作家は言葉で、職人は物で勝負
引っ越しが一段落してきたので、
3分の1にまで整理した本棚を眺めていたら
開高健の「舞台のない台詞」が目に入った。
この本は昭和58年に出版されている。
いまから29年前だ。
色々な雑誌や本に書いたものを寄せ集めているが
なかなかに面白い。
開高健という小説家を知ったのは
最初寿屋(現サントリー)の宣伝部のコピーライターとしてだった。
その頃は私も宣伝広告の分野で独り立ちしたいと
密かに爪を研いでいたのだが
彼のコピーライターとしての才能は抜群だった。
この才能は小説家になっても活かされていて
タイトルのつけかたが実に上手い。
舞台のない台詞、なんて実に言い得て妙ではある。
彼はあらゆるものに対して
言葉で表現出来なかったら、それは物書きではない、と言い切る。
私は、ジュエリーの作り手と懇意にしているが
職人は物でしか勝負出来ない。
いくら理屈を並べてみたところで
出来上がったものが優れていなくては認めて貰えない。
反対に物がすべてを語ってくれるから
一言も発しなくても物がすべてを語ってくれる。
しかし、である。
実際はそうはいかない事の方が多い。
物を見る目がない人にぶつかったら悲惨である。
物を見てそのものの善し悪しが分かる。
それはとりもなおさず、そのものが売れると云う事が前提である。
売れるものを書く、売れるものをつくる。
結局はここに行き着く。



