秋幸は川原に立った。川の水音が耳にこもった。風が吹くたびに葉裏を見せて向こう岸の山の灌木が揺れた。山が幾重にも重なり、丁度その山の入り口あたりに出来た川の浅瀬だった。水は白くしぶきながら流れていた。秋幸は、徹が洋一の手をつかみ流れの速い浅瀬を渡すのを見ていた。むこう岸の川石が浮き上がったところに二人は立った。二人は身を屈め、川石を並べはじめた。石を持ち上げるたびに洋一は「よいしょ」と弾んだ声を出した。徹の屈めた体の向こうに紅い花をつけた丈低い木が岩に生えているのが見えた。朝の光は二人の体を槿だたせた。夢の中に秋幸はいまいる気がしたのだった。
師匠:これは中上健次の代表作『枯木灘』が始まって数ページあとに出てくる場面なんだけど、率直な感想はどうかな?
悟:川原の自然な光景っていうんですかね、朝の情景が目に浮かびます・・・登場人物は3人ですか?
師匠:そう、土木作業員の秋幸が早朝から仕事に出かけて、いとこ二人も連れて出て、人手が集まるまでのひととき川原に下りてみたところなんだけど、主人公の秋幸の目線で、しみじみと見詰めている視線を感じさせるね。
悟:でも・・・師匠 気になったんですけど、これって細かすぎませんか?
師匠:何?どうでもいいとか言いたいの(ちょっと笑いながら)
悟:そこまで・・・は言ってませんよ(急に恥ずかしくなる悟)
師匠:でもこれには意味があるんだ・・・それはね(次回に続く)


