南の島のアルバイターTの日記『スイミー』
テーマ:ブログ「そういうのさ、よくないと思うよ」
椅子から立ち上がり、指をまっすぐにさして、言う。
「嫌がってんだしさ、やめなよ」教室が静まり返り、誰もが彼を見た。
*
故郷の話をするとだいたいの人から「のんびりしててよさそうね」と言われるけど、正直なところそれを聞くたびに少し不思議な気持ちになる。
「のんびりして」というのは聞いた人がその場所からぼくらの故郷を見て持つ感想だし、ぼくら(子供)はその環境以外体験していないのだから、具体的にどこが「のんびりして」いるのか、さっぱり分からないのだ。もちろん、年をとった今はある程度分かるけれど。
そして、当たり前のことだけれどぼくらが通う学校にもイジメはあった。テンプレのようにいじめていた奴らの中心は顔が整っている奴で、いじめられている方はどこかどんくさかった。
クラス中がうんざりしていたと思うけど、具体的に行動を起こす人はいなかった。ぼくも自分に被害が及ばない限り、何もする気はなかった。先生につげたり、注意をしたり、そんなことをすれば次のターゲットは間違いなく自分になるし、そんな面倒なことはご免だった。
ある日の昼休み、ガシャンと派手な音がして、いじめられていたクラスメイトの机が蹴り飛ばされた。中身がとびちり、爆笑がおこり、からかう大きな声がしたけれど、机を蹴飛ばされた彼は椅子に座ってずっとうつむいているだけだった。
そのとき、ぼくの後ろの席で『スイミー』を読んでた友人がいきなり立ちあがって、言った。
「そういうのさ、よくないと思うよ」当たりまえでしょ、と付け加えるかのようだった。
*
「遅ぇな、スイミーのやろう。報告があるっつうから来たのに、遅刻かよ」といつもの口うるさい友人がわめいて「おれたちが早すぎたんだろ」と言い返す。「集合時間まで、まだ二十分もある」
「そうなのか、そうだとすりゃな、おまえがせっかちすぎんだよ。何でったってこんな早い時間におれまで誘ってんだ。タイム・イズ・マネーの意味わかんねぇのか?」これに関しては友人が正論なので、無視をする。
十分後、「ほら、来たぞ」と三人で居酒屋に入った。
「実はさ、君たちには悪いけど・・・」一杯目の飲み物が届かないうちに、スイミーが嬉しそうに含み笑いをした。
「実は・・・彼女が出来ましたー!」ごめんね、抜け駆けだね、と頼んでもいない謝罪が続く。
「・・・」
「・・・」
「・・・あれ、ふ、二人ともどうしたの?驚かない?」
「驚く訳ねぇだろ、ばかかおまえ。マグロを一人で追っ払うスイミーに彼女がいない方が不思議だっての」
「まったくだな」珍しく、友人に完全同意をする。
「どんな人なのかとかさ、気になんないの?」めげずにいうスイミーに、友人がまたも言った。
「バーカ。おまえを選んだ女なんだから、いいやつに決まってんだろ。聞かなくても分かるっつーの」
「まったくだな。その写真をしまえ。どうせキレイなんだろ。見なくても分かるっつーの」
何だよー紹介させろよ、とスイミーが不満そうにするが、友人と二人で「おら、馴れ初めを言えよ」とムチャぶりをする。






