とある元気なIT系社長ブログを読んでいました。社員数は10人ほどで平均年齢が二十代の若い会社。生存が困難なこの業界で着実に売り上げと信頼を上げていて、社長はじめ社員のレベルは相当高いものだと見受けられます。社内の雰囲気も良く、知名度が上がれば入社希望者が殺到するのではないでしょうか。
で、社長さんが色々仕事や会社に対する思いをつづっておられるのです。内容自体はそれほど含蓄のあるものではなく、どこかで聞いたことのあるフレーズで終始していて、社会経験のある人なら「そうだよね」とうなずける程度のものです。私自身も読んでいて心に何か届いたわけではありません。経営が良好な社長さんなら誰もが口にするような内容です。肯定的な見方をすれば、上手くいっている経営者は基本的にみんな同じ思考で働いているということなのね、という印象。今時の経営本や成功本、自己啓発本に書いているような内容です。
私が引っかかったのは、次のようなエピソード。
若い社員から「早く帰るのは気が引ける」という意見があったそうです。これは、よくある問題。忙しそうな上司や先輩を後にするのはとても気まずい。何だか、自分だけが浮いているようで物凄く不安になるものです。
社長はどう答えたか?
ありがたい意見です、と社員を称え、早く帰っても気が引かないようにすればいい、とまず結論付けます。
仕事の処理が早く優秀である証なのだから、早く帰ることは良いことなのだ、認識してもらったということだそうです。
早く帰ることが仕事を先送りしているからなのか、残業がやり直しの連続だからか、仕事量が多すぎるのか、納期間近だからなのか、そういうのは業績に現れるから。
正論です。出来る社長さんってのは、なんじゃこりゃ? と拍子抜けするほど当たり前のことしか言わない。でも、なんて言うんですかね? 私には全く響かないのです。いかにも、そこらの優秀な経営者の名言集を丸暗記しただけの発想で、会社固有の本質ってのがさっぱり分からない。
例えば、早く帰る理由が、仕事がないから、という場合、どう対処すれば良いのでしょう?
わずか二カ月の嫌な思い出しかない不動産営業マン時代。私も暇でした。お客がいないから。昼間は何とか凌げます。内見とか下見と称して、新旧の物件をめぐりドライブしてりゃ時間が過ぎますから。会社に戻ってからが辛い。本当にやることがないのですなあ。ひたすら地図を開き物件の場所を暗記してもまだ誰も帰らない。レインズやらで検索しても限界がある。
テレアポするも、既にリスト客にはみんな電話しまくった。四週目行くか。迷惑がられて終わり。どうすりゃいいのかね?
せめて、見込み客が二組もあれば、週末の物件案内に備えて、連絡を取りあったり、資料を作ったり、社長と一緒にどういう風にどの物件回ればいいかとか相談できるし、そういう作業をしているとあっという間に時間は過ぎる。でも、当時の私には全く関係のないこと。
業績に現れますって仰いますけど、言われなくても分かっています。業績はゼロです。毎日ガソリン代を街に撒き散らしているだけです。毎日出勤しているのに貧乏になる一方。真剣、ニューヨーク市場が開く前に帰って、FXがやりたかった。株がやりたくて仕方なかった。どう考えても、その方が時間を有効に利用しているのではないかしらん? と当時の私は本気で考えていたのです。
こうやって振り返ると、なんてダメな社員だろうとあきれ溜息をつかれることでしょう。その通り、私もそう思う。でもね、私だってね、ストレスで胃に穴が開くくらいいっぱい仕事がしたかったですよ。血吐く覚悟もありましたよ。吐きようがないじゃーん! というわけで、私は、刻一刻と価格が動くたび見舞われる胃の痛みを求めてトレーダーに帰りついたのでした。
で、トレードでそこそこ稼ぎ、資力を回復すると、不思議なことに忙しくなったのでした。仕事もプライベートも。
だから、件の若い社員さんもね、処理が早いから早く帰るのではなくて、やることが無いから早く帰るんじゃないかなあ? IT業界の内部事情はよく分からないけど。
「やることが無いから早く帰るんです。でも、気が引けるんです」
この方がリアルで切実で多くの社員さんが悩んでいることだと思います。社長さんには、このことについて語ってもらいたかった。多分、社長本人の口からの言葉が出ると思います。あなたに能力がないからです、と冷たくあしらう可能性大ですが。
この悩みについては不動産会社の同僚も同じことを言っていました。
「客がいなくなって、やることが無いことが一番辛い」
あの頃は、マーケティング本や集客本をよんで作り上げたチラシを、団地や賃貸系のマンションにポスティングしていたなあ。反響は薄かったけど、連絡が来た時は血が逆流するくらい嬉しかった。やった、追客できるって。


