イルフィーコ料理長まっちゃんとその仲間たちの夢物語り

城陽イタリア料理『IL FICO』の料理長まっちゃンとその仲間たちが送る、夢を掴む為の魂の叫び!!!

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第五章  2010年9月17日25歳弓子
「名前は??な、ま、え。」
相手からは返答がない。

弓子は熱いインスタントコーヒーを2つ入れ、お気に入りの黒いソファーに腰をかけた。

殺風景な部屋にあって明らかに浮いたように目に映る家具の数々。 

カチカチカチカチ。
真っ黒のシャキールの置き時計が
淡々と正確に時を刻む。
柴原からのプレゼント…それは弓子にとっては努力の結晶、涙の戦利品に他ならない。

「で??どっから来たの??何で倒れてたのよ??」

膝を抱えて正面に座る青年は、美しい瞳でじっと弓子を見つめるが、何かを発しようという気配は感じなかった。

フーッと深いため息をはき、弓子はコーヒーを静かに啜った。
そして、頭の中には後悔とはすこし違うが、それとよく似た後向きの感情が充満していることを悟っていた。

私は一体この子をどうするんだろう??どうしたいんだろう??
いつまでこの部屋に置いておけるだろう?
近所の住人はこの光景を異様には思わないだろうか??
警察に通報されたりしはしないだろうか??

何より…あの男に
この事がバレやしないだろうか??

もう一度、深いため息を吐いた。

名もない落し物は、それでもこちらをジッと見つめている。

本当に嘘みたいに綺麗な顔だ。
この世の生物ではないような、何処か異次元の美しさ。

潤んだ瞳。
吸い込まれる。
胸の奥がズキンと痛む。

溜息がまた漏れる。
しかし、種類が変わってきた。
先刻の後悔に似た不安感がすぅっと収縮していくのがわかる。

弓子はまたコーヒーを少しだけ口に入れ、こくりと喉に通した。
肩の力がだらりと抜け、小さな幸福感が生まれ、自然に優しい笑顔になれた。

そして、徐に話し始めた。
誰にも話さなかった話を。

「私ね。家族がとても好きだったの。お父さんはそれは素敵な人だった。小さな広告代理店を経営していて、いつも仲間に囲まれて笑顔の絶えない真っ直ぐな人だった。
いつか好きな人が出来て、結婚して家庭を築くって事は、きっとお父さんみたいな人とだろうなぁ~って勝手に憧れてたもん。
お母さんはそんなお父さんの事が大好きだった。
ちょっと嫉妬深い所があって、お父さんも困ったりしてたけど、それはもう愛情の裏側にあるもんだから嬉しいって、私によく話してくれてた。

お兄ちゃんは、お父さんの事を凄く尊敬していた。だから自然に将来はこの会社を継ぐって思ってたみたい。
私達はいい家族だった。
もちろん、家族だから問題がないなんてことは言えないけど。それでも自慢出来るものだった。

夏には必ず旅行に行った。
私が小学校を卒業する年には、和歌山の白良浜に海水浴に行った。まだお盆前だったのに私がクラゲに刺されちゃって、驚いた拍子に溺れそうになったの。お父さんは何処からともなく凄い勢いで泳いできて私を抱き抱えてくれて、「大丈夫だよ。安心しなさい」って優しく言ってくれた。
ヒーローに助けられたお姫様みたいな気分になって、安心しきった私はお父さんに抱きついていつまでもわんわん泣いていた。

誰かの誕生日は必ずお祝いしたわ。
お気に入りのケーキ屋さんに小さいけど特注のケーキを頼んだ。部屋を真っ暗にしてろうそくをつけて、みんなでバースデーソングを歌った。

私たちは、幸せだった。
これが当たり前で、いつまでもそうだと思っていた。

あの日まで。

突然だった。
私が高校2年になったばかりの春に。

お父さんが自殺しちゃった。
借金を沢山作って。
知らなかった。女の人に貢いで騙されたみたい。
急に馬鹿らしくなった。
こんなものなんだって…。
私が感じていた幸せなんて…。
何もかもが信じられなくなって。
ガラガラって全部が崩れて行くのがわかった。
お母さんは暫くは半狂乱みたいになってた。
一日中泣きじゃくったかと思ったら、次の日は怒り狂ったように暴れたり。
お兄ちゃんは大学を中退して、働きに出た。

借金を返すために家も会社も引き払ったけど、とても足りないから、私もアルバイトを始めた。
必死で生きて、必死でお母さんを守ろう。
それしか自分の生きる価値を見出せなかった。

お母さんは、心の病にかかっちゃった。
PTSDだったかな?ストレス障害。重度の鬱病みたいな感じ。ただひたすら食べて、吐いて。
泣いて怒って暴れて寝る。人間の理性って名の付くありとあらゆる部分全て削ぎ落として、感情を丸裸にした状態っていうのかな。
これがあのお母さんなの?
これが本当に人間なのか?って、そう感じていっそ母を殺して自分も死んだほうがなんて考える時もあったけど、それでもお母さんが生きているっていう事実は、私にとってとても重要だった。
それしか自分を証明する手段がなかった。

お兄ちゃんは酷く疲れてた。
私はまだ高校に行かせてもらっていたから、友達と話す時間や勉強する時間ももっていたけど、
お兄ちゃんはそんな簡単じゃなかったの。
いくつもアルバイトを掛け持ちして、休みもほとんどなかった、家には気の狂った母親がいて現実的ではない額の借金があった。
恋人とも別れたみたいだった。
自分のよりどころをなんとか探してるみたいだった。

その夜も、お兄ちゃんは凄く元気がなくて、
帰ってくるなり布団に入ってくるまってた。
私には何もできなかったから、少しでも元気なればいいと思って話しかけたの。

突然だった。ア然として身体が動かなかった。
お兄ちゃんは私を羽交い締めにして、後ろから首を絞めた。息ができなくてヒューヒューと喉がなった。口元から泡がたれて、テレビの画像が乱れるみたいに目の前の景色が歪んだり消えたりした。パチパチと電源が飛ぶみたいに意識が途切れ途切れになった。
死ぬのかな。力が入らない。
と思った瞬間、堤防が決壊したみたいに空気が口の中に流れてきた。

喉の痛みと眩暈で咳が止まらず、
とっても気分が悪くて強い吐気に襲われた。
頭がクラクラする中で必死に息を整えた。
洗面所へ行き、喉に絡まったものを吐き出すと
少しだけ気分が落ち着いた。

部屋に戻ると。
お兄ちゃんはガタガタ震えて泣いていた。
殺せなかったんだ。殺しきる事が出来なかったんだ。

だけど…もう心は崩壊している。

私は横に座って、
お兄ちゃんをそっと抱きしめた。
一枚一枚服を脱いで、下着も脱ぎ捨てた。
そうして、彼を必死に慰めた。
彼は、怯えた子供みたいに私の乳房を弄り、
そうして私の中に入ろうとした。
私は
受け入れたの。そうする他にその場の空気と時間をやり過ごす方法がなかった。
それが正しいとか間違えているとかじゃなくて、あの時私達にはその選択肢しかなかった。

それから。
お兄ちゃんは毎日私を求めるようになった。
唯一のバランスの取り方がそれだったんだと思う。それは愛とか性欲じゃなくて一つの作業だった。作業を、終えると私達は何も話さず眠りについた。繰り返し繰り返し。

私達は抱き合った。


そんな生活が3ヶ月ほど続いた。
その夜ももそうだった。
お兄ちゃんは私の乳房を愛撫して、
私はお兄ちゃんのそれを大切に口に含んだ。
いつもと同じ作業。現象が起きただけだった。
私の中に入ってきた彼はただただ一心不乱に射精へと向かった。
でも、その日は最後まで辿り着かなかった。
なんだか、ピンと張りつめた糸が擦り切れて弾けたみたいに空気が一瞬凍りついた。
そうして一言、
お兄ちゃんは少し笑って。
ごめんな。辛かったよな。って言ったの。

それが最後。

お兄ちゃんはあくる日の朝、首を吊って死んでた。一番最初に見つけたのは母だった。
早くご飯作ってよ。と箸で骸になった兄をつついてた。

私はその地獄から逃げ出した。
ただただ、現実から目を背けるために。
夢中で逃げた。

吊り下がった兄とそれを箸でつつく母を置いて。」

話を終えた弓子の目からひとすじの涙が流れた。
美しい青年は変わらず真っ直ぐと弓子を見つめていた。

カチカチカチカチカチカチ。

シャキールの置き時計はそれを気にすることもなく、
淡々と時を刻み続けた。






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