ただの小説好きのニートの男が小説家を目指して人生一発逆転を目指すブログ

小説家を目指すニートの悟と世界のあらゆる小説映画演劇マンガの考察をした師匠との会話です

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 秋幸は川原に立った。川の水音が耳にこもった。風が吹くたびに葉裏を見せて向こう岸の山の灌木が揺れた。山が幾重にも重なり、丁度その山の入り口あたりに出来た川の浅瀬だった。水は白くしぶきながら流れていた。秋幸は、徹が洋一の手をつかみ流れの速い浅瀬を渡すのを見ていた。むこう岸の川石が浮き上がったところに二人は立った。二人は身を屈め、川石を並べはじめた。石を持ち上げるたびに洋一は「よいしょ」と弾んだ声を出した。徹の屈めた体の向こうに紅い花をつけた丈低い木が岩に生えているのが見えた。朝の光は二人の体を槿だたせた。夢の中に秋幸はいまいる気がしたのだった。

 師匠:これは中上健次の代表作『枯木灘』が始まって数ページあとに出てくる場面なんだけど、率直な感想はどうかな?

 悟:川原の自然な光景っていうんですかね、朝の情景が目に浮かびます・・・登場人物は3人ですか?

 師匠:そう、土木作業員の秋幸が早朝から仕事に出かけて、いとこ二人も連れて出て、人手が集まるまでのひととき川原に下りてみたところなんだけど、主人公の秋幸の目線で、しみじみと見詰めている視線を感じさせるね。

 悟:でも・・・師匠 気になったんですけど、これって細かすぎませんか?

 師匠:何?どうでもいいとか言いたいの(ちょっと笑いながら)

 悟:そこまで・・・は言ってませんよ(急に恥ずかしくなる悟)

 師匠:でもこれには意味があるんだ・・・それはね(次回に続く)


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 師匠:ストーリーがよく出来た、人物も面白い人間を主役にした。そして、セリフもかっこいい。でも・・・これじゃ足りないんだ。さあなんだろう?(ちょっと無茶振りしてみる師匠)

 悟:またですか・・・うーん・・・脇役の人物像・・・それとも、背景とかですか?(一応考えて答えを出す悟)

 師匠:前に言ったと思うんだけどね(ちょっと残念そうな師匠)描写力って話をしたと思うんだけど・・・

 悟:あっ・・・(ばつが悪そうに)そういえば・・・言ってましたね・・・結構前に。

 師匠:マンガを小説にしようのところでも言ったけど、映画やマンガと小説の決定的に違うのは、行動の様子や風景、物の姿かたちを絵で表現できないのが小説だよね。そして、それを浮かび上がらせるのは、言葉による描写だけなんだ。だから、描写力の貧しい小説はどうなるかな?

 悟:うーん・・・薄っぺらい、感じですか?

 師匠:もっと言わせて貰うと、顔の表情も変化もなくてセリフの応酬だけが延々と続くようなものかな。ストーリーや言っていることは理解できても、それでは読み味わう内容が何もないね。

 悟:でも、師匠、言葉で浮かび上がらせるって、面倒って言っちゃだめですけど、難しくないですか?

 師匠:確かに難しいんだけど、絵や写真に出来ない表現が可能になるということもあるんだ。

 悟:へ?どういうことですか・・・絵や写真のほうが表現力豊かな気がするんですけど・・・

 師匠:例を言うと、現実にはありえないシュールな光景、複雑に乱れた心の内側、今現在の出来事と重なって浮かぶ遠い記憶、複数の人物がめいめい他の事を考えている様子・・・

 いいかえると、言葉でしか出来ない場面や状況をできるだけ取り込むと、小説の質が向上するといっていいね。

 次回は、描写が働いている場面を例をあげて説明してみよう。



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 過去2回、セリフで個性を出す方法を伝えた師匠。しかしそれは、推理小説や特殊な設定。では、現代小説なら?の悟の問いに、師匠は、ある1冊の本を持ってきた。

 
師匠:これを読んでもらいたい。

 男が声をかけてきて、そっと振り返った。男はベンチに立ち、笑顔で私を見つめている。ずらりと男を取り巻く犬たちも男の視線の先にいる私をじっと見ている。ぴくりとも動かない。

 「この犬ね、全部前は人間だったんだよ」男は続ける。Tシャツの上に長いコートをはおっている。昨日あの集まりに来ていた男のような気もするし、そうでないようにも思えた。「人間だったとき急ぎすぎちゃった人たちね。今はようやく何もしなくてもよくなったから、みんなすごくのんびりしてね、ぜんぜん攻撃的じゃないの。触っても大丈夫だよ」

 師匠:これは角田光代の『まどろむ夜のUFO』の一説なんだけど、出てくるのは無気味で、ちょっと異常だけど、「普通」の男だね。これを見てどう思うかな?

 悟:そうですね、主人公にはなりづらそうな男ですよね・・・でも、公園とかにいてもおかしくないような・・・(何かを考えている顔で)

 師匠:そう、都会の公園にいてもおかしくはないかな。名のあるヒーローや特別な人間じゃない、名もない人間の生身の性格を描き出すことが、現代小説のひとつの特性だと僕は思っている。

 悟;そのためにはどうすればいいんですか?

 師匠:今まで言ってきたことを繰り返しちゃうけど、日常の片隅で出会う人間の観察だね。話し声に耳を澄ましてみることだよ。

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