本日の更新は続き物・・・といきたいところだったのですが、そうじゃなく何とか仕上げれた単発話だったりします。
これって、前回の前書きで述べたように忙しくなる自分を鼓舞するため、そして、いつもお世話になってて他人とは思えないほど感性が似通っている I 様を応援したくて考えたものなんですよ。
そんな私が作った時点で微妙なのが確定してる代物ではありますが、少しでも誰かの心に響いたなら嬉しいです。



頑張る君へのエール



「お久しぶりです、敦賀さん。今日はよろしくお願いします。」

ヒール兄妹が終わってから、表立っては久々の共演である蓮とキョーコ。
そのため笑顔で楽屋まで挨拶しに来た少女に、マネージャーの社共々蓮は頬を緩めるも・・・。
それは長くは続かず、ふと何かに気付いたように一瞬真顔になった彼は再び笑みを顔に貼り付けると、隣に待機していた男に向かって口を開いた。

「社さん、使って悪いんですがちょっと人数分の飲み物を買ってきてもらえませんか?」

と。その言葉に了承の返事を返し立ち去りかけた社に慌てたのは、この中では一番年下のキョーコだった。

「ま、待ってください社さん。私が行きますから!」

彼女らがいる業界は完全なる縦社会。
だからキョーコがそう申し出たのは、ある意味当たり前の行動である。
しかし少しでも自身の担当俳優とその想い人、2人だけにしてやりたくて席を外そうとしていた社にとってはこのチャンスを逃せるはずもなく、ゆるやかに首を振って拒否しさっさと部屋を出て行ってしまった。

こうして訪れた2人きりの時間。
そうなるよう仕向けた蓮はいまだ緩く微笑んだまま、早速先程からずっと気になっていたことを問いかけ始める。
演技で誤魔化そうとするくらい頑固な少女が口を割ることはないだろうとは思いつつ、少しだけ自分を頼ってくれることを期待して。

「ねぇ、最上さん。元気がないみたいだけど、何かあった?」

すると案の定、キョーコは笑顔で何もないと否定した。
瞬時に大きく全身を震わせたのは幻だったと言わんばかりに。
その返答に小さくため息をついた蓮は彼女を手招くと、不思議そうに近寄ってきた華奢な体を抱きしめた。

「な、敦賀さん、いきなり何をっ?!」

当然驚いたキョーコは焦って離れようとしたが、続く彼の言葉に身動きを止めてしまう。

「俺は知ってるよ・・・君がいつも何事にも、一生懸命すぎるほど頑張ってることを・・・。
弱音を吐かないのはすごく君らしいとは思うけど、たまには愚痴って発散させた方がいいんじゃないかな?
じゃないと心がパンクしちゃうよ。」

突如与えられたのは、どんなに望んでも貰えなかった自身を肯定してくれる言葉に、よしよしと子供をあやすような優しい抱擁。
それらは日頃頑張りすぎる彼女の涙腺を決壊させるには十分な効果を発揮したようで、瞠った目からは次々と大粒の涙が溢れ出していく。

「・・・ふ・・・ふぇ・・・敦賀さん酷いです~・・・。せ、せっかく頑張ってたのに・・・どうして優しくするんですか・・・?
そんなことされたら私・・・1人で立ち上がれない・・・ダメダメな人間になっちゃうのに・・・。」

止めどなく流れる涙を拭うことなくそう悪態をつきつつも、そっと自身を包み込む人物の服の裾をつまんでいる少女。
その可愛らしい姿に男は慈しむような笑みを浮かべ、彼女にだけ聞こえるくらいの囁きを落とす。

「大丈夫、1人で立ち上がれないなら俺が手を貸してあげるから。
・・・いつ聞いたかは覚えてないんだけど、"人"って漢字は支え合って出来てるものらしいから・・・だから最上さんも、辛い時は遠慮なんかせず誰かに頼ればいいんだよ。
もし一方的なのがイヤだと思うのなら、君もそんな人に出会った時優しくしてあげればプラマイゼロだ。
そういうわけで今回は君が甘える番・・・ここには俺以外誰もいないので、思う存分泣いていいよ。」

この言葉により益々涙が止まらなくなったキョーコは、盛大にしゃくり上げた後目の前の胸に顔を押し付けてしまう。
そんな彼女を蓮は嬉しそうに抱きしめながら、気を利かせ扉を開けることなく立ち去って行った己のマネージャーに感謝したのだった。
少女には早く笑顔を取り戻してもらいたいが、この幸せにも長く続いてほしい、相反する2つのことを願いながら・・・。



おわり



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