川上未映子の『すべて真夜中の恋人たち』を読む。304p、2011年刊。
川上未映子を読むのは初めて。いじめを描いた『ヘヴン』を持ってるが、先にこちらを読んでしまった。川上未映子の恋愛小説ということで興味があったので。
川上未映子は中原中也賞を受賞している詩人でもあるので言葉が尖ってるのかと不安もあったが、読みやすい文体だった。部分だけ抜粋したら川上弘美か小川洋子かと思っただろう。
この小説、1/3まではべらぼうに面白く、特にその文体が沁みるようで夢中になったが、次の1/3でだんだん飽きはじめ、最後の1/3は無理して読んだ。面白さが減衰していった。
入江冬子は37歳?の校閲者で、会社勤めを辞め、自宅でフリーで働きはじめる。
冬子に仕事を斡旋する校閲者仲間が石川聖で、冬子にとって唯一ともいえる友人だった。冬子は人付き合いを避ける孤独な人間だが、聖はサバサバキャラでなんとなく気が合うのだった。
冬子がふとした気まぐれからカルチャーセンターに行ってみるのだが、その講座のチラシを眺めてるシーンがこの神妙な小説で一番笑えた。川上未映子のギャグセンスに脱帽。「わかる昆虫」「お灸の最前線」とか。いっぱい珍妙な講座名が羅列してあった印象だけど、読み返すとそんなになかった。
冬子が緊張感をほぐすため日本酒を魔法瓶に入れてちびちび飲んでるのは面白かった。
彼女がカルチャーセンターで気分がわるくなり、トイレでぶつかりそうになったのが三束さん。みつつかさん。57歳?の高校の物理教師。
冬子は人付き合いが苦手でそれを避けて生きてきたが、三束さんと光の話をしたことで親しくなる。「これは光のイメージの音楽ですよ」とショパンの子守歌のCDをもらうと、冬子はそればっかり聴くようになる。冬子にとって三束さんと喫茶店でお茶して話すことはいつしか欠かせない時間となった。
冬子は高校時代、水野くんという部活の友人の家に行ったとき、半ば無理やり性交される。そのトラウマからか、彼女はそれ以来セックスをしたことがなかった。
冬子が人付き合いを避けてるので、この長編にでてくるのはほかに高校の友達早川典子と前にいた会社の恭子さんくらい。
前半は聖との付き合い、後半は三束さんとの付き合いを軸に描かれるが、最初は聖との付き合いが唯一の関係のようなので、冬子はレズビアンなのかと思って読んだがそんなことはなかった。
聖との会話がなんとも退屈である。冬子から話題を切り出すことはなく、聖が好き勝手に自論をいつも話しまくるのだが、話のうるさい人みたいな感じで読んでて疲れた。
三束さんもそんなに魅力的な男性に感じず、「永遠の恋愛小説」の帯はどうかなと思った。
純愛というわけではないが、狭い人間関係の冬子にとってたまたま現れたのが三束さんで、冬子はのめり込んでいくが、二人の関係性は縮まるようで微妙な距離感があり、「三束さん、私と寝たいですか」「はい、寝たいです」といったやりとりはなんだかロマンティックからはかけ離れて感じるのだった。
文体は端正だが、起伏に乏しく淡々としているのでだんだん飽きやすく、また冬子の恋愛感情に共感できない。三束さんの存在が大きくなるにつれて、反比例で私の気持ちはしらけていった。
こんなプラトニックな二人が最後体の関係を結ぶのかを期待して読んだが、ラストへの収斂がなんとも味気なく、また三束さんの秘密にしてもうすうす感じていたことで、え!こんなラストかよ!とそのタイトルの意味まで明かされる最後には呆気にとられた感があった。
最初は面白かっただけに残念でしかたない。川上未映子は『ヘヴン』もいい評判なので読んでみたい。この小説は私にはいい年をした大人が中学生みたいな片想いをするちぐはぐな恋愛小説のように感じた。