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2009-11-07 19:03:46

11

テーマ:星ひとしずく

一真は頷いた。

「あんたは多分、ニュース専門番組とかそういうのが偉いと思ってんでしょ。それは違うんだよ。仕事はどれでも仕事。あたしだったら時間が短い仕事ほど張り切っちゃうけどな」

「どうしてですか」

「テレビってのはね、誰が観てるかわかんないんだよ?企業案内の番組っていうのは、その日に紹介されるその企業は、たった5分の番組でも、その企業にしたら命懸けてんだよ?で、あんたがその命を預かってる。これは凄い事なんだよ」

 一真はしばらくしてから、そして感動した様に深く頷いた。

「命を預かってる。そうか、そうですよね」

「そうなんだよ、若者よ」

「僕、今まで気がつきませんでした」

「良かった」

 一真は紘子の手を強く握り締めた。

「紘子さんも頑張って下さいねっ」

「あんたもねっ」

「はいっ」

 二人は同時に深く頷き合った。




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2009-07-29 19:43:07

10

テーマ:星ひとしずく

「ところで、あんたのニュースいつ頃?」


一真は頭をかいた。


「同期の奴はどんどん決まってるみたいなんですけど…」


「今は何の仕事してんの?」


「早朝番組のナレーションなんですけど」


 紘子は姿勢を正した。


「凄いじゃない」


「え?だって企業案内の5分番組のナレーションですよ?」


「あのね、それって凄い事なんだよ?」


「そうなんですか?」


 紘子は頭を抱えた。


「新米はこれだから…あのね、一つの番組を任されてるんだよ?」

「はい」


「それはね、あんたにならこの番組を任せてもいい、って事、つまり、その番組の分、見込まれてるって事なんだよ?」




2009-07-17 18:54:01

9

テーマ:星ひとしずく

「どうしてですか」


「貴方は悲しい時には一緒に泣いてくれる、楽しい時には一緒にわらってくれる。多分そんな気がするよ。それが一番大事な事だから」


一真は頭をかいた。


「あたしの好きな歌手なんだけど、今のだんなさんが凄いロマンチックな人でね、その歌手の女の人が朝スタジオに行くと、いつもピアノの上に花が一輪置いてあったんだって。カッコイイよね」


「紘子さんは何の花が好きなんですか」


「あたし?すずらんかな」


「すずらん?でもあれって北海道にしか咲かないんですよね」


「そうなんだよね、東京でも売ってるけどすぐに枯れちゃうんだよね」


「やっぱり都会で咲き続けるのは難しいんでしょうか」


「だろうね」


二人は軽く息をついた。紘子は一真の言葉を繰り返した。


「都会で咲き続けるのは難しいか・・・まるであたしの事みたいだね」


「そんな事ないですよ」




2009-07-16 18:28:25

8

テーマ:星ひとしずく

 数日後、紘子はテレビ局のあちこちを回っていた。知り合いをつかまえては何とかプレゼンの方向を探り出そうとするが上手く行かない。

 そんな紘子を廊下で一真が見つける。声をかけようとしたが紘子はあっと言う間に行ってしまった。

屋上に上がる。紘子はいつも通り給水塔の横に座っていた。


「ここだったんですか」


 顔を上げると一真の顔。

「まーた地べたに座って」


「どうだっていいのよ、それにここ結構綺麗なのよ」


 一真も腰を下ろした。


「えーと、この間のパンのお兄ちゃんだっけ?」


「宮森です。宮森一真です」


「そう」


「貴女は?」


「名刺あげるよ」


紘子は名刺入れから一真に自分の名刺を一枚渡した。


「江藤紘子さんって言うんですか。へー、紘子ってこういう字を書くんだ。珍しいですね」


「そう?そうか、普通は博士の『博子』か、関口宏の『宏子』だもんね」


「由来は何なんですか?」


「んー、何だっけか、確か『太い綱』って意味なんだよ」


「『綱』ですか」


「うん」


「何だか素敵な名前ですね」


「そう?あんたの由来は?」


「『真実一路』から取ったらしいんです」


「そっちこそ素敵な名前だよ、いいねー」


一真は微笑んだ。紘子の言い方には裏腹が無い。紘子も微笑んだ。一真は何と優しいしゃべり方をするのだろう。


「一真君のお嫁さんになる人は幸せだね」




2009-07-15 22:22:08

7

テーマ:星ひとしずく

 それから数日後、紘子はあちこちの会社を回っていた。そして一つの会社のドアを開けた。


「こんにちはー」


「よお」


なじみの笹野が手を上げた。


「出来てるよ、デモのポスター」


「うわー、嬉しい、どうもありがとうございます」


 紘子はとびきりの笑顔を見せた。そんな紘子の笑顔を正人は吹き抜けの二階の隅から見つけた。階段を降りる。


「紘子ちゃん、紹介しとくよ。こいつ二条正人。フリーのライターだったんだけど今度からうちで手伝ってくれる事になったんだ」


正人は右手を差し出した。


「よろしく」


「よろしくお願いします。アクター広告の江藤です」


紘子はどことなしに正人に好感を抱いていた。




2009-07-15 10:47:08

6

テーマ:星ひとしずく

 その夜、紘子は部屋に戻るとベッドに寝転んだ。没になった企画書を眺める。


「まだまだ甘いか・・・」


紘子は急に立ち上がった。そしてキャビネットの中からファイルを一冊取り出した。


「よしっ、あの狸じじいに一発食らわしてやるかっ」


紘子は髪を後ろに束ね、勢いよくペンを走らせた。



 その頃一真はアナウンス部の研修室にいた。一人で基礎からやり直してみる。腹筋を押さえ、喉から腹から声を出してみる。そこの室長の高橋が入って来た。

「何だ、何してる」


「はいっ、あの、練習を・・・」


 高橋は頷いた。一真にだけまだ担当番組がついてない事を思い出したのだ。

「名前は何と言ったかな」


「宮森です」


「そうか。あのな、宮森。原稿読む時にただ読んでるだけじゃ駄目なんだよ。何が一番大切なのかわかるか」


「・・・僕は、」


「いつかわかる。答えはそこにあるんだ」


高橋はそれだけ言うと部屋を出て行った。一真は息をついた。



2009-07-14 15:53:28

5

テーマ:星ひとしずく

 紘子はパンを食べると「ごちそうさま」と言って煙草を一本吸った。


「一本あげるよ」


「どうも」


ふたりは座りながら煙草を吸った。


「落ち込んでたの?」


「どうしてですか」


「顔に書いてあるから」


 一真は頭を掻いた。


「あたしもなんだけどね」


「そうなんですか?」


「仕事が没になっちゃってね。才能無いのかなあ」


「何の分野のお仕事なんですか、広告」


「CM作ってんのよ。企画考えてスポンサーに出す訳」


「大変そうですね」


「大変なのよ。あんたは何でクサッてたの?」


「僕は・・・同期の奴らは皆起用されて行くのに、僕だけ足踏みしてる様な感じで」


「そうなんだ」


「世の中、上手く行きませんね」


「だねー」


二人は空を見上げた。東京の空。


「狭いね。台詞通りに」


「そうですね」


「狭くて、厳しくて・・・上等だね」


 一真は振り向いた。紘子の言葉を抱き締める。上等。そうだな、それ位に思わないとな。上等。上等・・・


「さ、行かなきゃ」


 紘子は立ち上がった。


「パンありがと、じゃあね」


 左のえくぼ。一真も微笑んで手を上げた。紘子は後姿のまま右手を振って消えて行った。爽やかな風。上等な女だ。紘子は確かに。一真は立ち上がった。




2009-07-14 00:48:25

4

テーマ:星ひとしずく

そんな一真をよそに紘子はそこから華麗にひらりと飛び降りた。一真はおろおろしていた。


「お腹減ったなあ・・・」


 紘子は腹をさすった。午前中世話になったお礼参りに周り、何も食べずそこで眠ってしまったのである。


「あの、」


「何」


「パン、食べます?」


紘子は一真の持っているコンビニの袋をチラリを見た。


「食べさし?」


「いいえ、二つ買ったんですけど一つしか食べなかったから」


「あんたがお腹空くでしょ」


「いいんです。食欲無いから。昼寝のお邪魔したお詫びに」


 紘子は何だか急に気恥ずかしくなった。昼寝をしていたのが男の一真だったのならいいが、この場合は逆である。紘子は精一杯笑顔を作った。


「じゃあ、いただこうかなっ」


 紘子の笑顔。左の頬のえくぼ。一真は微笑んだ。紘子の笑顔はそれほど愛らしかったのだ。二人は元の場所に座り直した。紘子はパンを頬張った。


「あんた、ここの社員?」


「ええ、まあ」


「何やってる人?」


「アナウンサーです・・・」


「え?」


 紘子は一真の顔をまじまじと見た。


「何時のニュース?あたししょっちゅうテレビ見てるけど見た事無いわよ」


「・・・まだ入ったばかりで、番組出てないんです」


「ふうん」


「貴女は?」


「え?」


「何課の方ですか?」


「ああ、あたしはここの社員じゃないのよ。出入りの広告屋」


「そうなんですか」




2009-07-13 14:40:23

3

テーマ:星ひとしずく

 昼。一真は社員食堂には寄らず、近くのコンビニでパンとコーヒーを買い、屋上に上がった。屋上には何人もの人間がいたが数はまばらである。

 初秋の風が心地良い。一真は少し微笑んだ。社屋の屋上に上がるのは初めてである。屋上にはいくつかのベンチがあったが既にうまっている。一真は辺りを見回した。給水塔の横に少しスペースがある。一真はそこに腰を下ろした。

 パンを食べながらコーヒーを飲む。

見晴らしのいい屋上からは新宿が見える。一真はやるせなさを感じていた。

 いい大学をいい成績で卒業した所で、社会ではそんな物は役に立たない。要は実力がものを言うのだ。研修期間も終わったというのに、一つの担当番組も決まらないなど・・・

 一真はふと発声練習をしてみようと思い立ち上がった。


「あえいおう、あえいお・・・」


 その瞬間、どこかから声が飛んで来た。


「うるさいっ!」


 一真はその声の主を探した。見上げると給水塔の中階段の踊り場の所で、紘子が寝ていたのである。紘子はのそっと起き上がった。


「うるさいわね、あんた、人が昼寝してんのに」


「すいません」


 一真は頭を書きながら頭を下げた。だがおかしな事に気がついた。紘子が寝ている所は結構な高さである。


「あの、」


「何っ」


紘子は不機嫌なまま答えた。


「どうやって上がったんですか」


「どこへ」


「そこへ」


紘子は自分が寝ている場所を見渡した。


「ああここ?裏に階段があんのよ」


「上がっていいんですか?」


「さあ」


「さあって・・・」




2009-07-12 18:51:35

2

テーマ:星ひとしずく

 その頃、一真は勤めるテレビ局のアナウンス部にいた。

今年の春に入社し、何ヶ月かの研修期間を置いて、同期達はみな次々と担当番組が決まって行くのに、一真だけはまだ、画面に顔が映らない『ナレーション』という仕事ばかりであった。一真は息をついた。


「おはようございまーす」


 紘子はテレビ局の会議室のドアを開けた。紘子が所属する上司の浜崎が椅子に座ったまま手を上げた。他には誰もいない。


「あれ?」


紘子は慌てて腕時計を見た。


「時間合ってますよね」


浜崎は煙草をくわえながら答えた。


「無くなったんだよ、プレゼン」


「えー」


紘子は手に持っていた書類かばんを落とした。


「私、何か不手際不手際、」


「あわわするな。よそに持ってかれたんだよ。中にコネがある奴がいてな。最初から殆ど決まってたらしい」


「そんなあ・・・」


「いいんだよ、気づかなかった俺も馬鹿だな、今回は」


「だってあんなに接待したのに」


「江藤」


浜崎は立ち上がった。


「お前の企画、いいんだけどな、やっぱりナメられるんだよ」


紘子は耳を疑った。


「え、それは私が女だからですか」


「そうじゃない、そんな事を言ってるから駄目なんだよ。言ってる意味、分かるか」


紘子は姿勢を正した。


「確かになお前が女だからというのもある。だけどな俺や皆が言いたいのはそれだけじゃない。お前の企画には全く先が見えん。個性が無いんだ。確かに洒落てる雰囲気は読み取れる。だがそこまでだ。俺には今までの誰かのCMを真似てるとしか思えんのだよ」


紘子は唇を噛み締めた。


「きつい事言うがな、どれもこれもお前の為だ。こんな事言うのも中々大変なんだぞ。自分自身を責めてる様でな。今日は昼までに世話になった人に礼を言って来い。その後はもういいから。明日の朝、事務所で会おう」


 紘子は深く頭を下げたままでいた。浜崎は何とも言えない様な顔をして出て行った。しかしその瞳の中には紘子に対する親愛の情が込められていた。紘子にもそれはよくわかっていた。だから言葉は返さなかった。肩までの髪が下に垂れる。紘子は顔を上げた。




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