ブラック・スワン | 人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

ネットの海を漂う吟遊詩人になって
見知らぬあなたに愛を吟じよう


人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

監督 ダーレン・アロノフスキー
原案 アンドレス・ハインツ
脚本 マーク・ヘイマン、アンドレス・ハインツ、ジョン・J・マクローリン
撮影 マシュー・リバティーク
出演 ナタリー・ポートマン、ヴァンサン・ カッセル、ミラ・クニス
2010年 アメリカ


私は、バレリーナを見ると、なぜかワニザメに毛をむしり取られた、
因幡の白ウサギを連想してしまいます。
多分、白いクラッシックチュチュの衣装を纏い、トウシューズを履いて
爪先立って踊るバレリーナの姿に、肉体の極限にある悲壮美を見出し、
痛々しさを感じるからでしょう。
本作の主人公ニナは、『白鳥の湖』のオディト(ホワイト・スワン)と
オディール(ブラック・スワン)の二役を演じる主役に抜擢されますが、
清純なオディトは完璧に踊れても、オディールの狂気を表現することが
出来ずに、やがて精神が崩壊していきます。
ニナの痛々しい姿は、まさに因幡の白ウサギが、神々に騙されて傷口を
海水に浸けたために、痛みで転げまわっている姿そのもので、
アロノフスキー監督の自虐趣味は、ダイエット・ピル中毒で強制入院
させられる未亡人(『レクイエム・フォー・ドリーム』)やボロボロになった
肉体を血だらけにして格闘する老いぼれプロレスラー(『レスラー』)から
バレリーナのニナに受け継がれています。
『レスラー』と『ブラック・スワン』は、肉体を酷使する主人公と言う設定以外に、
家族との葛藤、新たな自分への再生を匂わすラスト・シーン等
多くの共通点がありますが、元々ひとつの企画だったと知って得心が
行きました。
2本が合体した映画を、私なりに考えてみると、
次のようなプロットになります。

母親から、父親が『白鳥の湖』に登場する悪魔ロッドバルトだと小さい頃から
刷り込まれてきたニナは、父親に対して良いイメージを抱いていません。
ある日、ブラックスワンを表現できずに苦しんでいるニナの前に傷だらけの
プロレスラーが現れますが、その男が父親であることを知り、やがてニナは、
母に内緒で父親の試合を見たり、食事をしたりしていくうちに、
本当の悪魔ロッドバルトは母親である事に気付き、母親からの抑圧から
開放されたニナは、ブラックスワンを完璧に踊れるようになる。

如何なものでしょうか。


本作は、ロマン・ポランスキー、デヴィッド・クローネンバーグの初期作品との
類似性を指摘されているように、アロノフスキー監督自身も、本作を作る際に、
ロマン・ポランスキーの『反撥』と『テナント』から大きな影響を受けたと語っています。
私は、主人公のニナと母親エリカの関係はミヒャエル・ハネケの『ピアニスト』
(「ピアニスト」の主人公名はエリカで、本作の主人公の母親と同名)、
主人公を溺愛する母親からホワイト・スワンとして育てられてきたニナが
抑圧してきたブラック・スワンとの葛藤は、エドガー・アラン・ポーの
『ウィリアム・ウィルスン』(「世にも怪奇な物語」の第2話として映画化)
を思い出したことを追記しておきます。


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