【仮面】、EP3までのネタバレ

「彼であるか彼女であるか、それはもはや些細な問題なのだよ」
ただし、ストーリーについてはある意味ネタバレ(どんなエンディングかは曖昧表記)レベル。

関連作品「船の隅っこの黒猫もどき」




 全てが終わった時。
 壊れた世界の向こう側で、朝日が昇っていた。
 新しい朝が、世界を照らしていた。



「バカですか、バカなんですか!?」
【仮面】は答えない。答えられる筈がない。
 答えなんて求められていないし、ましてや目の前の少女にここまで言われる謂われが本気で分からない。
「マトッ、マトイさんがそんなの望むと本気で信じたんですか!? 貴方がDFになるなんて望むと思ったんですか!?」
 自分の選択。
 それしかないと思ったし、他の選択なんてあり得ない。
 なのに、それを知った少女のフォトンは荒れ狂っていた。
「どうやって元に戻るんですか!? マトイさんを助けてから、元に戻る手段だってちゃんと考えてるんですよね!?」
 ――マトイを助けてから?
 自分は、兎に角彼女を助けたかった。その為にはDF【仮面】になるしかなかった。だからそうした。
 なのに、この少女はその先を聞いてくる。倒すべきダークファルスに、未来を問うている。
 そんなこと、どの【仮面】も考えたことなどなかったのに。
 そもそも、どうしてそんなことを気にするのか。
「考えてなかったんですねこの恥知らず!!」
 無言を貫けば、また叩かれた。
 痛みなどない、フォトンを全力で叩き込まれない限りこの身体は損傷を治してしまえる。
 ただ、叩き続ける少女は泣いていた。
 何がそんなに悲しいのか、言葉を重ねる毎に涙をこぼしていた。
 ズクリ、【仮面】になってから殆ど揺れなかった部分に、何かが届いた気がした。



 そいつは感情のない目なのに、明らかに嘲笑ってると分かる口調で言い切った。
「サイアクだね、君は!」
 ズキリ、この時代の者達とのやりとりで柔らかくなった部分に、容赦なく刃が刺さった気分だった。
「悪い魔女に呪いをかけられたお姫様を助ける為に自分も呪いを受けた騎士様。素敵、ロマンチック、こんな人に愛されたい!?」
 それは事実をかなりねじ曲げた言葉なのに、正しくもあった。
「お姫様の『人格(ペルソナ)』を守る為に生まれたDF。でもさ、それって魔女(シオン)と呪い(【深遠なる闇】)が用意した罠だってことは気づいてる?」
 全ては、彼女の為に。

 それが【仮面】が生まれた理由。
 なのに、それこそが彼女が助からない理由だとそいつは言い出した。
「自分をDFにして、過去に介入したら彼女を助けられるって信じたの?」


「バーカ、マトイが死んだ後【深遠なる闇】の残滓から生まれたDF【仮面】』が過去に介入した時点で、『【深遠なる闇】は顕現する』、『マトイは【深遠なる闇】になる』未来を確定させてるんだよ」

 鶏と卵の論理。タイムパラドックスを嫌う時間の法則。
 未来を識るシオンと、未来から来たDF【仮面】。両者は、本来であれば多数の可能性を持っていたマトイの運命を縛ってるのだと。
 マトイが【深遠なる闇】になるからシオンは別の未来を探し、【仮面】は過去に干渉する。
 見方を変えれば、シオンと【仮面】が回避しようとする程にそれは『必然』となり、マトイは【深遠なる闇】になる未来から逃れられなくなるのだと。
「お前は彼女を助ける為に生まれたんじゃない、彼女を【深遠なる闇】にする為に生まれたのさ」
 それは、DF【仮面】になって繰り返した絶望の更に上を行った。
 存在理由の全否定。助けようとして生まれた自分こそが、彼女を縛り付けているという可能性。
 それでも、自分は。
「……どうすれば良い」
「ん、諦めるんじゃなかったの? この時間軸の自分も巻き込んで彼女を殺して、『自分だけ』救われるんじゃなかったの?」

 ――ああ、そうだ。

 思い出す。

 アークスとしての自分が見た、【仮面】の最後を。

 仮面に隠れていたが、あいつはきっと笑っていた。長い長い苦しみを超えて、安らぎを得た。

 彼女を後ろから抱きしめ、顔を見ずに逝ったあいつは。

 だが、

『これで、よかったんだよ』

 そう言った彼女に、 あの愛くるしい笑顔はなかった。

 だから、自分は――闇を、引き継いだ。

「――それでは【深遠なる闇】の罠から抜け出せないんだろう」
「ハハハ、今更だね! 生まれた時点でお前は所詮【深遠なる闇】の駒なのにね! まぁいいや」
 その瞬間に、懐かしい輝きが忘れていた物から発せられた。
「魔女のかけた呪いの解き方は、魔女に聞くしかないだろさ」
 自分の存在理由を取り戻す為に。
 捨てたはずの道しるべに、再び手を伸ばした。



  【仮面】になったことを後悔などしない。
 全ての自分がそうだった。そう信じていた。
 ――これを見ていたら、どうなっていただろうな。
 他惑星の者と、同じアークスと協力して戦う過去の自分。
 そんな事実、【仮面】となった自分にはなかった。
 開かれた世界、広がる繋がりと可能性。
 もうないと思っていた輝きと共に、それを見る。
 ――或いは、あそこに立っていたのは自分だったのかもしれない。
 導かれるままに見る光景に、そんな思いが胸を過ぎった。
 それでも、自分は。
『大好きだよ』
 痛みと愛おしさは、今も胸を突く。
 だから、【仮面】に迷いはない。
 例え後の未来にどれだけの矛盾を生むとしても。
 ――この行動で、彼女が助かるなら。
 多くの『それ』を見てきた、なぞってきた。そして、見ることを辞めてきた。
 青空色の羅針盤、シオンと自分、マトイを繋ぐもの。『前』の【仮面】から『次』の【仮面】に引き継がれても一つのままだった『それ』が、今再び自分に幾つかの欠片を示している。
 ――まるで、ようやく事象が繋がり始めたかのように。
「それを、寄越せ」
 ――『クラリッサの断片、或いはクラリッサそのものを手に入れろ。その時代の貴方を、倒してでも』。

 例え、この行為によって世界の全てが敵になっても。
 彼女が世界の敵にならない為に。
『もう、十分だよ』
 自分の中に残る彼女が泣きながらそう訴えても。
『もう、良いの。わたしとあなたの本懐は果たされたんだから』
 痛みと愛おしさが、胸を突く。
 それでも。
 自分がいるから彼女が【深遠なる闇】になってしまうのなら。
 自分の存在理由が、知らぬ間にすり替えられていたのなら。
 ――まだ、終われない。
 青い輝き。彼女を縛る鎖であった存在の用意した楔を、一つずつ解き放つ。
 ――壊れろ!
 それで何かが変わると、信じて。



 彼女は一人だった。
 ただ一人で、皆の為に戦っていた。
 誰も知らない、シオンしか知らなかった彼女。
 それでも、自分はそれを知ってる。
 アークスとして、DF【仮面】としてそれを知ってる。
 自分ももう一人だ。
 ただ一人、彼女の為に戦う。
 それは、誰も知らなくて良い選択。
 シオンもマトイも知らない未来を目指して――。



 知らない『過去』は、困惑と期待の両方を【仮面】にもたらす。

 例えば、凍土でアークスや学者と熱心に話す自分の姿。

 例えば、交流が断絶状態だったはずの龍族とアークスが協力している光景。
 それでも、やはり出現するDF達。

 いくらシオンの導きに従っても、変わらず消えない壊世区域。

 力が削がれる感覚が襲い、期待した分だけ裏切られるのではないかと幾度も味わった絶望に屈してしまいそうになる。
 それでも。
『もう、十分だよ』
 気づいてしまった。今もまだ彼女は【深遠なる闇】に縛られてると。
『もう、良いの。わたしとあなたの本懐は果たされたんだから』
 痛みと愛おしさが胸を突いても、それすらも罠であると。
 だから、彼女の言葉を言い訳に立ち止まることは出来ない。
 【深遠なる闇】の残滓として残る彼女の涙が利用されている。
 彼女を縛り付ける【深遠なる闇】が自分を唆そうとしている。
 ――『マトイさんがそんなの望むと本気で信じたんですか!? 貴方がDFになるなんて望むと思ったんですか!?』
 愛する者を助ける為にDF【仮面】になってしまったことは悲劇だと、あの少女はきっとそう思っているのだろう。
 だが、そんなことはない。自分は自分でそれを選んだ。
 彼女は、選ぶことすら出来なかった。まさに囚われの姫君なのだ。
 なら、どれだけの呪いを受けても、彼女を呪縛から解放しないといけない。
 赤と黒、今までの自分が選択して得た力を手に。 
 青い輝き、今まで失われていた光を握りしめて。
 この変化が、彼女を本当の意味で救うと信じて。 
 妥協した選択など、【深遠なる闇】になる前に彼女を殺すなどという負け犬のような真似はもう晒さない。
 【深遠なる闇】に縛られ眠る彼女に気づいた今、それはもはや敗北でしかないという事実を受け入れて。
 もう、自分が生み出した絶望に溺れはしない。



 青い輝きが導く世界。
 それは、【仮面】の知る世界とはもはや別物だった。
 それでも、大筋は変わらない。
 いや、より悲惨かもしれなかった。
 よりにもよって、自分を助ける為に彼女は全ての闇を背負ってしまった。
 ――クラリッサさえ、奪えていたら。
 今回の原因は、それに尽きた。
 そうすれば、未来は変わっていた。
 自分が【深遠なる闇】になっていただろうが、少なくとも彼女は救えていた。
 以前なら、ここで諦めていた。

 ただ、気づけば【仮面】はもはや用済みになったとしか言えないクラリッサに手を伸ばしていた。
 刹那、世界が青に満ちた。


『……待っていた』

 青い輝きが、彼を優しく包み込んだ。
『いや、それは貴方には当てはまらない。待たせてしまった、だろうか』

 懐かしい言葉、三人の始まりとなった存在との最初の会話のまま。
「………かもな」
 ただのアークスですら感じられた神聖さは、DFとなった今は眩しいほどだった。
『それでも貴方は――貴方なら、必ず来てくれると信じていた』
 この時代においては失われていた筈のその存在の大きさに、その存在から伝わる安堵感に失った筈の涙がこぼれる気がした。
「なら、こちらも待たせてしまったんだろうな」
 自分の未来が変わる予感がした。
 DF【仮面】が生まれない未来。自分という存在が矛盾に塗れて消える未来。
 それでも、構わない。構わず、自分の時には存在しなかった選択の時へと『跳んだ』。



 様々な過去があった。
 様々な未来があった。
 どうしても変えたいものがあった。
 どうしても守りたいものがあった。
 全てが複雑に絡まって、誰かの願いが誰かの未来を妨げ、誰かの見た未来が誰かの願いを打ちのめした。
 それでも、その時代の者達は出来る限りのことをした。
 ここにも、また一人。
「この、わからずやっ! 邪魔しないで! これは私が望んでやっていることなの!」
 絶対に変わらない未来を持ってしまった少女は泣きながら叫ぶ。
 絶対に変わらない未来の中で、それでも大切な者を守ろうとした少女は自身の意志を貫こうとする。
「あなたを……あなたのいる世界を、守りたい。あなたを守りたい、って」
 彼女もまた、未来を知ってしまった。
 自分がみんなの苦しみ悲しみ辛さを背負い込んで飲み込んで消えることが出来ることを。
 自分が死ぬことで、この時代の【深遠なる闇】は復活出来なくなることを知ってしまった。
「だから、だからね。私はなにも……怖くない。なにも怖くなんか、ないんだよ」
 自分一人が犠牲になれば、全てが救われると分かってしまった。
 大切なたった一人を守れると、信じていた。
「なら、どうしてあいつが死ぬのが怖いの? ――どうしてお前は『良い』のに、あいつが死ぬのは『ダメ』なの?」
 純粋な問いかけが、全ての理屈を打ち砕いて彼女の耳に届いた。



「彼女の選択は正しいんだよ、少なくとも時間遡行という行為を加味しなければ。人造でも全知存在、把握できることを全て把握して最善を選ぼうとしてるんだね」
 クラリッサを手に入れた【仮面】に、感情のない目を持つ者は告げた。
「でも、君もシオンもそれを選べない。彼女を犠牲にするという行為だけは選べなかった」
 ――だから時間遡行をして、より深みにはまってしまった。
 過去をやり直すことは出来ない。その上で最善を選ぶ。それが、『ヒト』というモノの正しい生き方だ。
 けれど『ヒト』でないシオンはそれを選べず、一人のアークスはそれを選びたくないから『ヒト』を辞めてしまった。

「呪いの原因は魔女、そしてそれを酷くしたのは騎士。お姫様は被害者――なら、『たった一つのやり方』が使える」
 眼下に見えるのは、彼女と自分。
 皆の為に【深遠なる闇】と共に死のうとする彼女と、彼女を【深遠なる闇】から助ける為だけにここへ来た自分。
 そこに、おかしな所など何もない。なのに、二人の運命は今までどうしようもない程に定められてきた。
 シオンによって――シオンと【深遠なる闇】の影響を受けた、【仮面】によって。
「全ての矛盾を逆に『利用』し、彼女を縛る全てを滅する」

「彼女と『君』を、だね」
「……そうだな」
 【深遠なる闇】と【仮面】の介入がない、ただ今を生きる者達だけが対峙する瞬間を、見守る。
 もはや促す必要も、止める必要もなかった。
 彼女が残酷と評した優しさ、彼女を揺り起こす言の葉を。
 彼女自身が紡ぎ出す、残酷な優しさに溢れた一撃を。
 それを止めるべく、受け止め食いきる為に動くこの時代の自分のことも。
 ただ――目の前の光景に涙を流す彼女にだけは、声をかけていた。


「――なら、何故泣く?」


 答えなんて、分かり切っていた。きっと、彼女だって分かっている。
 自分を捨ててでも相手を守りたい――自分の為に、相手を失いたくない。
 ――互いに、似た者同士過ぎたのだな。
 そのせいで、きっとこんなにも絡まってしまった。
 だが、だからこそこの瞬間に辿りつけた。
 【深遠なる闇】になりかけた彼女の一撃、彼女が彼女のまま死ぬべく放たれたその瞬間。
 全く違う世界を生きた自分がそれを防ごうと足掻くその瞬間。
 【深遠なる闇】の一部が削がれ、明確な隙が生まれた瞬間。
「起きろ、クラリッサ! 否、シオンよ!」
 ――因果は収束し、今一つの事象となった。
 青い輝きと、赤と黒の力が集まった瞬間、
「私たちの巡ってきた悠久の輪廻を、ここで終わらせる。そのために……力を貸してくれ」
 ――運命を変え、新しい未来を紡ぐ為に!
 今この時こそ、自分とマトイとシオン――三人の願いを、叶える時。
『もちろんだ』
 青い輝きを以て、赤と黒を制した。
 それは、全てを変える程の一撃。



「仮面!」
「仮面さん!!」
 聞き慣れない声が聞こえた。
 聞き慣れることになる世界を知った。
 彼女以外の多くと繋がり、共に生きる未来を夢に見た。
『大好きだよ』
 それでも。
「私は、彼女を救えればそれで十分! ――それ以外は、何もいらない!」
 痛みと愛おしさが胸を突く、孤軍の自分。
 それで彼女を守れるのなら。
 彼女の為の自分であることを、選んだ。
 今、ようやく自分は自分の選択全てを受け入れられる。
 【仮面】、彼女の人格を守る為に生まれた自分。
 決して、【深遠なる闇】顕現の因果を結ぶ為に生まれたのではないのだ。



 青い輝きの満ちる、全てを終わらせる一撃が放たれた。
 未来と過去と現在が交錯した世界の向こう側の朝日が、ようやく少女に届いた。
 一人の少女の呪縛が解かれ、涙と笑顔を照らす朝が訪れた。



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パチリ。
「二時間半。歌詞の確認しつつとはいえ結構かかったな」
というわけでどもどもです。

自分達の作品の設定をメインにしつつも短編として描いた物語(合計三人、明確に名前が存在するのがいます)。
先に言うと、自分は【仮面】の設定は結構好きです。
――苛め甲斐があって(よく言われること「ドSだ」)。

基本設定や考察が好きなので、今作は「黒猫」と同じだけ考察混じり、かつそれでも【仮面】が自分を貫くというのを意識しました。


ストーリークエスト「わたしが生まれたその理由」、「あなたが生まれたその理由」。
【深遠なる闇】になる為、或いはDF【仮面】になる為に生まれたかもしれない二人、その運命を変える為の物語。黒猫で使った単語を使うなら、「シンギュラリティ(蝶々効果で生まれた歪み)」を「シンギュラリティ(蝶々効果で作った改変)」で打ち消す話。


互いが互いを縛って、未来を閉じていた一人(シオン)と二人(主人公、マトイ)。しかしそれは一人と二人を一人(シオン)と三人(主人公、マトイ、DF【仮面】)に変え、一人が消え、加わった一人もそれに準ずることでやがて主人公とマトイを解き放つことになる。
「でもそれって当たり前だよねー、だってそもそもこの時代に問題を持ち込んだのはシオンと仮面なんだもん」
「だよねー、仮面とかどう考えても『やり直すのは良いけど闇引き継ぐなよややこしくなるだろ』だよねー」
とか思ったりしました。

さて、この話を投稿する為にもとっとと「黒猫」書き上げないと。
2016/01/10


そして時は1/26へ――。

EP3最後の夜です、本日同居人が「わたしがここにいた理由」を投稿するんですが、着目したのは同居人が先じゃないですよ。

むしろこっちが考えを口にしたら向こうが始めたのです(よく言いたくなること「実はよくある」)。

腹が立つので「実はこの話、フーナでも誰でもあてはまるのよ」ということは投稿まで秘密にしてました。

明日からEP4が始まります。

自分は序盤を終えたらEP3にとどまり、3-7、3外伝をきちんとクリアしようと思います(未プレイ)。


追記:プレイして、一部書き換え。あそこまで最後の【仮面】が自己本位とは思わなかった、あれは引き継ぐわ。


BGM:AKINO from bless4. 「海色」



「闇に落ちる為に生まれたんじゃない」
どんな結果があろうとも、そうだと思うのです。本当にハッピーなのかわからなくても、バースデー(誕生)はハッピー(幸福)と共にあると。

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