監督・製作・脚本 ポール・トーマス・アンダーソン
撮影 ミハイ・マライメア・Jr
編集 レスリー・ジョーンズ、ピーター・マクナルティ
音楽 ジョニー・グリーンウッド
出演 ホアキン・フェニックス、フィリップ・シーモア・ホフマン
エイミー・アダムス、ローラ・ダーン
2012年 アメリカ
太平洋戦争で人格を破壊された帰還兵と新興宗教の教祖(マスター)が
互いに興味を抱き惹かれ合い、擬似父子の関係を形成して、
マスターは悍馬の如き帰還兵を調教しようと試みますが、
ふたりには、どうしても人として一線を越えられない壁が存在していて、
中々心をひとつにすることができません。
ポール・トーマス・アンダーソン監督は、前作「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」の
石油王と牧師に続き、ふたりの男のバトルを見せ場にしていますが、
今回は、理性の師と言う立ち場から逃れることができずに、
セックスとアルコール依存症で暴力的な、本能の赴くままに生きる規格外の
帰還兵の自由奔放さに瞠目するマスターの煩悩も見せることで、
二人が表裏一体の関係にあることが描かれているので、対立軸が弱められた分、
前作に比べて、サスペンスフルな点で見劣りしてしまいました。
但し監督は、その薄められた狂気を補うために、マスターの妻を、マスターを裏で
動かしている真のマスターとして登場させて、平板になりがちなストーリーに
毒を盛り込むことで、新たな緊迫感を作り出すことに成功しています。
ポール・トーマス・アンダーソン監督は、前作「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」で、
ダニエル・デイ=ルイスにアカデミー賞の主演男優賞をもたらしましたが、
本作でも、ホアキン・フェニックスとフィリップ・シーモア・ホフマンの鬼気迫る演技を
引き出して、演出家としての力量が本物であることを証明しました。
その一方で、「マグノリア」や「ブギーナイツ」のインディーズ的な面白さが影を潜めて、
角が取れて大人になってしまった監督の、芝居の面白さを追求した正統派映画に
違和感を感じているファンは少なくないようです。
もうひとつ気になったのは、編集段階で削ぎ落としすぎたのか、主人公が、
帰還したら婚約することを約束していた恋人のもとに直ぐに戻らなかった理由や、
カメラマンとして働いていたデパートで、突然客に暴力を振るう等説明不足な部分が
かなりあって、主要人物と枝になる人物とのサブストーリーのの描き方が
弱いように感じました。
今年で43歳と、まだ監督としては若手のポール・トーマス・アンダーソン監督が、
ベルイマンやヴィスコンティのレベルまで人間を描けるようになるには、
もう少し時間が必要なようです。
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