目を疑うべき話 2/3

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またもや客人とのリンク物です。この、広い世界の片隅で。
平凡で当たり障りない午前中 Possible world~ある休日~
平凡で当たり障りない午後   Possible world~ある始まり~
                    Possible world~ある街角~
                    Possible world~ある逢瀬~    目を疑うべき話 1/3

                    Possible world~ある襲撃~    目を疑うべき話 2/3

                    Possible world~ある終わり~   目を疑うべき話 3/3


 時間軸的にはこんな感じになってますのでご注意を。





 道と道の交差する場所で、苛烈な戦闘が繰り広げられていた。
 男も女も、新人もベテランも、ヒューマンもニューマンも、キャストもデューマンも、アークスのステッカーをつけている者は全員ダーカーとの接戦を繰り広げている。
 怒号、爆裂音、それに続く赤子の泣き声に似たダーカーの悲鳴。
 ――邪魔だなぁ。
 椿はそれらの情報を切り捨て、マンルーンに渡したのとは色違いのヘッドフォンに耳を押し当てて状況を確認していた。
 アークス本部から来た者達は孤立していたアークスを回収しつつ、避難民のいるポイントへとパーティ単位になって移動している。本来ならすぐ転送装置を使って避難させるのだが、未だ続く通信障害でリスクが高く上手くいっていないらしい。よって現在ブリューリンガーダ討伐に参加できているのは最初からこのエリア付近にいた者のみ。

 ターゲットであるブリューリンガーダは現在走り回っては旋風を起こし、風を起こしたり吸い込んだりする輪を投げたり向けたりしてアークスと徹底抗戦の構えだ。むしろ武器使用が禁止されていた時の大人しさの方が異常だったとも言える。
 そしてターゲットの周囲には戦闘とフォトンの気配で集まったのか雑魚ダーカーの群れ。チェスの駒を思わせる天使も、鯨或いはアヒルも、単純なカラスや鷲のようなダーカーも勢ぞろい。
 ベテランや実力者がブリューリンガーダ、他は雑魚の対処というのは自然な流れだろう。
 椿がいるのは、対雑魚組の方だ。
「あんた達、絶対許さないんだからね!!」
 接近組は鬱憤を払うべく暴れ回り、泣く寸前の少女の声はしかし力を失わず火球を放ち、椿も彼らに呼応するように祈りを捧げる。
 たった一人の為に。
 雑魚とは真反対、ブリューリンガーダの近くで戦うのはマンルーンだ。最も扱い慣れている弓を構え、アークスのフォローに徹している。本来なら近接も可能だが、幾人かのアークスがあまり良い顔をしなかったのだ。
 ――実力で言えば、あの人は間違いなく実力者なのに。
 彼女を見ることなく、椿はタリスを後ろへ投げる。そのまま支援系テクニックを発動させた。
《状況は?》
 流石、心の中で感嘆する。事務も出来るが何より戦闘に特化した少女は自身の周囲を巡ったフォトンが椿の仕業とすぐ気づいたらしい。
《こちらはひとまず安定してます》
《完全に落ち着くまでそちらに集中してなさい》
 大変不満を覚える指示だが、仕方ない。
《わかりました、くれぐれも気をつけて》
 ブリューリンガーダ戦への参加は促されない、提案も希望もしない。
 椿は事務専門として『調整』されたサポートパートナーだ。高い分析力やちょっとした特技もあるが、即戦力としては新人アークス程度の力しかない。まさに『椿』、武人が縁起が悪いと評する程あっさりと花を落とす植物。
 ――まぁ、落とすのは花だけなのだけれど。
 花は綺麗だろうが不要なら捨てるだけ。『椿』の花にふさわしく上品だの慎み深いだのと言われる彼だが、内にあるものは簡潔だ。
 主の為に。
 ただそれだけ。その為なら実力者アークスも新人アークスも民間人もあっさり捨てる。『椿』が邪魔な蕾や花をあっさりと地に落とすように。
 そんな彼にとって、今重要なのは同僚であるマンルーンの安否だけだ。彼女の戦力的価値は主を守る上で失うには惜しいし、なにより彼女が死んだら主が悲しむ。
 名も知らぬ死者を悼むのは良い。けれど、大切なものを失う痛みを覚えさせたくはない。
 銃剣に持ち替え、フォトンの弾丸で雑魚ダーカーに『印』をつけ続ける。三連打を正確に撃ちつつも、思考は勝手に回ってる。作業を正確に行いつつ思考や会話が可能なのは椿の特技であり、またながら作業でないと落ち着いて行動出来ないという悪癖でもある。
 ――でもやっぱり、アークス本部にアクセス出来ないのはきついな。
 椿は不確定は嫌いだ。それは目的達成において必ず障害となる。情報は椿にとって不確定から身を守る盾であり、不確定をそぎ落とす剣である。
 可能なら、椿はとっととマンルーンを連れて戦線を離脱したい。戦場が怖いのではない、こんな支援も援護も十分でない状況での戦闘が嫌なのだ。
 ――マスターがいなくて本当に良かった。
 こんな場所に主がいたら。想像すらしたくないのに脳内は勝手に場面を紡ぐ。なんのかんの言って甘くて、他の人をかばって、孤立して、群れに襲われて、そして――。
《緊急連絡!!》
 最悪な瞬間が映し出されるより先に鼓膜を壊す勢いの通信が響いて、椿は強制的に意識を外へと向けさせられた。
《ベイゼ発生!!》
 いや、周囲にいるアークス達全員がもたらされた情報に意識を向けた。
「マジかよ!?」
「え、何それ?」
 ――待て、アークスならそれくらいは知っててほしい。
 椿は心の中で突っ込みながら個人用情報端末のデータを疑問符を浮かべる新人アークスへ投げる。
 ベイゼとは、移動は一切しないが周囲の生き物を吸血しながらどんどん成長し、最後には爆発するダーカーの爆弾だ。それだけならその区域を犠牲にすれば良いが、爆発後高濃度のダーカー因子を含んだ『毒の雨』と呼ばれる有毒性の雨が広範囲に発生してしまう。よって、確認したらなにより先に破壊しなければならないのである。
 アークス本部の通信官達からの情報はないので自力で周囲の数値を計測、確認できる異様なダーカー反応は二つ。一つはここ、つまりブリューリンガーダ。
《繰り返す、E1にベイゼ発生!!》
 当たり、椿は即座にE1の数値を確認する。
《E1エリアのダーカー反応レベルから考えて、既にベイゼは周囲からの吸血を開始中! 爆発した場合の想定被害範囲は市街地エリア全体!!》
 過去のベイゼ被害から分かる情報をそのまま通信で流す。優秀なアークス達が戦闘を続けつつ情報に耳を傾けているのが分かった。
《爆発まで、推定あと十五分!》

「「「「待て(待って)」」」」
 しかしこの情報は黙っていられなかったらしい。
「つまりあれか、十分以内にここ掃除して向かえってか!?」
「あの馬倒して!?」
「いっそベイゼの方に引きつけるとかは? 一緒に倒しちゃうみたいな」
「バッカ、もし爆発されてみろ。全滅だぞ!」
「両方倒すにはブリューリンガーダは動き回りすぎる。逆に翻弄されるのがオチだ」
「じゃあ皆向こうへ」
「それで馬に移動されたらどこ行くかわからないだろうが!」
「ここでブリューリンガーダを足止めする人間が必要ですね」
 ――言い合ってる場合か。
 分かってはいたが、やはり即座に動けるのは少数だった。実力者は個人間かパーティ間通信をしたのだろう、ブリューリンガーダと戦っていた数人がベイゼの方へ走り出している。
 だが、この場にいる大多数がここから動こうとしない。中には戦闘すらやめて話している者までいる。
 そんな愚か者を、ダーカーが見過ごすはずがない。
 結構ダメージ入るだろうな、と椿は冷静に回復テクニックのチャージを始めながら思った。だが狙いを定められたのは女性でもヒューマンだ、後衛フォースでも死ぬことはないだろう。多分。
「ふぇ?」
 間抜けな声の主に瞬く間に槍が迫り、そして他のアークスが駆け寄ろうとして。
「せいっ!!」
 それを縫うように走り込んだマンルーンが、槍を下から蹴り上げていた。そのまま対の薄紅刃を閃かせ、強制的に浮き上げた敵のコアを連撃で破壊して倒す。
「お怪我は?」
「だ、だいじょぶ! ありがと!」
 気遣いまで含めて見事な流れである。だが助けられた少女の方が顔を赤らめていて、マンルーンの傍らへ移動した椿は終わってからまた厄介そうだなと思ってしまった。
「あ、そうだ、君も一緒にベイゼの方へ行こう!」
 否、どうやら既に面倒なことになりそうだ。
 パーティ招待。クエスト達成の為互いの情報を共有し、行動を共にする誘い。基本クエスト受注前か受注時に行うものだが、クエスト中もパーティが四人未満なら可能である。
「パーティはそこの子だけ? マスターさんは?」
「マスターとは、今別行動です」
「じゃあサポートだけ!? そんなの危ないよ」
 ――そのサポートに今助けられたのは貴女でしょうに。
 寄って来る雑魚ダーカーを攻撃系テクニックで牽制し、戦いながらも様子を見守っているアークス達に構わずマンルーンを盗み見る。
 つり上がった目、褐色の肌に映えるアイスグリーンは触れることを躊躇う色だ。
 けれど、普段はもう少し柔らかい。
「――いえ、私『は』こちらに残ります」
 言うや否や、彼女は駆け出す。ブリューリンガーダへと。
「え、ちょ!?」
 驚く周囲を後目に、椿も銃剣を構えて引き金を引いた。人が両手を広げて余りある大きな黄金の輪に赤い『印』をマンルーンが狙った場所ぴったりに当てる。
 刃が踊り出し、感覚を狂わす輪の奏でる音に美しい剣戟の音が重なり始める。闇雲であれば生まれない旋律は、加わった音の使い手と同じく澄んでいる。
「だ、だめだよ!」
「おい、パーティ分断するぞ! ここに残る奴とベイゼに行く奴で分かれよう!」
 ――やめてくれませんかね。
 もう何人かベテランが残ってるのだ。椿からしたらこれ以上無駄な時間と言葉で彼女を刺激しないで欲しい。
《ベイゼが成長するぞ! 応援求む!!》
 ベテランが迷い始めている。周りの鈍さに下手に自分達がターゲットを足止めするよりすぐに移動して破壊した方が良いのではないかと。
 マンルーンは迷わない。蹄が踏んだ地面から起きる黒い旋風に突っ込み、攻撃を加え続けて敵の注意を他へ移させない。
 愚直で大胆、しかし洗練された動き。何人かのベテランがそれを確認してベイゼの方へ動き出す。
 だというのに、椿の周りはそんな彼女に感嘆しない。
「敵の攻撃が彼女に向き始めてる。やばいよ、今は大丈夫そうだけど」
「あ、なんであの人達離れ始めてるんだ、おい! あの子一人に戦わせる気かよ」
「しょうがない。僕達でサポートしましょう」
 無性に苛ついた。マンルーン一人で戦うなんて危険な真似をさせるのは嫌だ。だが、こんな奴らのせいで彼女の信念や矜恃を傷つけられるのも椿は我慢ならない。
《爆発まで十二分! 爆発されたら辺りへの被害は甚大、直ちに破壊を!!》
 なのに、自分の立場ではこれ位の情報しか投げれない。ブリューリンガーダは有翼系ダーカーの上位種、実際マンルーン一人では椿の援護があっても役者不足なのだ。
 ただ、それは実力の問題であってサポートだからアークスより劣るという訳ではない。
 周りの者がブリューリンガーダに向かって攻撃を開始する。こうなったら椿だけでもベイゼに行くべきかもしれない、と考えた直後だった。

 ブリューリンガーダが一歩下がり、周囲を巡っていた輪が奴の手元へ戻った。
 ――まずい!
 人より拙いステップで超近距離転移をして範囲外へ。最前線のマンルーンも即座に横へ跳んだのが見えた。


 轟!


 二つの輪が盾のような状態で左右に移動し、その両方から黒い旋風が放たれた。

 ブリューリンガーダの切り札、当たればよほど体力と防御が高くない限り戦闘不能で発動されたら避けるのは至難の一撃だ。
 輪は腕の動きに従いブリューリンガーダの眼前へゆっくり移動し、圏外に逃げれず挟み込まれ逃げ場を失ったアークス達に二重の旋風が迫り――。
 たった一人の青年が、彼らの前でガードスタンスを取っていた。


「――ムーン乞食どもはとっととベイゼ壊してこい」

 柳に風。ブリューリンガーダの必殺の一撃をそんな様子で耐えた青年は、守られるだけだった者達を一蹴して走り出す。手には短杖――接近戦も出来るテクニック職テクター、その中でも不死身ではと噂される程体力が桁外れの青年のことは椿も知っていた。
 他のアークスも青年のことを知ってたのか言われた意味を理解したのか単純に気迫に押されたのか、ようやくベイゼへ向かう。
 彼がいるなら。マンルーンを連れて離脱する際に痛みと毒に侵されながら走るのは嫌だったので椿もベイゼに向かって走り出した。
 ――嘘です前にあの方に何回もムーンを頂いた弱小フォースです。



 テクニッククラフトは、登録されている自身のテクニックの数値を少しだけいじり、自分好みにカスタマイズする手法だ。メリットもデメリットもあるが、自身の戦法に合わて行えば利点の方が多い。
 イル・ゾンデ――マンルーンの主が迅雷と呼ぶ雷の速度で移動するテクニックを、椿は本来は攻撃に回っていた数値を極限まで下げ、代わりに移動距離と速度を上げる形にカスタマイズしている。それによって、戦闘能力を『調整』時に全て落としてきたと評される動きの悪い彼が何組ものパーティを抜き、ダーカーも無視して最短ルートを取ることに成功していた。そのままひとまず赤い根がびっしり張られ、同じ色の太い触手を大地に突き刺したベイゼが見える位置までどうにか辿り着く。
 ベイゼは最終段階一歩手前、その周りには湧き出し続けるダーカー達。本来ダーカーに共食いの習性はないのに、ベイゼだけは己の養分とする為だけに同族を呼び寄せるのだ。
 それらもろとも断ち切るべく青い大剣、オーバーエンドが四方から放たれているが、ベイゼの耐久は半分以上残っている。
 とにかく、とまず銃剣でベイゼに『印』を付ける。そのまま経路にある瓦礫をテクニックで粉砕、後続がスムーズにベイゼに辿り着ける状況にしてから破壊に参加する。
 その間も、思考は一人歩きをしていた。
 マンルーン。マン(マンナズ)・ルーン。
 椿の名が植物由来なのに対し、マンルーンの名は『人間』、『人間性』、『自己』、『自我』という意味を冠した魔法文字を指す。魔力的な意味は自己探求の助け、表す神話は高級な精神力の発展。
 移動する時間すら惜しい、自動追尾機能を持つイル・メギド―闇腕とも呼ばれるもっとも弱点とするエネミーが少ない属性の上級テクニック―を一発、二発と走りながら連発する。
他のテクニックが使えるなら乱発する価値もないが、今のような遠距離で連発するなら使い勝手は結構良い。
 不気味な腕を撒き散らす間も、やはり思考は止まらない。
 マンルーンは自身の名の意味を、たった一つの命令と共に告げられたという。 
『ヒトであれ』
 鬼だ、と彼女から話を聞いた時本気で思った。彼女の主をある程度知っていたから余計に。
 自分達と同じなくせに、自我すらきちんとしてないくせに、造られた命に生まれた命であれなどと無茶ぶりしたのである。
 しかし、きっと何も知らないだろうマンルーンはそれに素直に従っている。人間とは何か考え、人間性というものについて調べ、必死にヒトとして正しくあろうとする。
「急げ!!」
 肉声が聴覚に届き始める。転びかけるがその勢いのまま進む。
 マンルーンは必死にヒトであろうとする、アークスと対等になれるように努力している。
 でも無理だ。彼女は結局サポートパートナー。アークスを支える為の存在。彼女がヒトであろうとしても不特定多数は彼女をヒトとして見ない。先ほどのやりとりが良い例だ。
 なのに彼女はそうした扱いを受けると意地になってヒトであろうとする。
 周りの為に動いて、周りを気遣って、多少の無茶をして、自分が痛い目見ても迷わず動いてしまう。
 見てて泣けてくる、というのはこういう時の言葉かもしれない。フォース数名の横をイル・ゾンデで通り過ぎる。
 湧いてくる雑魚の種類が中型になっている。もうそれらに構うよりも集中攻撃の方が良い。
 カスタムした高威力のラ・グランツ――光の束でひたすら叩く。『印』もついてるのにようやく人並みの威力である事実は悲しいがとにかく連発する。
《残り一分、ベイゼの耐久度は五分の一!!》
 
 頭に鈍痛、そういえば体内のフォトンをかなり喰うカスタムにしてしまっていた気がする。だがマンルーンと別行動になってしまった以上絶対に爆発だけはさせてはいけない。
 周囲にいたマグのフォトンブラストによってフォトンを活性化させる魚が数匹召喚された。呼吸を整えるよりも使用フォトンを更に増やす。
 『椿』、咲いた花をあっさりと落とす植物。価値がなくなれば自身の一部である花すらも捨てる植物。
 ――大切な物を失った時、あなたはどうしますか?
 ――マスターの役に立たないなら、価値なんてない。
 思考に霞みがかかる、何を考えてるか自分で把握できない。とにかく目の前の赤い球体を破壊しなければという一心でテクニックを追加発動させる。
 光のフォトンで眩む視界に、黒い風を見た気がした。
「っ!?」
 ――ブリューリンガーダ!?
 ならマンルーンは。一気に明確になった意識はしかし最悪の可能性を否定した。
 光に構わず飛び込んだ『人影』が、刀を抜く。
 音すらしなかった。テクニックも剣戟音も打撃音も銃撃音もすべて消えたような錯覚を覚えた。
 風も音も斬り裂く一閃。
 人影――青年の着地音だけが、やけに明瞭に耳に届いた。

 それでようやく世界が音の存在を思い出す。真っ二つに割れたベイゼが悲鳴を発しながら赤い霧となり、いつの間に斬り伏せられたのか中型ダーカー達も倒れていた。
 世果――アークス最強の一人が持つ創世器、あまりの威力に封じられている刀。一瞬それが抜かれたのではないかと本気で思ってしまった。
 それを連想するほど、あっさりと緊急事態が打破されてしまった。
《・・・・・・ベイゼ、消滅しました》
 何とかそれだけを告げる。そうすればブリューリンガーダと戦っている者達が即座に応援を求め、多くのアークス達が夢心地のまま動き出す。
 椿は、動けなかった。ただでさえ整えてなかった呼吸を止めていたのだ、臓器が熱を出し悲鳴を上げてしまっている。
 さっきの人は。意識的に深呼吸しながらその人を見る。
 最初の黒い風という知覚は間違いではなく、本当に漆黒の外套だった。顔には何故かドクロの仮面を着けているが妙に様になっている。ひょっとしたら有名な人かもしれないがすぐに思い出せない。
 何人かが彼に声をかけつつ駆け出し―その人達はあの一撃を見たというのに気安いもので、どうも彼の実力的に驚くべきじゃないらしい―、彼はそれに答えた後で何かを取り出し眺めていた。椿の位置からはそれが何か分からず目を細め一歩踏み出し。
 ――あ。
 気づかれてしまった。青年の仮面が、まっすぐ椿に向いていた。
 どうする、どうする。動くことは許されず一気にテンパる。
「す、すみません。さっき視界の邪魔をしてしまいましたよね」
 凄かったと言えば良いのに、口から出たのは謝罪だった。しかも見つめていたことではなく先ほどの誰が放ったかも分からないようなテクニックについての。

 もし相手が性悪なら自分で灯油被ってライター差し出すような愚行だ。

 ――ごめんなさいマスターやっぱり僕は役立たずでした無礼なのはサポートであってマスターに非がないことだけは伝えきってみせますからマスターごめんなさいごめんなさい。
「問題ありません」
 脳内で自己嫌悪が展開されそうになった椿に、しかし青年は穏やかに告げた。


「あの程度の視界不良で狙いを誤るような柔な鍛え方はしていませんから」


 ――かっこよすぎるでしょ!?
 緊張も不安も恐怖もベイゼ同様真っ二つになった。
 アークスは実力主義。結局それが無ければ生きていけない。だから自然と強い者こそが上に立ち、また強い者に従うのは自然なこと。
 それは決してアークス達の下で働くサポートもマスターという例外がいるものの当てはまる考え方で。
「失礼しました、自分は椿と言います。よろしければお名前をお聞きしても良いですか?」



 その日、とある超実力者アークスに憧れる者が更に増え、その中にはサポートが二人程含まれていた。
 ――この人なら、マンルーンさんもサポートとして扱われても無茶しなくなるかもしれない。
 そんな思惑の絡んだ形で。






恐ろしい防御力を備えたキャラと最後の恐ろしく強いキャラは、客人が既に書いていた『知り合いをモデルにした』人達です。
実際恐ろしく硬い人と恐ろしく速くて強い人です。もはや見て真似るなんて不可能な領域ですが憧れるのは許してほしいです。
最後の方の台詞は同じニュアンスのことを実際に言われたので採用しました。むしろこれだけは書きたかったと言っても過言ではないです。聞いていた他の男性陣も「かっけぇ・・・」と感嘆していました。
ちなみに使用する際の条件は「かっこよく書いてくださいね」。★が見えるのは何故でしょうか。
ーー先生、気に入らなかったら書き直します。


今回の話のメインは先のお二方のかっこよさを伝えることと、自分の中での(おそらくの)一般アークスのサポートパートナーへの考え方を書くことでした。
二人ともゲームのサポートパートナーに実に沿ってマスター至上主義ですが、まあ個性があります。
マンルーンはヒト(アークス)と対等に近くなろうと頑張るし、椿は丁寧ですが敬うアークスを選んでます(どっちが本当の良い子か一発で分かる)。
一見クールな美少女なマンルーンは外見な動き方は猫みたいですが実際は忠犬、犬みたいに簡単にしっぽを振る椿は実際は猫のしたたかさを持ってます(本当にどっちが良い子かよくわかる)。
マンルーンは人工生命体の視点でのヒトとは何か、椿は人工生命体(或いは道具)としての幸福が根本にあります。よく似た二人の全く異なる姿勢もまた書いていく上で大事にしたいですね。


Image:じんP 「ヘッドフォンアクター」


8/10 PCで修正

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