 黒いローブを纏い、杖をつく男。フードを目深に被っているせいで顔は見えないが、雰囲気から分かる。
 そいつが、魔法を使う盗賊だと。
 ライチはカマロンから聞いた言葉を反芻する。
 「地下墓地最下層にいる盗賊の魔法使いなら、呪文抵抗を上げる相手に最適で御座います。彼らは単独で行動する上に、使う魔法も弱く、今のライチ君でも十分に太刀打ち出来るでしょう。」
 そして、意を決して、ライチは駆けだした。
 盗賊はライチの姿に気付き、杖を構える。そして声を上げた。
 「誰だ? 冒険者か? 丁度いい、身ぐるみ置いていけ!」
 ライチも負けじと、声を上げる。
 「やだよ! 覚悟しろ、えと・・・盗賊Aめ!」
 「・・・俺の名前はそんな単純じゃない!!」
 盗賊Aは怒りに震えながらも、口の中でごにょごにょと呪文を唱え始める。
 「万能なるマナよ、炎の玉となれ! マイナー・バースト! 毒の霧となれ! ポイズン・ミスト! 氷の礫となれ! アイス・ボール!」
 矢継ぎ早に、呪文をぶつけてきた。
 ドーン! もわっ! ピキーン!!
 全てライチに命中。そして・・・。
 「にゃーー!! うわー、熱いよー! 身体がチクチクするよー! 冷たいよー!!」
 早くも音を上げ、ライチは逃げ出した。
 
 その後何発もの呪文を受けながらも、ライチは何とか盗賊Aを振り切り、壁際に身を隠す。しかし怒号と足音はだんだんと近くなり、見つかるのは時間の問題だろう。
 「(うわーん・・・体力もう無いよー。どうしよう・・・あ!!)」
 その時、ある言葉を思い出した。
 「呪文抵抗を上げに行くんだってね。良かったら持っていきな。困った時、きっと君の助けになるはずさ。」
 「(そだ! ジャムさんに貰った野菜ジュース! 確か体力が減ったら飲むもんだって言ってた!)」
 大急ぎでぞうさんリュックを降ろし、中身をゴソゴソとまさぐる。そして、丸い瓶の感触が。
 「(あった! 後は蓋を開けて・・・って、臭っ!! でも飲まないと・・・えい!)」
 ライチは鼻をつまんで、緑の液体をゴクゴクと飲み干す。
 「・・・不味い!!」
 思わず声を出し、同時に瓶を投げ捨てる。
 「そこか!!」
 バカな理由で見つかった。お約束としては、「うわー!!」とか叫びながら逃げるのだが。
 その時は違った。ライチは身体に現れている、とんでもない変化に戸惑っていた。
 ジュウウウウウ!
 傷口や火傷から、白い煙が吹き出す・・・と同時に、その傷がみるみるうちに治っていった。
 「何・・・なにこれ? ミカエルの眼の薬? アンデルセン神父? でもこれなら、これなら・・・。」
 足音が迫ってくる。怒号は聞こえない・・・恐らく、呪文を唱えているのだろう。しかしライチは臆することなく、しっかりとその両手でウッドゥンポールを構えると・・・。
 「これなら、いくらでも逃げられる!!」
 完全に、敵に背を向け、駆けだしたのであった。


 翌日。
 ライチはミーリム海岸をトコトコ歩く。目的地は砂浜の先、大きな岩の元。
 そこに行くよう教えたのも、やはりカマロンであった。
 「大きな岩の周りに、フードを被った一団がおります。人々は彼らを「異端者」と蔑みますが、実際は気のいい者たちで御座います。きっと、ライチ君の修行に喜んで協力してくれる事でしょう。」
 元々ビスクからそれほど離れていない場所の為、地下墓地と違ってすんなりと目的地に到着出来た。
 そこでは、フードを被った一団が、熱心に、焚き火に向けて祈りを捧げていた。
 「すいませーん。」
 ライチはとりあえず、一番手前にいた人に声をかける。
 声をかけられた異端者は、祈りをやめ、ライチの方を向いた。
 「何や? 今取り込み中やで・・・って、緑髪のエルモニーやな自分、もしかして、あんさんシェル・レランのライチ君か?」
 「え? あ、はい。そうですけど・・・。」
 「何や、そうだったら話は早いわ。カマロンの爺さんに頼まれとったんやウチら。な、みんな。」
 他のメンバーも、一斉にライチを向く。
 「せやせや。ライチって名前の厨房師見習いがここに来っから、呪文抵抗の修行につき合ってくれってな。」
 隣に立つ異端者が話しかけてくる。
 「おお、ちっちゃくて可愛いのう。儂の小さい頃にそっくりじゃ。」
 反対側に立つ異端者は、遠くを見つめるような仕草をする。
 「っておっさん、種族違うやろ!」
 真ん中の異端者にビシッと突っ込まれた。
 全員が声を上げて笑う。
 ちなみにライチは、状況についていけず、ポカンとその様子を眺めていた。
 「・・・って、お客待たせたらあかんがな。ほなライチ君、修行始めるで。」
 「ええ? すぐですか? えと・・・どうすればいいんですか?」
 「なに、簡単や。そこに立っていれば、自分が魔法ばんばんかけてやるさかい、後は好きにしたらええ・・・ほな、行くでぇ・・・。」
 そう言うと、異端者はごにょごにょと、呪文を唱え始める。
 ライチは覚悟を決めて、痛みに耐えられるよう集中した・・・が。
 すぐ、ある事に気付いた。
 「あの・・・何で全員・・・呪文、唱えてるんですか?」
 その問いに答える者はいなく。
 「万能なるマナよ、破壊の炎となれ! バースト!」×8
 チュドーン!!×8
 砂地に、見事なまでに丸いクレーターが形成された。その中心で、ライチはポワッと黒い煙を吐いてから。
 倒れた。


 「ふえーん、痛かったよー!!」
 その後、何度も気絶しながらも、ライチは何とかバーストに耐えられるまで、呪文抵抗力をつけることが出来た。
 「大体なんで全員で呪文をかけるんですか? 1発ならまだ耐えられるのに、8発も受けたら気絶しますよー。」
 「あはは、すまんすまん。チマチマやってたらラチがあかんやんか、ウチらせっかちやさかい、許したってや。」
 異端者の1人は、そう言いながらケラケラ笑う。それをきっかけに、他の7人も笑い始めた。
 太陽は丁度、水平線へ沈んでいく。影は長く長く伸び、砂や岩は染め物のように紅く色づけられる。それでもライチは、むすっとした表情のまま、異端者達への抗議を続けるのだった。
 
 【ライチの現在のスキル】
 料理:35.4
 醸造:42.4
 呪文抵抗:0.5→40.3
 異端者達との友情:Priceless!
 (第12章 完→第13章へ続く)

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