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目の前で繰り広げられた光景は明らかに常軌を逸していた。
A4サイズ程のカルテのほぼ全面をわずか数秒で
その筆記体のような文字が埋め尽くそうとしていたのだ。
「五感のうちどれか一つを失った人間は
残された感覚が鋭くなる」
そんな言葉が頭をよぎる。
“声”とは五感の一つではないが、“声”という機能を失った
おじ医者んは、“書く”という動作が異常に鋭くなったのだ。
『筆談』によるもの・・とも一瞬考えられたがそんな次元ではない
その速さが“書く”こと本来の目的さえも追い抜いてしまっている
ここまで人間と懸け離れた能力を見せつけられた私は
恐怖心で覆い尽くされていた・・・
そしてこれはもう確信と言っていい
このおじ医者ん・・・喋れないんだ!!
ふっと我に返ると、おじ医者んはすでにカルテを書き終え
己の最愛の孫を寝かしつけるかのごとく
その万年筆を箱にしまい込んだ。
そして静かにこちらの方を向くと目と目が合った
ゆっくり、そしてゆっくりと口が開いていくように感じた
「喰われる!」
そう思わせたのは動物ゆえの本能からであろうか
蛇と蛙。その蛇にも似た脅威がそこにはあった
己の最愛の孫を抱くかのごとく
その万年筆を手に取ったおじ医者んは
筆記体のようでアルファベットではない文字を
ゆっくりとカルテに書き始めた。
ドイツ語? かなぁ??
スラスラと書き進んでいくおじ医者んを見ると
その眼光が徐々に鋭くなっていることに気がついた。
そして、どことなくその表情にも
みるみると英気が甦っていくように思えた。
そ、そうか! わかったぞ!!
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