アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの「星の王子さま」は児童文学の中でも特異な位置を占めています。ホロ苦い結末で、子供の頃に読んで最悪に寂しい本だと思ったものですが、結局一番長くつきあうことになった愛すべき本でした。昨年これを映画化したのがマーク・オズボーン監督です。フランス資本で撮られた作品で、最大の特徴は、16分間のストップモーション・アニメの場面です。これは1時間47分の作品全体から見て6分の1程度。時間はとても短いですが、ここを失敗していたら作品全体がだめになっていたでしょう。普通にCGアニメのエピソードがあり、



コマ撮りで制作したストップ・モーションのエピソードが組み合わされていきます。



コマ撮りの方はキャラクターが全部、紙で出来ていて、水彩絵の具で彩色しています。動きは、スタッフが手で、少しずつ動かしながら作って行きます。登場人物の髪の毛が風に吹かれてなびく、衣服が揺れる・・、風の向きが変わると、それに合わせて逆方向に揺れる、といった細かいところまで神経を使っているので、出来上がりの質感が違いました。アニメーションで最も難しいとされるのは人物ですが、本作の語り部役で主役の“女の子”も、完成までは紆余曲折。








いろんなタイプの女の子。完成までに面白いキャラクターが登場しています。完成版は優等生タイプ。理由があって親が厳しく教育している子供という設定なので、いっそ反抗的な外見に、というアイデアも出ていたのかな。絵コンテでは高畠勲そっくりのタッチも出てきます。アニメやってる人には国境が無いらしくて、特にストップモーションのパートはどこか東洋的です。ドラマは、人と人が必ずいつか別れること。必ず死が訪れることを予感させるものです。テグジュペリが「星の王子さま」を書いた時は、世界中が厳しい状況でした。それをそのまま、無理矢理現代にあてはめずに、別れをある種の出発点に置き換えたのが、マーク・オズボーン監督のスマートな感性でした。彼のアニメーションはあくまで並行宇宙の中の楽園です。結局大ヒットはしませんでしたが、この作品見応え十分です。



監督が各国の配給会社にプレゼンする際、使ったスーツケースの展示。〈大阪タカシマヤ・グランドホール〉

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