目を疑うべき話 1/3

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 またもや客人とのリンク物です。この、広い世界の片隅で。
 平凡で当たり障りない午前中 Possible world~ある休日~
 平凡で当たり障りない午後  Possible world~ある始まり~
                    Possible world~ある街角~
                    Possible world~ある逢瀬~   目を疑うべき話 1/3

                    Possible world~ある襲撃~   目を疑うべき話 2/3

                    Possible world~ある終わり~  目を疑うべき話 3/3


 時間軸的にはこんな感じになってますのでご注意を。




 その日は特別なことなど何もないはずだった。
「マスター、今日はいらっしゃらないんですかね?」
「どうかしら、夕方以降の時も多いわよ」
「なら、早めに行きましょうか」
「ええ」
 ただマスターである諷雫が来ておらず、サポートパートナーのマンルーンと椿の二人だけで買い出しに出ることになった。
「マスター、喜んでくれたら良いですね」
 黒髪の青年の言葉に、マンルーンは頷きながら自身の赤い帽子を撫でる。
 最近話題のケーキ屋、の向かいにあるかなり個性的な物を扱う雑貨屋。アークスと取引が盛んで様々な惑星の素材や植物――ただし≪アークス≫が安全と判断したもののみ――を加工した雑貨を取り扱う店だ。
 マンルーンの赤い帽子は諷雫からの贈り物で、マンルーンはいつもお返しを考えていた。が、何を贈れば良いのか皆目わからず、それを知った椿が今回店を紹介してくれたのである。
「結構穴場扱いされてますし、量産品はありませんから被ることもないですよ」
 最近諷雫のサポートパートナーになったばかりの椿だが、分析力が高いので諷雫の好みを既にある程度理解している。量産品を好まず、B級所か少し奇抜なデザインを好む彼女の嗜好に一番合う店という条件で選んだのだからマンルーンに異論はなかった。

 ただ、案内の為前を歩く神父服に近い椿を見て思うことはある。

 ――致命的にひょろい。

 椿は背が高いのに筋肉が充分でない。後衛でテクニック(法撃)を使用して戦うフォースとしては問題 ないかもしれないが、人を避ける内に段差につまずきそうになるのでマンルーンはいつも冷や冷やしてしまう。
 対してマンルーンの身体はスラリという単語が似合う。女性体だが身長は高く、長身の椿と結構良い勝負だ。しかし、周囲を歩く一般人に比べると二人は小さい。サポートパートナーとしてはやや旧式なので肢体バランス的には長身な二人も、新式の友人サポートの彼女より少し低くなっているのだ。
 途中その問題の彼女とそのマスターである少年を見かけたりしたが、特に椿が馬に蹴られたくなかったのでそのまま見送り、店には問題なくたどり着いた。

「ここです」

 案内役の椿も来るのは初めてだったらしく、店を確認して安堵していた。
 で、問題の買い物。これがやはりくせ者だった。
「これとか、どうかしら?」
「確かにマスターの住む地域では太鼓を髪に編み込むって言ってましたけど、さすがにそれは」
 どうもマンルーンの嗜好は彼女のマスターと諷雫の影響を多分に受けてしまっていたらしい。サポートは基本マスターの下で働くまでは一カ所で教育を受けるので当然だが、しかしやはり二人ともアークスとして――というよりこの宇宙を放浪する船団『オラクル』では異端な存在なので常識からやや外れている。
「ならこれ」
「・・・・・・斬新ですね」
 諷雫は間違いなく気に入るだろうが、体面というのも大事だ。そこを椿はよく理解して、マンルーンも椿のつっこみや助言に怒ることはなく、二人はどうにか妥協点を探すと いうのを繰り返した。つり上がったアイスグリーンの目のせいできつい印象だが、彼女は真面目なのである。
 店の中で真剣に話し合う二人に最後の方で店員だけでなく他の客も参戦し、長い戦いの末どうにか選んでラッピングしてもらった。
「ありがとう、今日は助かったわ」
「いえいえ」
「でも良かった、マスター・フーナだけじゃなくマスターの分も見つかって」
「・・・・・・ソウデスネ」
 少しだけ片言な言い方に首を傾げるが、椿は苦笑で濁した。
「それじゃ、部屋で待ってる『マーガレット』達のお土産を買って帰りましょうか」
「私はそれでかまわないけど、貴方は行きたい店はないの?」
「今日は特に」
「そう、じゃあ行きたい店が出来たら教えて。今日のお礼に一緒に行ったり荷物持ちぐらいするから」
「・・・・・・マンルーンさん、それは男性が言う台詞です」
「?」
 椿は外があまり得意でないし、大荷物を持ったら運動神経の悪さに拍車がかかるから言ったのだが、口元を押さえる椿を見るにどうも間違えてしまったらしい。
 取りあえず今日はお土産代負担でお礼の前金にしよう、と決めた。他のサポート(女子)からしたら、
「だからもうちょっと女の子らしくさぁ! つばっきーお菓子作っても食べれないけどお礼にプレゼント用意したりとかあるじゃん!!」
 と突っ込まれること請け合いである。
 そんな、色々あったが特別良い日でもない代わりに、悪い日でもないはずだっ た。
《緊急警報発令!》
 どこかからそんな通信が飛んでくるまでは。 



目を疑うべき話



 窓ガラスを覆うように映るのは、有翼系ダーカー達の群れ。今まで市街地に侵入したことのない種が縦横無尽に飛び回り、空すらも覆い尽くしている。
「せいっ!」
 その中の一匹―― 一羽の生えた黒い鯨のようなダーカーの三日月を模した鎌が降り降ろされるより先にマンルーンの蹴りが炸裂した。そのまま連撃を繰り返すが大したダメージもなく、赤い霧に紛れて移動される。
「ちっ」
 リューダソーサラーは見た目同様、浮遊中は遅い。ただ転移と中小の魔法陣が厄介だ。考えてる間に反撃なのか小さな赤い魔法陣がマンルーンに絡まる、すばやくステップで回避、赤い雷撃が地面から迸った。
「椿!」
 応答は射撃音。複数箇所にあったエマージェンシーガンが機関銃弾でリューダソーサラーを蜂の巣にしていく。
 羽がちぎれ、リューダソーサラーが地面に倒れる。鎌を支えに身体を起こすより先に、マンルーンの脚撃がひび割れていた腹の核を完全に砕いた。
「・・・・・・弱い」
 相手ではなく、自分が。それはエマージェンシーガンのスイッチから離れ、マンルーンに回復テクニックを発動している椿もいつも以上に痛感しているだろう。
《F4、エマージェンシーガンを確認。再装填まであと三十秒》
「――周囲には知らせました、一般人の反応はありませんし中心地へ向かいつつ解除パスワードを探しましょう」
 エマージェンシーガンは数秒しか保たないし扇状にしか銃弾を放てないが、操作するだけで良い分今はかなり有用だ。
《F4から移動開始、襲撃中心地へ移動します》
 今の、武器も振るえない状況では。


 アークスにはシップ内での武器の携帯が許可されている。しかし、それは使うことは愚か構えることすらできないように制限をかけられている。
 それは本来アークスシップ内での私闘禁止目的の為で、クエストを受けて移動用シップへ移動するゲートを潜れば解除されるし、突然の市街地襲撃の場合は一時的な解除パスが配布される。
「昔は配布じゃなく即解除だったらしいんですが、ねぇ」
 即座に解除しない、出来ない理由は単純明快。火事場泥棒によってアークス公式の武器ショップの品が『使用可能状態のまま』大量に出回った過去のせいだ。
 即解除を行えばアークスのみならず一般人すらも使用できるという問題が明るみになり、以後アークス側からの通信を受信して解除の為のパスワードを入力することで武器使用許可を得るという形式へと変更となったのだ。
 平時は使用すら出来ず、緊急時には即座に使用可能になる。だから今まで問題もなかった。
 そう、今までは。

《周囲へ連絡、こちらE2。未だ解除パスは分からず、アークスからの連絡も受信できない。パスが分かったらすぐ周囲通信で教えてくれ!》
《こちらD5、テクニックでどうにかしてるけど、やっぱり武器がないとフォトン伝導率が全然ダメ》
《F4のエマージェンシーガン確認、誘い込んだダーカーは何とか駆除》
《E1に移動。おい使った奴、再装填されてなかったぞ俺じゃなかったら流石に死んでたわボケェ!!》
「・・・・・・完全に混乱状態ね」
 マンルーンは隣のエリアを睨む。そこから響くのは、くるくると三半規管を狂わせるような奇妙な旋律。
 座すは有翼系ダーカーの上位種、ブリューリンガーダ。黒に金と赤の装飾、二つの輪を首にかけるペガサスといった風貌の雄々しくも美しいダーカー。二刀と二槍を操るそいつは、破壊活動に加わる以上に厄介なことをしてくれている。
 電波障害、それに伴うアークス本部との通信障害。周囲や個人間の通信は行えるが、本部との通信の一切が阻害されてしまっているのだ。

 結果、最初からこの場にいたアークス達は全員武器を使用できない状況下で、緊急事態の為に用意されていた設置型兵器でダーカーと戦闘を行っている。
《テレパイプはやっぱり無理だね、急いで本部か移動用シップに戻ってパスだけでも調べられたら良いのに》
《ダーカーの影響ですぐ使えなくなる道具ですから、しょうがないです》
《各エリアに散らばりつつ状況を把握、本部側から来た仲間が解除パスを飛ばしてくれるのを信じましょう》
《少し本部側に移動します、分かったらすぐ通信しますんで》
 戻ることは出来ず、進むことも出来ず。各エリア毎にある避難場所へ一般人を誘導しているが、被害がない訳がない。
「武器さえあれば、通信障害させる暇なんて与えないのに・・・・・・!」
 怒りに震える彼女の足下にあるのは、血痕。最初の襲撃場所にほど近いこの場所はアークスや他機関の誘導の暇なく、人も物も関係なく破壊され尽くしてしまった。

 ダーカーは破壊の具現。フォトンでしか倒せず、それ以外では倒しても因子レベルで残留し空間と物体を侵食し、ダーカー生命体やダーカー兵器へと変えてしまう。フォトンを操ることの出来ない一般人は同じ空間にいるだけで破壊衝動や体内への侵食で生命の危険に晒される。

 そんな中で、大量のダーカーに襲われてしまえばどうなるかなんて、わかりきったことで。
 簡単に訪れた終焉と放り出された人々。無力感と苛立ちと口惜しさがマンルーンの中で渦を巻く。真面目だが要領はよくなく、だからこそ歯がゆさに耐えられないのだ。
「抑えてください」
 そんな彼女をいなすように、椿は近くの店から拝借した――彼はきちんと代金を店に置いてきた、店主不在の売買を訴えるつもりだ――ヘッドフォンをマンルーンの耳に押し当てた。大きな赤い帽子にじゃまされ、耳当て部分しか押し当てれなかったが。
「性能は良いものなので、少しは聞き取りやすくなるはずです」
 アークスで使用される通信は基本骨伝導である。戦闘行為の多いアークスの気導音―周囲の空気から拾える音―を消さない為だが、そうするとどうしても音質の問題が出てくる。アークス本部からアークス個人への本来なら強い通信ならともかく、周囲からの通信音を拾う場合ヘッドフォンで気導音も拾う方が望ましいのだ。
「・・・・・・」
 冷静な対応に、苛立ちの火は容赦なく吹き消された。建物の向こうにいるブリューリンガーダへと向きかけた足先は元の位置へ戻り、火の粉が揺らめく先へと視線も戻る。
「!!」
 だから、気づいた。
 目の前の長身を突き飛ばす。身長の割に軽すぎる椿はあっさりと視界の中央から隅へ。見送ることなくマンルーンはヘッドフォンを首へかけ直し、駆ける。
 赤黒い光が、ダーカー因子を纏った槍が火の粉の向こうから突き出される。紙一重で避け、その槍をそのまま握り、投げる。
『!!』
 鳥人間―或いは金細工の装飾を纏った黒い天使―の悲鳴が耳につく、だがそれは問題ではない。問題はこのダーカーの種類――ソルダ『系』の特徴。
 倒れた椿のいる――自身もいた場所から見て死角となる道の更に先から、壁に叩きつけた鳥人間と同種と類似種が合計三体。
 ソルダ系ダーカーは大剣と槍、双剣などを扱い群れで行動する。それぞれの間合いを活かし連携を密にするアークスに近い戦法を取るダーカー達だ。
《E7、ダーカーに逃げられた!》
 今更な言の葉、けれど文句など言えるはずもなく。
 まず大剣、これは下がって避ける。槍撃、これは間があったので双剣を意識して横へ。伸びるように突き進む槍が双剣の行動を邪魔し、次手が遅れる。
 マンルーンは慢心こそしていなかったが油断していた。群れの方へ意識を集中させすぎたとも言える。
《危ない!!》
 青年の声にえ、と呟く声は通信機に拾われた。真っ赤な円陣の雷鳴より先に。
 赤い雷火が弾け、絡む付き、褐色の肌に容赦なく噛みついてきた。
「っ!!」
 痛みに耐えつつソルダ系の後ろを見れば、先刻も出会ったリューダソーサラー。しまった、逃げたダーカーはソルダ 系ではなくあいつだったのか。
 防具は機能しているはずだが、直撃すぎた。手足と脇腹に激痛、血の味がする唾を無理矢理飲み込む。
 時間にして数秒にも満たないのに包囲網が完成される。距離を詰めたのが完全に仇になった。
《マンルーンさん!》
 ヘッドフォンから椿の声、けれどどこか現実味が湧かない。最悪の状況に脳が麻痺してる。
 戦闘本能は迎撃を命じる、しかし武器がない。痛覚を無視したとしても力は自然と弱まってしまう。加えて武器がない。
『~~♪』

 淀む思考を浄化するように、柔らかな音の群れが小さな旋律を生み出した。

 ――え?

 停止した思考が正常に動き出す。その命令のままに肩を見ればかけていたトートバックの紐が切れ、中にいれていた諷雫への贈り物が地面に転がっていた。

 マンルーンとダーカーの間に煌めきが割って入り、威力のなくとも弱点である光属性に敵の動きに躊躇いが生まれる。
 けれどマンルーンの視線は、小さなアンティークのオルゴールに注がれたまま。
 曲のタイトルも歌い手もよく知らなかったが、それでも椿と一緒に聴いた瞬間購入を決めていた。
 明るいが穏やかな旋律はこの場に不似合いすぎて、無性に愛おしさを覚えた。
『マンルーンちゃん!』
 会いたい、会いたい。その想いはトートバッグの中にあるもう一つの贈り物を思い出してさらに加速する。
 オルゴールと一緒に購入した水晶細工、クォーツドラゴンの鱗を原材料にした花を模したそれもまた一目見て購入を決めた物だった。
 マンルーンの本来のマスターははっきり言って子どもで気分屋で知的好奇心旺盛だが、一番好きなのは植物だ。
『イツキちゃん、芸術ダメだからきっとこれが花ってわかんない』
 でもそんなことを言いながら、きっと気に入ってくれる。いや、渡すだけになってもマンルーンは構わない。
 光槍が尽き、大剣が三度迫る。オルゴールを拾いつつ横へ避ければ今度は双剣、槍は力を貯めて期を待っている。マンルーンが最初に壁に叩きつけた槍使いも起き上がって構えに入った。
 今ここで死んでも、椿が生き残ればこれらは二人の手に渡る。でも、その時二人は彼女が願ったような喜びを示すだろうか。――ありえない、そんな二人だったらマンルーンはそもそも贈り物をしようなんて考えない。
 そんなマンルーンを肯定するように、ダーカーの間を縫うように一枚のカードが閃いた。テクニック行使者の使う武器『タリス』の一種だ。

 緑の光がカードを中心に溢れ出し、マンルーンの傷を癒していく。
《マンルーンさん、パスは――!!》
 ――贈ることも出来ず死ぬなんてイヤだ!!
 マンルーンの周囲の空気が斬り裂かれた。



 燐光のような青い光。
 少女の構える武器が解き放ったのは、規格外のフォトン量が具現化した巨大剣。
 横へ、横へ、最後に掲げたそれは壊れたビルの代わりのようにそびえ立ち――。
 斬!!
 鳥人間達を完全に滅した。
《解除パス判明! 武器解放したらすぐに周囲へ広げて下さい!!》
《よっしゃ!》
《 これでようやく暴れられますね》
 広がる通信、夕闇に灯り始めるフォトンの輝き。
《これよりF7にいる電波障害の原因、ブリューリンガーダの掃討に向かいます。近くの方々はご助力下さい!》
 骨導音と気導音どちらからも響くことで普段通りな自分の声に、マンルーンは生きていることを実感した。
 生きている、その実感は心臓を打ち血に伝わり、身体を鼓舞する。タリスを構えていた椿に頷き、武器を弓へと変えて走り出す。
 生きているとはどういうことか、生きていないとはどういうことか。危機を脱した彼女は考えない。
 もう少し先の未来で直面化することも知らぬまま、彼女はただ駆ける。
 疑うことなくまっすぐに。ヘッドフォンから聞こえる情報で状況を分析しながらひた走る。
【必死に走り回ってくれたまえ、僕の掌の上で】
 ――彼女が知らぬ誰かの脚本通りに。






パソコン壊れたって本命のポメラちゃんがいるもんね、ししてました。おニューなパソコンは引っ越しまでお預けです。
というわけで近々引っ越します。隣町くらいへ。
荷物整理は始まっており、売る本持ってく本の選別がなかなか大変です。


で、今回の話はサポート二人が主体となる話です。
主人公(プレイヤー)の助けとなる小人、サポートパートナー。この存在はマグ同様自分的には色々と考えずにはいられないおもしろい存在。
二人にはそれぞれきちんとキャラとしての役割(物語上でのキーワード)もありますので、ふかーく掘り下げる予定です。
そして今回の話、分かる人は分かるかもしれないですが予行練習です。
イエス、予行練習。
客人の十八番、唄歌いシリーズをつかった予行練習。
――あんなアニメ見たら書かないでか!!
――「俺達の戦いはこれからだ!」エンドしたら絶対に不自然じゃない過去捏造と設定増加するからな!!
――ていうか世界観広げる為に既に色々ネタの準備してるからな、考察好き歌詞全部活用するからな!!
――そうさ、そのエンドが怖くて仕方ないんだよ幸福理論から特にな!!
心の叫びはぽーい、と投げます。
そんな感じで今回の話は個人的にイメージしている曲があります。まだまだ軌道に乗ってない(何せ主体となる諷雫ともう一体の基本となる話は書き切れてない)状態ですが、楽しんでいただけるなら幸いです。



Image:じんP 「ヘッドフォンアクター」



8/10 PCで修正


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