月の爆撃機

手がかりになるのは薄い月明かり


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「こんなとこでメシ食うなんてめずらしいじゃないか?」




会社の屋上でを昼食を食べていた上田に、同期入社で、若手一の出世頭と評判の岩村拓海が後ろから声を掛けてきた。

ボーっとしたいから、わざわざ屋上まで足を運んだのによりによって岩村と会うなんて、やっぱり外で食えば良かったな。

上田は内心そんなことを思いながら、岩村に隣のスペースを勧めた。




「今日は昼から試飲会があるんだよ。岩村こそめずらしいじゃないか?いつも一緒に食べてる女の子はどうしたんだよ?」




「俺だってたまには1人でのんびりしたいさ。今日から新しいマーケティング会社が来ることになってたな。」




「ようやくまともに仕事できるよ。今までは課長が私腹を肥やすのに便利なだけのバカ会社と組んでやらされてたからな。大変だったんだぜ、課長にばれないように余所探してさ、アポとって接待して、向こうからオファーを掛けてきたように仕組むの。」




「よくやるよなお前も。下手すりゃクビだぜ。」




「俺はお前みたいにスマートに仕事できないからな。」




「彼女とはどうなんだよ?明美ちゃんだっけ、ちゃんと仲良くやってるのか?」




「どこも連れてってくれないって言って嘆いてるよ。」




「上田らしいな。大事にしないとそのうち捨てられるぞ。そーいえばさ、今日やる試飲会の商品って女性をターゲットにしてんだろ?可愛い子来るかもしれないから、ちゃんと激励に行ってやるからな。」





「邪魔しに来るなよ。最初が肝心なんだよ。余計なこと考えてる暇もこっちには無いんだから。じゃあそろそろ俺は行くわ。」





口を開きかけた岩村を遮り、上田は非常階段の方へと足を向けた。




なぜかはわからないが岩村は俺によく絡んでくる。上司の覚えも良くて、俺よりも他に話して面白い奴は沢山いるはずなのに。




とにかく、貴重な昼休みをある意味で台無しにされてしまったことがこれからの試飲会に影響されなければいいが。上田は欠伸をかみ殺しながら、脳を仕事モードにスイッチするべく「よし」と呟いて階段を急ぎ足で降りていった。








5階第2会議室のドアを開けると、今回依頼したコンサルティング会社の社員と連れてこられた各年齢層の女性達が、余所余所しく席に腰を降ろし、試飲会の開始を今か今かと待っていた。




今回開発された商品は女性向けのカクテル飲料で、今まで「BARではカクテルを頼むけど、市販されているカクテル飲料は不味くて飲まない。」という声に耳を傾けて作られた商品だ。




今回の企画を持ち出したのは上田で、普段ならもっと責任の軽い仕事を任される上田が試飲会の進行役を任されていたのは、

万が一今回の開発に失敗した場合、企画を持ち出した上田にも責任を及ばせようと幹部が考えた上での人事であった。

だからこそ上田は今までにないモチベーションを持って仕事をこなし、クビを覚悟の上でコンサルティング会社を変えるまでしてきたのであった。それは決して責任をとるのが嫌なわけではなく、上田自信も気づいていない、初めて仕事に対して芽生え始めたプライドなのであった。




「はじめまして。今回の試飲会で進行を務めさせていただきます上田と申します。本日は皆様に弊社の新商品を御試飲頂き、自由な意見を出していただけたらと思います。」




腰をしっかり曲げて挨拶をして、コンサルティング会社の女性社員を見た瞬間、この目を疑った。




来訪者が社内に入る際に付けるバッチをグレーのスーツの左胸に付け、上品なブラウンに染めた髪を後ろに束ねて凛とした立ち姿でこちらを見ているその女性社員は、大学時代に同じサークルだった藤井菜穂だったのだ。




続く











































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上田優一は1時間ほど前から睨み合っていたパソコンの画面から顔を逸らし、缶ビールのプルを力無く引いた。

今朝のニュースでは、連日続いた猛暑も少しずつ穏やかになっていくと言っていたものの、すっかり怠けてしまった心と体には以前として厳しすぎる暑さだった。

くだらないテレビ番組、街の喧騒と聞こえてくる子供達の声、有り余る時間。

「なんか面白くねぇな。」

そんなことを呟いてみるが今の自分が一番つまらないとわかっている分、より深い悲しみに襲われそうになり、開けたばかりのビールを強引に流し込み、暑さと気だるさを誤魔化そうとした。

上田優一は、地元高校を卒業し、北海道の大学を出て、地元大手飲料水メーカーに就職という、どこにでもいる普通を愛する男だった。

唯一の趣味といえば、学生時代に覚えた天体観測だが、優一の実家がある名古屋では、星への思いも排気ガスで汚されてしまっていた。

「ねぇ、せっかくの休みなんだから、どっか連れて行ってよ。連休には星を見せに連れて行ってくれるって言ってたじゃん。」

「うるせぇな。車貸してやるから1人で行ってこいよ。」




「だって私、オートマしか乗れないもん。」




「もう俺ビール飲んじゃったよ。」




「バスでいいよ。散歩しながら行けばきっと気持ちいいよ。」




「だから1人で行って来いって。出かける気しないんだよ。」




「最近いっつもそうじゃん、ずっと家にいるだけで優一も完全にオヤジだね。」




明美は皮肉交じりに優一の腹をキックする振りを見せながら、冷蔵庫に冷やしておいた桃ゼリーを取り出し、優一に背を向け、嬉しそうに食べ始めた。




明美とは、半年前のクラス会で席が隣になり、意気投合し、その勢いで付き合うことになった。




何にでも前向きで、チャーミングという言葉がピッタリな明美と付き合うようになって、優一は元気をもらっていると思うと同時に、その元気さが時に疎ましくなることもあると思いながら、今年流行の淡いピンク色のブラウスを見事に着こした明美の後ろ姿をぼんやり眺めていた。




続く。

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