自分が書いた話は久々の更新です~。
さてはて今回の話なんですが・・・。
さる方から頂いた“口移し”というキーワードとふと思い付いたシチュエーションのみで考えたものですので、矛盾点が多々出てくると思われます。(矛盾はいつものことですが)
ですのでその辺はツッコミなしで読んでいただけるとありがたいです。
ちなみに私が書いてるので甘さはありません。
こんな話ですが読んでやろうという心の広い方はどうぞ。



白銀に解けて



狭い山小屋の中でキョーコは毛布を纏ったまま身動きせず隣をずっと見つめていた。
そこには同じく毛布を羽織り横たわった蓮がおり、囲炉裏の炎に照らされ薄暗い室内でもしっかりとその表情まで見ることが出来る。
彼は浅い呼吸を繰り返し苦しそうな様子だ。
じっとその様子を見ていた彼女は汗の浮かんだ額にそっと手を当て大きなため息をつく。

「また熱が上がってきたみたい・・・どうしよう・・・。」

2人きりのため誰も答えてくれはしない呟きを口にし途方に暮れる。
そしてそのまま彼女は何故こんな状況になったのかを思い出すという現実逃避をしていた・・・。


事の起こりは半日前。
今回の撮影は雪山でスキーのシーンがあり、初めて滑るキョーコを蓮が指導していたのだが。
熱中するあまりコースを外れたことに気付かず迷ってしまいこの山小屋にやって来た。
運良く携帯は通じたため連絡は取れたのだが、天候が悪くなりすぐには救助隊は来れそうにない。
じっとしてるしかないそんな状況の中で蓮が熱を出してしまったのだった・・・。


回想が終わり遠い目をしていたキョーコが蓮に視線を戻すと、彼の唇が乾いているのが目に入る。
水分補給に冷ましておいた白湯を飲ませようとしたのだが上手くいかず・・・。
少しの間逡巡していた彼女はやがて覚悟を決めたように、白湯を自分の口に含むとそっと彼の唇に押し当てゆっくりと飲ませていった。
それを数回繰り返しやっと一息ついた頃、今度は蓮が寒そうに震えているのに気付く。
お互い濡れた服を脱いで下着姿で毛布を羽織っているだけだし、ましてや彼は熱があるのだから寒がるのも無理はないだろう。
さてどうしようと考え一つ方法を思い付いたのだが、それを実行する決心が中々つかない彼女の頭の中に声が響く。

― アナタが自分の気持ちが育つのを恐れるあまり躊躇ってたら、彼の容態はどんどん悪くなってしまうわよ。このままこの人がこの世界から・・・自分の前からいなくなってしまってもいいの? ―

その声に背中を押されるようにキョーコは蓮に自分の毛布を被せ、中に潜り込んで彼に密着しその体をしっかりと抱きしめた。
まるで誰にも渡さないと主張するかのように力強く・・・。
普段の彼女ならとてもこんなことは照れて出来ないだろうが今はそんな余裕もなく、しがみついたままただ必死に祈っていた。
(認めたくなかったこの気持ちが育ってもいい・・・この人が・・・敦賀さんがいてくれるならそれだけでいい・・・。たとえ彼が他の女性を想ってても・・・それでもいいから・・・。)

「お願い・・・私の前から消えることだけはしないでください・・・。」

そう最後だけ声に出して彼女はきつく目を閉じた・・・。


その後徐々に天候も回復していきようやく救助隊に助けられた2人は病院に運ばれ、キョーコは検査のみで済み蓮は入院することになった。
だが高い熱は薬ですぐ下がるだろうから心配はいらないらしい。
大丈夫だと聞いた彼女は強張った体から力を抜きながら、ふと病院の窓から雪に彩られた町並みを目にして深いため息をついてしまう。
(この叶うはずのない恋心もあの雪のように解けて消えてくれればいいのに・・・。)
蓮の無事を喜びつつもこの気持ちをどうしたらいいのかと悩み、キョーコはひたすらそんなことを思ってしまうのだった・・・。



おわり



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