(場面、アリアバード街中。宵闇の中、橙色の灯に明るく照らし出される酒場)
(入り口のドアから中へ、カウンターに近寄るように)
女「…アンタにしちゃあ、随分と洒落たもの持ってるじゃないの」
(酒場のカウンターから振り向く女、白いチュニックに濃茶のスラックスを合わせている)
(知った顔を見て、からかう雰囲気で。オーバーリアクション気味に)
男「これですか?…もちろん、いつもこの花のように美しい姐さんにですよ♪」
(カウンターに近付いて来た男、黒のジャケットにアイボリーのスラックス。手には12本の紅薔薇の束)
(男の方も調子を合わせるように陽気に、おどけるように)
女「…バレバレな嘘はいつも通りだけれど」
SE:木製の椅子が床を引かれる音
男「バーボンをロックで…やっぱり《生命の水-ウィスキー》で心を潤さにゃあ♪」
女「随分と御機嫌斜めじゃない?それに、いつもは連れてくる女に合わせてカクテルを頼む男が…珍しいのオンパレードね」
SE:花束がカウンターに置かれる音
やや乱暴な、バサッという感じで
男「…判りますかね」
(男は、整えられた髪を片手で掻き回してカウンターの木目をじっと見つめる)
女「それだけ不機嫌だされたらね、酒が不味くなるわ」
SE:店員の手から離れたグラスがカウンターへ。カタンという音
(男と女の視線が、オールドマンズウィスキーを注いだグラスに注がれる)
男「本気で怒らせたようで」
(置かれたグラスを軽く掲げ、一気に飲み干す)
男「俺が悪いんすけどね」
女「判ってるようなら解決は早いと思うんだけど」
(女はカクテル-オールドパル《古き友》-で満たされたグラスを付き合い程度に掲げ、唇をつける)
(併せて供されたドライフルーツを摘み、紅い唇へと運ぶ)
SE:男のグラスが、カウンターに置かれて、氷がグラスの中で鳴る
男「会ってくれないんですよ」
女「…いつもの調子で口説けば?」
男「それが出来たら、此処にいないっす」
女「本命は、本気で口説けない、と」
男「からかわんで下さい」
女「冗談めかしてカッコつけた台詞なんか言うからよ」
男「…じゃあ、何て言えば?」
女「『支えてくれ』…それだけでいいんじゃない」
(女、にんまりと人の悪い様な笑みを浮かべて)
(男はグラスを手にしたまま、カウンターに突っ伏す)
SE:からんからんからん、とグラスの中で氷が叫ぶ音
男「…何だか情けなくないすか?」
女「本当の事だから、仕方ないわね」
男「手厳しーっすね」
女「好い加減覚悟を決めれば?アンタの行く所はココじゃないでしょう」
(男が伏せたまま、大きな溜息ひとつ。ふいに上半身を起こして、苦笑する)
SE:男が立ち上がって椅子が鳴る
女「その花、忘れないでよね」
(カウンターの花束を指差し、女が笑う。女の手のひらから光る塊が放り投げられる)
(男が軽く受け取ると、手のひらのに無機質な冷たい光)
(男、首を傾げて女を見つめる)
男「ジェム…?」
女「どうせ居場所も突き止めてなかったんでしょう」
男「…すみません、恩に着ます」
女「今度の飲代は持ってもらうわよ」
(男が取り出した本に呪文を書き止める)
SE:風が吹き抜ける音。門に向かう足音
(魔力を帯びた風の後に、現れる光の門)
男「来年は姐さんにも、薔薇をプレゼントしてくれる人が現れるのを祈ってますよ」
女「私はかすみ草みたいな男で妥協する気はないの。太陽みたいに照らしてくれる男でないと」
男「Roses&Sunshine《素晴らしき事》ですか、そりゃあ是非見つけてくださいよ」
女「生意気ばかり言ってないで、さっさと行きなさい」
(既に女は男に背を向け、ひらひらと手を振る)
男「…やっぱ姐さんは俺の《生命の水-ウィスゲ・ベーハ》だわ」
(男、ニヤリと唇を笑みの形に歪め、花束を肩に背負う)
女「酒精の力を借りないでも、恋人を口説ける様になりなさいよ」
(男はそのまま門へ身を躍らせ、消える)
(楽しそうに微笑みながら、女は消え行く門に向かってグラスを掲げる)
(舞台、暗転)
-さて皆様、如何でしたでしょうか?
このような小劇場にいらっしゃるのではなく、皆様も明日は愛する人へ薔薇を1ダース、贈られては如何でしょうか。
季節は折りしも冬…おっと、ベルアイルの季節では花屋の売り子から手に入れるしかなさそうですが。
…おや、明日が何の日が御存知ないと?
12月12日は『DOZEN ROSE DAY』
愛の証に、恋人に12本の薔薇を贈る日ですよ
劇場支配人 カミュー