メルヘンとファンタジー ふたつのアニメ映画 | 人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

ネットの海を漂う吟遊詩人になって
見知らぬあなたに愛を吟じよう


人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

『イリュージョニスト』  

 

監督・脚色・音楽 シルヴァン・ショメ            

脚本 ジャック・タチ                  

2010年 イギリス/フランス



人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

『 塔の上 のラプンツェル』 


監督 ネイサン・グレノ、バイロン・ハワード

原作 グリム兄弟

脚本 ダン・フォグルマン

音楽 アラン・メンケン                           

2010年 アメリカ



文明から取り残された離島に生まれて、海の向こうにある世界を知らない

貧しい少女と、人の目に触れる事の無い森の中にある高い塔から、

一度も下界に下りたことの無い少女の、新しい世界への旅立ちを描いた

アニメ映画『イリュージョニスト』と『塔の上のラプンツェル』を続けて観ました。

『イリュージョニスト』は、ローワン・アトキンソンの当たり役『ミスター・ビーン』の

キャラクターに影響を与えた名作『ぼくの伯父さん』の主人公ユロ氏役で有名な

ジャック・タチが書き残したシナリオを脚色した作品で、時代遅れの老手品師と

彼を魔法使いと信じる少女の交流を描いたストーリーは、タチの娘への思いが

込められた自伝的色合いの濃い内容だと言われています。

監督のシルヴァン・ショメは、実写では叶わない、ジャック・タチ本人と、

『ぼくの伯父さん』の舞台になった1950年代のパリのなにげない日常の風景を、

アルバムの中に収められた思い出を愛おしむかのように、哀愁漂う語り口で

メルヘンチックに再現しています。

『塔の上のラプンツェル』は、ディズニー・アニメーション・スタジオ50作目の

記念作品として、原点である『白雪姫』や『シンデレラ』のプリンセス・ストーリーに

回帰した作品で、お年寄りから幼児まで、全ての人のイマジネーションの領域に

根付いているディズニーファンタジーの系譜に新たに加わる、誰もが安心して見られる

万人向けのストーリーになっていますが、プリンセスを救うのが、王子様ではなく

盗賊であるのが、現代風と言えるでしょうか。

もうひとつ、この映画で革新的だと思ったのは、ラプンツェルを助け出そうと塔に

乗り込んだ盗賊が、偽母にナイフで刺されて、血に染まる場面があることです。

私の記憶が正しければ、過去のディズニー作品で、ここまでリアルに痛みが

描写された事は無かった筈です。

ファンタジー映画(特にディズニーの作品)は、暴力場面もファンタジーに徹するべきで、

刺された瞬間に画面を真っ赤にするとか、登場人物の表情の変化で間接的に

表現することは可能だったはずで、もう少し知恵を絞ってほしかったと思います。

ふたつの作品を比較すると、ファンタジーとメルヘンの違いで、 現実逃避して、

ひと時の夢を見せてくれる『塔の上のラプンツェル』よりも、人生の機微に触れて、

自分自身を省みさせてくれる『イリュージョニスト』の方が私は好きですが、

デートムービーやファミリー映画として選ぶなら、メルヘンの『イリュージョニスト』より、

ファンタジーの『塔の上のラプンツェル』を選ぶ方が無難でしょう。


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