篠田節子「讃歌」 | イイオンナの為の「本ジャンキー」道

篠田節子「讃歌」


私、実は学生時代までどっぷり音楽漬けの生活でした。

まだふっとペダルに足が届かない頃から通っていたピアノ教室に始まり、

中学生では憧れの管楽器「サキソフォン」を手にし、

高校ではその管楽器を毎日吹きながらもバンドブームに感化されベースなども弾いてました。

大学の頃は、給料も見ずに飛びついた「CDショップ」のアルバイト。


そんな生活を送っていたら、きっと誰でもなると思います。無類の「音楽好き」人間に。


そこで今日は私と同じように音楽を愛するBOOKジャンキーの方にオススメする作家

「篠田節子」さんの新刊をご紹介します。


讃歌 讃歌
篠田 節子

朝日新聞社 2006-01-12
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朝日新聞で連載されていた作品ですので、毎日楽しみに読まれていた方もいるのでは?

<STORY>

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テレビ制作会社で昼も夜もない生活を送る小野。

そんな彼が滅多に足を踏み入れることのない教会の礼拝堂で耳にしたのは、

1人のヴィオラ奏者の奏でる音色。

バイオリンとヴィオラとの違いさえ明確に答えることの出来ない程度の知識しかない小野の魂は

彼女が奏でるヴィオラのメロディに大きく揺さぶられる。


彼女は20年以上前天才ヴァイオリニストと称された少女、園子であった。


その少女の栄光と挫折を追ったドキュメントを制作した小野。

この番組は世間に波紋を起こし、一躍スターダムに上り詰める園子。


しかしそれは激動の日々の始まりであった。

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テレビ番組制作会社という多忙な仕事に就く小野にとって、

園子の奏でる音色はまさに「癒し」であった。

強く、そして深く、心の奥底にある何かを鷲掴みされるような気持ち。

その感動を映像にして番組にした途端、彼と彼女を取り巻く社会の闇が彼らの前に

立ちはだかります。


二匹目のどじょうを狙うライバル制作会社。

業界ではトップクラスのポジションにいながらも陽の目を見ることが出来ない者の妬み。

彼らを引き合わせてくれた人物でありながら園子ブームによって莫大な利益を手にした

レコード会社社長熊谷。


彼は敵か味方か?真実はどこにあるのか?

様々な思惑が交差する中、小野の頭にはあるひとつの疑問が湧き出す。


俺は利用されているのか?とんでもない失敗をしでかしたのか?

それは誰が裏で手を引いていたのか?


芸術という、個人の感受によって価値が生まれるものに対する世間の目を

非常に生々しく感じることが出来ます。

勿論小説からメロディは伝わりません。

でもヴィオラを手にした園子の奏でる音色が、その演奏描写が秀逸だからでしょうか。

何故か実際に聞いたことのない彼女の魅力を読み手が共有することが出来ます。


話を読み進めるうちに、読者が自分の価値観に対して疑問を抱くであろう場面に遭遇すると

思います。それはこの作品の本質でもあるテーマです。

私は、聞き手の心が満たされる音こそが最良の芸術だと思っています。

それは音楽に限ったことではありません。小説だって同じです。

だから私は自分が読んだ本の感想を書いても書評ではないと思っています。

その人によって思うことは違うはずだから。


著者篠田節子氏は女性の生き方を題材にする書が多いことから、その手の作風を

もたれる方が多いかもしれませんが、実は音楽小説を多数手がけています。

先日文庫化された「マエストロ」もその1つ。

こちらはヴァイオリニストとして宝石メーカーの広告塔まで勤める美人奏者が、

1人の修理工に出会うことで巻き起こる音楽サスペンス。コチラも秀逸な作品です。


非常に力強い文体の著者だからこそ描ける音楽小説。是非一度。


マエストロ カノン ハルモニア