「永遠の0」宮部久蔵のモデルは?西澤広義と上原良司 | ひとりの音のアルバム

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8月も終わりのとある日、電車に揺られながら隣に座っていた女子学生の読んでいた分厚い単行本、もしやとチラ見すると、やはり300万部突破の大ベストセラー「永遠の0」(百田尚樹著)だった。12月21日には山崎貴監督の映画「永遠の0」も公開される。若い女性には主演の岡田准一や三浦春馬のファンも多く、興味のあるかたも多いのかも知れない。海軍一の零戦パイロットでありながら生きることに執着した主人公宮部久蔵、そのモデルとなったパイロットは果たして誰なのか?ふと思いを巡らしてみた。宮部は大柄な体躯で海軍の凄腕パイロットという文面からは、海軍中尉「西澤広義」が頭に浮かぶ。特に軍刀をついた立ち姿は凛々しくもあり有名。

■西澤広義(海軍中尉):長野県小川村出身
西澤広義

180cmの長身で美男。ラバウルの魔王と渾名され、個人撃墜数は143機。まぎれもなく海軍一の零戦パイロットである。ただ、彼は特攻隊員ではなく、新しい飛行機受領のためマバラカット基地に輸送機で移動中、敵戦闘機の襲撃を受け惜しくも戦死。
そして生きることに執着した主人公という側面からは、戦没学生の手記『きけわだつみのこえ』(岩波文庫)の「所感」で余りにも有名な陸軍大尉「上原良司」を思い出す。

■上原良司(陸軍大尉):長野県池田町出身
上原良司

もっとも実際の彼を「生きることに執着した」とするのは語弊があるかも知れない。彼は慶応大学経済学部からの学徒出陣である。有名な彼の所感それ自体に、ひとつの思想観でもある喩え難い彼のドラマが秘められている。彼は、密かに思いを寄せていた天国の彼女のもとへと飛びだった。

<上原良司「所感」全文> ※出典ウィキペディア
『栄光ある祖国日本の代表的攻撃隊ともいうべき陸軍特別攻撃隊に選ばれ、身の光栄これに過ぐるものなきと痛感いたしております。 思えば長き学生時代を通じて得た、信念とも申すべき理論万能の道理から考えた場合、 これはあるいは自由主義者といわれるかもしれませんが。自由の勝利は明白な事だと思います。 人間の本性たる自由を滅す事は絶対に出来なく、たとえそれが抑えられているごとく見えても、 底においては常に闘いつつ最後には勝つという事は、 かのイタリアのクローチェもいっているごとく真理であると思います。

権力主義全体主義の国家は一時的に隆盛であろうとも必ずや最後には敗れる事は明白な事実です。 我々はその真理を今次世界大戦の枢軸国家において見る事ができると思います。 ファシズムのイタリアは如何、ナチズムのドイツまたすでに敗れ、 今や権力主義国家は土台石の壊れた建築物のごとく、次から次へと滅亡しつつあります。

真理の普遍さは今現実によって証明されつつ過去において歴史が示したごとく未来永久に自由の偉大さを証明していくと思われます。 自己の信念の正しかった事、この事あるいは祖国にとって恐るべき事であるかも知れませんが吾人にとっては嬉しい限りです。 現在のいかなる闘争もその根底を為すものは必ず思想なりと思う次第です。 既に思想によって、その闘争の結果を明白に見る事が出来ると信じます。

愛する祖国日本をして、かつての大英帝国のごとき大帝国たらしめんとする私の野望はついに空しくなりました。 真に日本を愛する者をして立たしめたなら、日本は現在のごとき状態にはあるいは追い込まれなかったと思います。 世界どこにおいても肩で風を切って歩く日本人、これが私の夢見た理想でした。

空の特攻隊のパイロットは一器械に過ぎぬと一友人がいった事も確かです。 操縦桿をとる器械、人格もなく感情もなくもちろん理性もなく、ただ敵の空母艦に向かって吸いつく磁石の中の鉄の一分子に過ぎぬものです。 理性をもって考えたなら実に考えられぬ事で、強いて考うれば彼らがいうごとく自殺者とでもいいましょうか。 精神の国、日本においてのみ見られる事だと思います。 一器械である吾人は何もいう権利はありませんが、ただ願わくば愛する日本を偉大ならしめられん事を 国民の方々にお願いするのみです。

こんな精神状態で征ったなら、もちろん死んでも何にもならないかも知れません。 ゆえに最初に述べたごとく、特別攻撃隊に選ばれた事を光栄に思っている次第です。

飛行機に乗れば器械に過ぎぬのですけれど、いったん下りればやはり人間ですから、そこには感情もあり、熱情も動きます。 愛する恋人に死なれた時、自分も一緒に精神的には死んでおりました。 天国に待ちある人、天国において彼女と会えると思うと、死は天国に行く途中でしかありませんから何でもありません。

明日は出撃です。 過激にわたり、もちろん発表すべき事ではありませんでしたが、偽らぬ心境は以上述べたごとくです。 何も系統立てず思ったままを雑然と並べた事を許して下さい。 明日は自由主義者が一人この世から去って行きます。彼の後姿は淋しいですが、心中満足で一杯です。

言いたい事を言いたいだけ言いました。無礼をお許し下さい。ではこの辺で』


50歳近い長野県人なら誰一人知らない人はいない西澤広義と上原良司。くしくも山崎監督も同じ長野県出身。襟をただして撮影に取り組んだという映画「永遠の0」は、僕にとっても今から公開が待ち遠しい。


■映画「永遠の0」公式サイト