2004年12月13日

純愛小説、村山由佳の「天使の卵」に感銘を受け小説「永遠」

テーマ:純愛小説

作者より

 「見て頂きありがとうございます!毎日10人前後の訪問者がいます。しかし、感想のメールは来ません。同じような志を目指している人などアドバイスや意見交換をしませんか?


 僕はこの作品が初作品であり、今まで5編書いて三つ賞を取っています。どうか全文を読まなくても構いませんのでメールを下さると大変嬉しいのです。アドレスは一番最後に載っているので。恐縮ですがお返事よろしくお願いします。」


第6回小説すばる新人賞。村山由佳「天使の卵」

 追伸、何名かメールで感想をくれています。しかし、数が少ないのが現状です。どうか感想や情報交換しませんか?
 遅れましたが、八月に最後まで僕の小説を読み感想を送ってくれた人がいました。しかも絶賛してくれたのです。








                「永遠」



第一章







最も優れた人々は、苦悩を突き抜けて歓喜を獲得する。

ベートーベン



今日は何食べようか?

夏休みに入り毎日家で昼食を取ってから,わざわざ外まで買いに行くことが、僕の楽しみになった。大学がある時はたいてい友人と、学食や外に食べに出かけていたので、今は妙にさびしい気がする。それで、週に何回か母に昼ご飯を作ってもらわず、近くの弁当屋に買いに行くことにしている。それで、少しでも自分なりに楽しませるようにしている。

弁当屋へに向かうため、夏の厳しい日差しを浴び自転車に乗っている。

「いらっしゃいませ」

店には、他に客はいなく随分静かだった。

その控えめな声は、小さな店の中に響き渡った。

一人の女の店員がカウンターの方に近づいて来る。そのたたずまいは、二十代後半から三十代前半のようで、外見はくすみ、エプロンも何日も仕事しごとしている様に、所々にシミがはいっててた。頬には、汗の滴がしたたれている。決して、綺麗な女性とは言えなかった。だが、何か一生懸命にこの仕事を頑張っているんだと言うような雰囲気が見受けられた。僕には、この姿がとても、新鮮に思えた。

「ご注文は何いたしますか?」

そっと 柔らかな声で聞いてくる。

「うーんと、何にしようかな」

何を頼んで言いか迷ってしまった。だいぶ時間が経っても、言葉を発さず、その女の店員は落ち着いた感じで僕を見つめ、ずっと待ってくれている。

「…唐揚げ弁当一つ」

ようやくの思いで決めると、店員はわずかながら微笑んだ。

「はい、わかりました。少々待ってて下さいね、すぐにお持ちしますから」

と言うと、すぐにキッチンの方へ消えていってしまった。

一人取り残されて、ある思いが涌いてくる。

別に客から見れば、ただのなんともない店員なんだろう。しかし僕は違っていた。わからないが、あの様子に引かれる。弁当屋でありながら、あのひた向きに働く姿、それにじっと人を待つ姿勢が嬉しい。

誰もが目を見張るような美しさはなかった、スタイルも、ごく普通だ。しかし、僕はその表面的なものではなく、その内奥にある、別の何かを垣間見た気がしたのだった。



今日も夏の熱い日差しが、続いていた。僕は、都内の、世間的には有名で誰もが憧れている大学に通う二年生だ。あの大学に通うことができるのは、高校時代の猛勉強と、両親の支援があったからだろうと思う。そのおかげで、自分が一番行きたかった所に行くことができるのは、何よりも嬉しい。

しかし大学生活を二年も続けていると、その純真な気持ちというのも、薄れていくものだ。最近では、何も考えることがなく、ただ何となく毎日を過ごすことが多くなってきた。高校時代のように、ガムシャラに自分の夢を追い、後のことなど考えられない程、熱中することはなくなっていた。

そんなことを独り、ぼんやりと考えふけっていた。いかにも僕は暇なのだ。暇になると普段考えもしないことを考えるてしまう癖が以前からあるのだ。

こんな時に はっとする音がした。

「ピピィ、ピピィ、ピピィ、、」

「はい?」

大学の友人、武だった。実に良いタイミングで掛かってくるものだ。こんな暇な時にくる電話は非常に嬉しい。武に感謝さえしたくなる。

「明日合コンいこうぜ!」

何を言い出すかと思えば、この前から言っていた、N女大との合コンのことだった。

「やっと決まったのか?いくよ!」と言うと

「遅くなっちゃったけど、ようやく決まったよ。お嬢だぜ、いいだろ?」と得意げに言う。武は、いつもこんな調子で、気さくでいい奴だ。それでいて温厚な人柄でもあった。だから大学では、彼が歩くと、どこか知らずとも、次々に声が掛けられる人気者だった。僕にとっても、尊敬できる大切な友人である。

そんな彼の誘いでもあったから断ることはない。それがいつもの、僕らの行事みたいなもので、今まで何回となく合コンに行っていた。



新宿駅西口で僕らは、合コンの相手を待っていた。午後七時だというのに、辺りは依然として明るい。それに会社帰りのサラリーマンやら買い物帰りの人が行き交い会って、まるで人々がサバンナのヌーの群れの様だった。そのヌーの群れの中からお淑やかであろう女性達を探している。

しかし待ち合わせ時間になってもいっこうに現れる気配がない。みな焦りと苛立ちを出していた。

「初対面の人と会う時に普通遅れるか?」と充が少し怒りながら言う。

「しょうがねーよ。どうせ対したこと、ないんだよ」と今度は、憲二が投遣りに言う。

今日は自分を含めて四人来ている。この合コンを実現させてくれた武と更に充と憲二だ。この四人は大学ではいつも、共に行動し遊ぶ中の良い友人だ。

僕も遅れてくる上に連絡もしてこない奴など、いくらお嬢様学校の連中でも許せない。大学生でも、一般的なモラルは持つのは当然のことだと思う。少なくとも自分はそう意識し行動したい。だからいっそうこのまま待たずに帰ろうかと本気で思っていた。

すると 、一人の薄い眼鏡を掛けたまじめそうな女性が

「ごめんなさい、遅れました。本当にごめんなさい」と頭を下げて謝ってきた。僕らは、ビックリした。急に謝られたことではなく、その姿に。みんな同時に、「エッ、こんなのと合コンするのか」と思ったにちがいない。引きつる顔が、ものがたっていた。

それをみると次に僕は、異形の光景を見た。美しい・・・。オレンジのニットを着、夏らしい鮮やかなオフホワイトのタイトスカートをはいているすらっとした女性が、例のまじめそうな女性のすぐ後ろに立っていたのだ。すぐにその女性が同じく合コンするメンバーだと分かった。胸が高鳴り狼狽する。心臓があまりの鼓動で激しく揺れるので吐きそうになる程だ。

「今日は良かった本当に、来た甲斐があった」さっきまで思っていたことは、とうに忘れてしまった。男とはみな、こんなものだろう。目の前にビーナスが現れると、これまでのことなど反故になる。その奇麗な女性の姿の虜となるのだ。一人でそんなことを思っていた。

やがて、皆も気づき圧倒されていた。その他の二人の女性もこちら側に挨拶をしに来た。特に普通の女性の感じがする。僕はそれよりも何もあの一団と綺麗な女性が気になってしょうがなかった。体が勝手にその女性の方を向き視線を微妙に外しながらも、見てしまった。



西口界隈から数分の所にある、わりと高いビルの中の居酒屋で飲むことに決めた。店内は飲む客やそれを運ぶ店員でがやがやと騒然としている。僕らも、ひとたびこの空間に足を入れると、気分が舞い上がってくる。十人掛けの座敷に案内されると僕と武はすぐに座らず、合コンに来た連中に、さり気なく席を譲った。憲二が一番奥に座り次いで充、そして武に、ついで僕が座った。向かいの奥にはあの眼鏡の彼女が座っている。僕と武は思いどうりに座ることができ、お互に笑みをもらした。

合コンでは、どこに座るかが、その後を左右してくる。だから、相手方が見えた時から、或る程度、目星を付けた方が良い。そこで話したい相手と十分に会話をできなければ、意味がない。そんなことを合コンに慣れていない憲二と充は思いついていない様だった。僕と武はよく合コンに一緒に行くので互いに、何をすればいいか良く分かっている。合コンに行くには、いいパトナーなのだ。

ここに集まった全員で乾杯をして後、 すぐに、目の前の女性が「名前は何と言うの? 私はえり 。」と話し掛けてきた。こっちから話すことなく、向こうから話し掛けてきたので好都合だった。もちろん武も途中から、僕らの話に加わり冗談を言い楽しんでいた。それからも話は盛り上がった。お互いに特定の恋人がいないことや、夏休みだというのに退屈などなど…

それから僕と武は憲二と充を残していつものように立ち上がりミーティングをするべくトイレへと直行した。

「マコッちゃん誰が気になった? 前に座ってる子いいんじゃない?」と武が楽しそうにいう。

「そうだな? いいと思うよ。」と僕は軽く言った。僕は、えりへの気持ちが、強いのだと知られたくなかった。だから必要以上のことは、言いたくなかったのだ。そのかわりに逆に僕は質問してみた。

「武はどうするの? 今日は結構良い感じするけどな」

すると意外な返事が返ってきた。

「あのカワイイ子は悪くないが性格が合わないなきっと。別にするわ」

それを聞いて僕は、随分と安心した。彼と女性では、重なりたくなかった。まあいつも話しているように、お互いのタイプが違うから当然なのかなと自分で納得していた。

「じゃ、とりあえずさ、彼女らともっと仲良くなって楽しもうぜ!」

と武が言うと僕は

「TEL番聞くの忘れるなよ」

と少し余裕に言った。

それからも僕は、彼女、えりとばかり話していた。目の前に美人がにいると勝手に口が開いて、必要以上に喋ってしまう。彼女もほっそりとした手で髪をかきあげ、笑みを浮かべながら、テンポ良く僕に話しかけた。何気なく携帯番号を聞くと、すんなりと教えてくれた。今日は最高の一日であった。



お盆が過ぎ、夏の暑さも和らいでもいいころだが、あいかわらず空気が冷める気配はない。夜になるとスズムシが威勢良く自分達の在りかを、他のものたちに告げていた。僕はあれから一日間を置いてからえりに緊張した様子で電話してみた。

「えーと俺、誠だけど覚えてる?」

「うん、このあいだは楽しかったね」

お互いにはじめの方はギコチナカッタが、すぐにそれもなくなっていった。彼女と話すと気分が、この上なくハイになることに気が付いた。自分があたかも他の男と違い、偉く感じるようなことさえあった。

それからも幾度となく電話で話す機会が多くなった。彼女の話す事は面白くいつも興味津々に聞いていた。そして相談にもよく乗っていていた。友達関係や将来、家族のことなどいろいろと聞いていた。それほどたいしたことでもない様に思われることも、ただ力になればと真剣に聞いていた。

いやむしろそこで、自分の孤独が少し癒されていたのかもしれない。同じ時間や考えを共有することによって。



その僕だけのえりにしたかったので、彼女とデートにすることにした。お台場にあるヴィーナスフォートだ。

えりは黒のパンツに上品な白のカットソーを着ている。やはり、彼女は自分ではお嬢だとは言ってないが、服装にそれが表れていた。僕はそんな姿を見ていると少し緊張し、辺りのカップルより自分達が優れているような錯覚さえ覚えた。

ヴィーナスフォート内にある、服屋を次々に見る。ドルチェ、APC 、ポールスミス、アダムエロペ、キャンプスなど、どれも一流ブランドばかりある。僕はフアッションには以前から興味があったので、地元にある店などでは絶対に買わない。それは高校一年の頃、僕は初めて心から好きになった人がいた。その人ともし付き合うとなれば、それなりの格好よさ。彼女と一緒にあるいても恥じない服を着ようと思っていた。当時の僕の服は適当に母が買ってきたのを着ていてたので、それを一新しようとしたのだ。

それからは常に流行の最先端にある、渋谷や原宿の店で一流の洋服を買っていた。だからこうして、ここに一流のブランド、それに担う程の値段を見ても、驚きはしなかった。それはえりも同じで特にごく普通のシャツが二、三万しているのをみても、怯まなかった。

次に僕らはオリエンタル風の少し熱気がある喫茶店に入り喋ることにした。

「さっきは、結構良い服がそろっていた、迷うな」

「そうね、私が買うお店の洋服があるわ」

「特に俺が好きなのは、ここにはなかったけどキャサリンハムネットかな」

「それはどういうものなの?」

「えっとね、ロンドンにデザイナーがいて、とてもシックな感じがするんだよな」

「ロンドンかいいね」

「でもさすがにビックリしたんだけど前、冬にユナイテットアローズの本店に行ったら、カシミアのセーターが二十万で売っていたよ。とても肌触りが良かった」

「え、二十万? すごいね。そういうのプレゼントされたら嬉しいな」

ふと僕の心の中にある思いが湧いて来た。確かに高価で洗練された服はとても着ていると感じがいい。自分が他の人より良く見られているように思える。それはえりと一緒に歩いていることも一緒だ。彼女はとても高貴でお嬢様だ。僕は本当にこいういうような、ものにめぐりあって気分はいいが何かしっくりこない。ただ高貴、高価というものだけが僕を満足させているように思えた。何か空しさが込み上げてきた。

しかし、やはりえり、彼女を見るとそんなことは余りの綺麗さでこの考えは忘れさせてゆく。

そうこうしていると外は幾分か暗くなり始め、僕らはお台場海浜公園に行くことにした。そこはお台場の中でも砂浜になっており、夕方から夜になるとカップルが多く出てくるスポットだ。

僕は砂浜にじかに座るとえりは、ハンカチを引き座った。ここからはレインボーブリッジと東京タワーが見える。しかし、その奥、埼玉方面には夕立かわからないが、稲光がする奇観、それが僕を喜懼させた。

「今日は楽しかったね」

「そうね、誠君といると落ち着くよ」

「そうか~そう言ってくれると嬉しいよ。やっぱり電話だけじゃわからなかったからね」

「うん、こうしていると私達恋人に見られるのかな?」

「そうだといいけど、俺とじゃあつりあわないんじゃないかな」

「そんなことないわよ、誠君は私のこと好き? 付き合ってみる?」

僕は心底驚いた。こんな美人で高貴な人が僕と付き合おうと言ってきたのだ。僕はそれが信じられないからまた聞き返した。

「本当に俺と付き合ってくれるの?」

「嫌ならいいわよ? 」

「嫌なはずはないよ! ありがとう」

僕の心臓はドキドキして、飛び出すまいとしているくらいだ。こんなお嬢様と付き会えるのは夢みたいだった。そして最高の一日は終った。

それからの数日は天国にでもいってるように狂喜した。彼女への気持ちが強く電話では好きだ、好きだと連発してしまった。そうするとえりは、自分に魅力があるのだと思っているような態度で僕に接してきた。



セミの声が些か小さく聞こえる気がする。そして夏の激しい暑さも、徐々に和らいで来た。時は早く過ぎていく無常にも。夏はあと少しで、思い出へとかわろうとしている。僕にはそんなことが、今が楽しいので気づかなかった。でも昨日の電話でいつもの様に話していると、少し気になるフレーズがあった。彼女は武のことを尋ねてきたのだ。

「彼はどんな人なの?」

僕は、なんて言おうか迷った。だがいつも見ている彼の姿を、正直に言うことにする。

「そうだな、気立ての良い、なかなかいい奴だよ」

本当は、もし武とえりがどうにかなるのではと心配した。彼を尊敬し、信用している分、恐かった。だが彼は彼女に好意はないと言っていたんだし、お勧めもしてくれた。余計な心配は要らないと納得した。

今日も夜になると毎晩の日課のように電話をした。少し早めに掛けてしまった気がする。少しの呼び出しの後にえりは出た。別に普段と何ら変わりない様に思えた。なんだか安心するが、不安を完全に消したいがためにいつも以上に話し、長く時を過ごしていた。

もはや以前のように一緒に時間を過ごすだけでは物足りなかった。もっと自分のことを見て欲しいし逆に、彼女を見たかった。今は彼女以外のことが頭に入り込む余地など、全くと言っていいほどない。そして何とかして自分のものだけにしたいという欲望があった。寂しさから開放するためにはどうしても彼女が必要だった。

もう夜が更け、あたりは完全に暗黒につつまれていた。月の明かりが静かに光を放っている。その形象を独り、じっと見つめていた。



それから数日が過ぎた。彼女への気持ちが強すぎているのだと、わかってるから、自分からは電話をしなかった。えりからの連絡が欲しかった。押し寄せてくる孤独と戦いながらベットの中で硬直したように待っていた。

すると、

「ピピィ、ピピィ、ピピィ、、」

やっとかかってきたと思ったが、予想とは反していた。友人の武からだった。僕としてはガッカリしたがこんな時に掛けてくれて、いい友人だと少し嬉しかった。彼に話を聞いてもらいたかったから。僕は彼が話しかける前に声を発した

「あのさ聞いてくれよー」

「明日マコチャン空いてる? 久々に会おう。時間空けてくれよ、明日聞くから」

「そうか別にいいけど、明日誰が来る?」

せっかく話せると思ったので、少し無愛想に返した。

「明日は二人にしよう」

「OK、じゃ明日は飲むか。ちゃんと話し聞いてくれよ!」

と今度は明るく喋った。

武はなんとなく重たい口調で話をしていた。

だが僕は、少しだけ気分が軽くなったのは気のせいだろうか? こういう時に久々に友達と話すと楽になる。明日は思いっきり飲んでやろうと決めた。



武と待ち合わせたのは暗くなってからで、だいぶ体に涼しを感じた。

「とりあえずサテンに入って話そう」

と言ったのは武だった。

「え、 酒飲まないのか?」

「とりあえず酒抜きで…」

「なんだよ楽しみにしていたのに」

と僕は苛立ちながら言った。それから喫茶店に入って席につくと、武は、僕にっとって忘れられないことを言った。

「本当にごめん…」

初めは、何を言っているのか分からなかった。

脳裏にありとあらゆることが駆け巡った。しかしわずか短時間のうちに、一つの最も恐れていたことが、浮かび上がって来た。この時ほど神・仏を憎んだことは、今までにない。

えりが… 信じられない。どうして自分を騙して武と付き合っているのだ。

心の中で一人つぶやく。

それから彼は今まで起きたえりとの事実を、たんたんと話し始めた。すべて事実を聞き終わった後、彼はまた

「本当に、ごめん」

と何度も言った。僕にはそれがなんて言っているのかわからなかった。聴覚が機能しなくなっていたのだろうか、良く解らない。頭の中は真っ白で、混沌とし何も存在しなかった。怒りなどの感情も出てきたが、すぐにどこかへ消えていってしまった。話が終わると、少し経って僕は何も言わずに席を立ち、店を出ていった。武はひどく困惑した様子だったが、止めることもなく座っていた。

僕は、一人歩き続けていた。どこにいくとも知らず。冷え切った重たい体を引きずりながら。気が付いたのはそれからどの位時間が過ぎてからだろう、人気のない公園のベンチの上に座っていた。携帯を取り出して時刻を見ると、午前零時を過ぎていた。そして武からの着信が何回も入っている。掛けることは、しなかった。

終電に間に合うだろうか? また独り歩き続ける。今度は必死に目から落ちてくるものを、上向きになりがら堪えて。綺麗に輝いている星も僕には、ぼやけて見えた。



次の日空は晴れわたって、雲一つなかった。しかし、僕の心の中は暗やみに満ちていた。あれ以来人を信じることに脅えていた。最も仲のいい友人と好きな女にあんなことをされると人を信じろと言う方が無理だ。何度も何度も武が謝る光景が脳裏に浮かび上がってくる。そして考え込む。あまりにひどいことではないのか? それともやむえないんことなのか?

そんなことを、あれから何日もとりつかれたように考えていた。

ある日ふと目が覚めたように、えりは何を考えていたのだろうと思った。そして気が付いた。武のことも。ここにきて、初めて自分以外の人のことを考えられるようになった。今まで、自分だけのことしか考えなかったのだ。すべて武と彼女が悪いのだろうか? そうでは、ない気がしてきたのだ。

それから武に洗いざらい述懐し話そうと決心したのだ。

「おれ誠だけど、今話したいことあるんだけど」

「心配したよ、あれから電話にも一度も出ないし、でもごめん…」

「あれから考えたんだ。武のこと正直言うけどさ恨んだよ、そしてマジで殺してやりたいとさえも思った」

武は、動揺することもなく黙って聞いていた。

「でもさあることを気づいたんだよ。えりは、俺のこと本当に慕っていてくれた。でもな俺は自分の寂しさだけを埋めるために、彼女を求めていたんだ。自分のことだけしか考えて、いなかった。彼女のことを考えずに、今ようやくそれに気づいたよ。だから重たくなったんだろうな彼女は」

武はそんなことない、などと言わず、ただ黙っていた。

「だから彼女を、そんな気持ちにさせたのは俺だったんだ。えりは悪くないなきっと。彼女を幸せにしてやってくれないか? 俺が出来なかったことをしてくれよ!」

強い口調ではっきりと言った。するとようやく武は口を開いた。

「いいのかよ、俺は誠を裏切ったんだぞ、親友だと知っていながら。なのに何でそんなこと言えるんだよ」

「 わかっているよ、でも武は本当にいい奴だと前から思っていたんだぜ、信用もしていたんだよ。そんなおまえだから安心して頼める、そして本当に幸せに出来ると思うんだ」

武は少し驚き躊躇いながら言った。

「マコチャンは、馬鹿だな…。」

「…彼女のことは頼む」

精一杯に言った。僕は武が彼女を幸せにし、そして本当にこれからも最高の友達なのだと確信していた。



夏に青々しかった葉もすっかり変わり、秋になった。これから大学生活がまたスタートする。あれから僕は、色々と反省しまた学んだ。いかに自分がエゴの固まりのようなものだったか。情けないことだ。でもそれを気付かせてくれたのは武とえりなんだなと思った。

そして基本的なことも。何も不自由無く大学に通えることができるのは両親のおかげなんだと。何でこんなことを思うのか自分でもわからない、しかしあることによって、気持ちが初心に戻ったのだろう。

大学が始まると意外と、忙しくなるのだ。また、四人でつるむことになった。武ともわだかまりも、毎日行動を共にすることで、少しづつ消えていっ。

(作者より)

 ここまで読んでくださりありがとうございます。この先は第二章があります。http://ameblo.jp/blog-nariyira/entry-10007994054.html またここまでの感想で構わないのでメールをくれると嬉しいです。もちろん全文を読んでくれた方がもっと嬉しいですけど、よろしくお願いします!

Makoto19792004@aol.comよろしくお願いします。





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2004年12月12日

純愛小説、村山由佳の「天使の卵」に感銘を受け「永遠」第二章

テーマ:純愛小説

作者より、第一章を読んでない方、興味がある方是非見て下さい。http://ameblo.jp/blog-nariyira/entry-10000312672.html


第二章

ついに行く道とかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを。
                                            在原業平

日曜日は、何とも言いがたい程嬉しい。休みが続いていた時は毎日、気が抜けていたが、学校が始まってようやくほっとできる時間が持てた。しかし、ほっとして気が緩む所へ、寂しさがじわじわと波のように押し寄せてくる。その波は、次第に大きくなり、独りの男をのみ込もうとした。
思わず耐え切れなくなり、気分転換をしに外へ出掛けることにした。ある知人が言っていた。こういう時はおいしい物を食べて良く寝ることがいいのだと。僕はそれには賛成で、これから少し遅いお昼を買いに行くため弁当屋へと足を運んだ。

お昼を過ぎた店内は客が、ほとんどいなく暇そうに見えた。今日は如何にも熟練している様な年配の人が店番をしていた。あの一生懸命頑張っていた女の店員はいなかった。もう辞めてしまったのだろうか? また頑張ってる姿が見たかった。

弁当を買ってからいつもなら、真っ直ぐに帰るが、今日は天気もいいし家のにいるのも苦痛だから、どこか食べることができる場所でも探そうと思った。弁当屋の後ろにある緩やかな坂道を自転車を押して、進んでいった。この先の丘の上なら、気も晴れるだろう。

登り切ると、見晴らしの良い小さな公園があった。ベンチが二つとブランコ、そして一本の大きな木があるだけで、他には何もなかった。ひとけがない程に静かだ。だがベンチに一人だけ座っている。
その人は遠くの街並みを、ぼんやりと眺めていた。些かさびしそうに見えたのは、気のせいだろうか?
もう一つのベンチに座ろうと、近くに寄ってみると、驚いて立ちすくんでしまった。向こうの人も、僕の弁当の袋を見てびっくりしている様子だった。
「あのー。もしかしてあの弁当屋で働いてる人ですよね? 」
もしかしてなんてことはなかった。あの薄汚れてる制服を着ているのだから間違いない。あのひた向きに働く彼女だった。今は、休憩時間なのだろうか?
「え、そうですけど」
「今ちょうど買って来た所ですよ、一度、買いに行った時会ったことがあるんですけど覚えてませんかよね?」
「… 注文なかなか、決まらなかった人? たしか、唐揚げ弁当買った」
彼女は笑みを浮かべ言った。
「あの時、何買って良いか決まらなかったけど、あなたがずっと待ってくれたから嬉しかったんですよ」
さらに、いつもあの様な店に行くと、迷ってしまい、店員に嫌な顔をされるが、あの時は違っていたと一生懸命に言った。
すると彼女は控えめな声で言った。
「そんなことないですよ、こちらこそありがと」
あの店で働いている様子と、何ら変わらないことに安心した。でもさっきも見た、ただ独りでじっと何かを見つめていたことが気になった。思い切って、何かあったんですかと言いたかったが、まだそんなことを訊ける間柄ではなかった。

「今日初めてここに来たんですけど、落ち着きますね?」
「そうね、私はよくここに休憩に来るのよ」
「何だか嫌なことを忘れられそう気がする。」
少し彼女は黙ってから、
「お話できて楽しかったわ、もうお店に戻らないと、」
と言うと急いで帰ろうとする。
「また来ても良いですか? ここは気分が良くなる」
「いいわよ、私もそうだから、でも…」
何か言いたかったことが有ったのだろうか?それともこれ以上親しくなりたくないと言うサインなのだろうか?

大学生活は楽しい。学校に行って自分の好きなことを学び、そして友人とたわいもない会話をし続ける。最近になって、車の免許を取るため教習所に通い、バイトもするようになった。忙しく週末にはクタクタにってしまう。だからまた日曜日になると自然とくつろげるあの公園に、行きたくなる。
今日は雲が秋の空を覆っていた。この街をゆっくり眺めている女性がこの前と同じようにベンチに座っていた。

「こんにちは、また来ました」
やな顔こそしないが元気のない返事が返ってきた。
「こんにちは…」
仕事でもこんな風にしているのだろうか? いやそんなことはない。弁当屋にいる時はきっとこんな表情をしない。この落ち着く公園だからこそ、素顔を見せてしまうのだろう。僕も随分この光景を見ていると自分が、素直になる気がした。

僕はどうしても、元気を出して欲しかった。そこで、僕自身のことを話せば少しは元気を取り戻しはしないかと、僕なりに考えた。今まで夏に起きたことを、一生懸命に話した。それはむしろ自分に、元気を出すんだぞと語りかけていたのかもしれない。この公園にいると、思わず気分が開放されて自然と話したくなる。
「そうなの… 辛いのね」
と少し彼女は、僕の話しにびっくりした様子で言った。そして「私もそうよ」という感じで微笑んだ。彼女も過去に同じような経験をしていたのだろうか? 考えてしまった。
それからしばらく、沈黙が続いた。二人は日が照らない街を見ていた。
幾分か時間が過ぎてから彼女は言った。
「貴重な話しをしてくれてありがとう」
「いや、とんでもない、つまらい話しですけど、こんなことならいくらでもしますよ」
彼女の顔色が少し良くなっている気がした。
「じゃまた来週にね」
僕は嬉さで一杯だ。また会える約束をできたこと。そして自分が、少しでも人の役に立てたことが有り難かった。彼女は緩やかな坂を、弁当屋の方に向かって下って行った。

一週間がまた過ぎ、日曜日がまたやって来た。でも今日はあいにくに、朝から雨が降っている。彼女はどうしているのだろうか? と気にはしがらもとても外に出掛けられる雨でなかった。今日は家に居ることにした。
夜になり、小降りにはなったが、依然と降っていた。完全に止んだのは、夜の十時を過ぎてからだった。一日中家に居たから、外に出掛けたくなった。あの公園の夜景を見にいこうと、彼女が居なくても綺麗な夜景が見られればいい。

着いてみると、目の前に光が飛び込んできた。街全体の中で民家やマンション、高層ビルから道路の車まで、一つ一つ光を放っている。それでいて公園はひっそりと静かだ。こんな時間には、誰も居ないはずだ。


だが、なんと彼女が、じっと耐えるように座っていた。近寄り難い気持ちもあったが、僕は意を決して、彼女の前に立った。すると、意外なことにもそれほど驚く表情を見せず僕の方をじっと見つめてきた。僕は声を発した。
「どうしたんですか? こんな時間に」
「……」
彼女は何も言わずに黙って見つめてる。今まで見たことのないほど悲しい表情をして。
「何かあったんですか?」
それでも 彼女は何も言葉を発しなかった。警戒しているのだろうか? それとも他に理由があるのだろうか? 僕は心配だ。そして何とか力にばれればいいと思った。

依然と彼女は黙っていた。思わず僕は言った。
「心配ですよ。放っては置けません。僕で良かった話してください」
ようやく彼女は、声を発した。しかし、静かな泣き声だった。そして、彼女の瞳からは、次々と涙が零れ落ちてきた。ただ僕には、彼女の泣き止むのを待っていることしか、できなかった。
それから彼女は安心したかのようにずっと、泣いていた。辺りは真っ暗で、公園の街灯と夜景の光だけが二人を照らしていた。やがてまた空から霧雨が降りだした。彼女は泣き止むと、静かに話し始めた。降ってくる雨を気にもせずに。
「あんなに幸せだったのに… 信じられな い 」
何の事だかわからないが、雪のように舞い下りてくる雨を浴び、ひたすら聞いていた。
「もう少しで一年が経つの」
「… えっ?」
「… 一年前、結婚を予定した日から」
僕はこれ以上のことが、言えなかった。
「あなたと同じなの… 私も」

また彼女は、瞳から涙を流していた、降ってくる雨と頬で交差しながら。
「二人は、愛し合っていたのに、」
ここまできたなら、全てを聞こうと僕は決心していた。
「何があったんですか?」
「あの人に突然言われたの。『君とはもう無理だよ』って。初めは冗談かと思ったわ、でも彼の口調は本気だったの。私は言われるまで全く気づかなかった。彼とならきっと幸せになれると信じていたのよ。馬鹿よね。」
と彼女はじっと、一点を見つめたまま言った。
「どうして、ですか」
「それからだいぶ、後だった。彼には本当の婚約者がいるのを知ったのは」
僕はそいつに怒りを感じ、黙ってはいられなかった。
「なんてひどい話しなんだ。信じられない!」
さらに冷え切った声で、彼女は言った。
「私が馬鹿だったのよ。あの人のことを、何もわかってあげられなかった」
それには、なんとも答えられなかった。

それからも彼女は、今まで我慢していたものを、一気に吐き出す様にして話し続けた。彼女は仙台生まれで、大学進学と共に東京へ上京し、国立大学を卒業しその後、都内の一流商社に就職した。そしてそこで知り合ったのだと言う。彼と別れてからは、自分をやり直すために、苦労して入った会社を辞め、今の弁当屋に入ったのだと言う。登りつめた地位を捨て、暮らすのに最低限になっても。
話し終えると彼女は、今にもベンチから地面に滑り落ちそうに、体をかがめていた。僕はその濡れた身体を


ゆっくり起こして上げると、彼女は我に返った。雨がこんなに降っていること、そして僕に頼ってることを。彼女は、そんな自分に戸惑い、困惑している。
「ごめんなさい。あなたまでこんなになるまで話しちゃって。風邪を引いちゃうわ。」
「いや、僕が勝手に付き合ったんで。でも良かった一人じゃなくて」
と僕は言った。
「ありがと、あなたは優しいのね。」
「大丈夫ですか? まだ心配です、できればあなたに付いていたい」
と僕は正直に今の気持ちを言った。
雨が次第に強くなり今まで苦痛でなかったがほっとした途端、寒く感じてきた。十月下旬の雨は思った以上に堪える。

彼女はさらに困惑しながらも、言葉を発した。
「私はあなたより随分と歳が上なのよ…」
「そんなこと関係ないですよ、ただ心配なんです」
「でも…」
僕には分かっていた。ただこの状況にたまたま出くわしたのだ。そしてそばにいて、話しを聞いてあげられる人が、誰でも良かったことに。だが今日、僕が選ばれそして彼女が助けを求めているのは、紛れもなく事実なのだ。後のことなど考えもしなかった、いまこの人を守ってあげたい。それだけだ。
すると彼女は立ち上がり、こわばった顔で言った。
「… お願い」

そして二人は緩やかな坂を、彼女の家に向かい下って行った。
公園から徒歩で十分ほどの所に、彼女の住まいがある。決して奇麗だとは言えないアパートであった。二人はおもむろに緊張した様子だ。彼女はこのアパートの男の人を上げたことがないだろうし、僕は、午前零時近くになってこんな状況で人の家に入ることなど、考えもしていなかったから。
中に入ると外観にふさわしいほどの、小さな部屋が二つあった。

「風邪を引くといけないから、先にシャワー浴びて」
「でも、後でいいですよ。」
「着替えなんとか用意しておくから、先に入って」
しかたなく、バスルームの方に向かっていく。シャワーを浴びながら自分がどのようにして、ここにいたったのか考えてみた。そして彼女のあまりに悲しげな表情を思い出し、心が締めつけられた。すると頭を埋め尽くしかねない、別の欲望を消させた。
出てみると、カーディガンと一度もはかれてない様なズボンがる。そしてそばのコンビニの袋の中に下着が入っていた。わざわざ近くのコンビニまで買いに行ってくれたらしい。着替え終わって出ると、すでに着替えて彼女が待っていた。
「ごめんなさい、それぐらいしかあなたに合う服がなくて」
「いやわざわざ、買いに行ってくれてありがとう」
「そこのソファーに座っていて。」
と言うと、彼女も浴びに行った。

僕は部屋の中をぐるりと見回した。彼女が言っていたように、必要以外の物は置いていなかった。ベットにテレビそして横に本が数冊、窓の近くには小さな可愛らしい植物が鉢に植えられている。
やがて彼女が出てくると、キッチンの方に行き、ホットミルクを二つ作って隣に座った。
二人は緊張し、ミルクを啜った。
「おいしいですね。体が芯から暖まる」
すると彼女は真剣な顔付きになって言った。
「本当に今日はありがとう。お礼を言わせて。あなたのおかげで助かったわ。」
「よかった、お役に立てて。本当に心配したんですよ。でもどうして、僕にあれほどの表情を見せたの?」
彼女の険しくなる顔を見て、余計なことを言ってしまったと後悔した。彼女は何て言おうか迷っているようだ。僕が謝ろうとする前に彼女が言った。

「こんなこと言っていいのかしら、いや言わせて。あなたがこの前お話してくれたでしょ。私とても嬉しかったのよ。自分の辛いことを正直に話してくれるなんて。あなたなら安心できるなと思ったの」
「あの時は無我夢中で励まそうと思って。」
僕は正直びっくりした、でも嬉しかった。彼女はとても人の痛さがわかる優しい人だ。僕も彼女なら何でも話せる気がした。
今度は逆に彼女が僕に質問してきた。

「どうして私にあんなにも親切にしてくれるの? 」
「何だかあなたを見ていると、放っておけなくて、それに…」
彼女はくすっと笑って言った。
「もう年下のくせに、生意気なんだから」
彼女の表情から明るさが戻ってきた。弁当屋で働いてるあの表情だった。
「それに、一生懸命働いてる姿が好なんです、何と言ったらいいいのだろう、僕にとって必要です。あなたと居ると僕も安心できるし、素直になれる。」
これが僕にできる精一杯の彼女への愛情表現だった。
「ありがとう私もそうよ。でも…」
「でも、なに?」
「私はあなたに比べれば、随分とおばさんなのよ。あなたの様に、若さは溢れていないの。」
彼女はため息をついた。そして僕も。
「そんなこと問題になるの? 少なくとも僕は気にしないよ!」
「あなたには、もっと…」
彼女が僕のことを心配してくれるのは嬉しかったが、歳の差だけで一緒になれないなんて悔しい。
それから沈黙が続いた。二人は疲れきっていた。深夜だから、時折車の音が聞こえるだけで後は何も聞こえなかった。
少ししてから、黙ってる僕の手を優しく握ってきた。僕は驚いたがしっかりと握り返した。二人はただ何も言わずに、寄り添い合った。お互いに傷を癒すかのように。そして手をつないだまま目を閉じた。

気が付いた時は、もう朝になっていた。隣には彼女の姿はなく、代わりに掛け布団が僕を包んでいた。前のテーブルの上にメモと輝く物があった。

メモには
「おはよう、私は仕事に行かないといけないからから、起こさずに行きます。朝ご飯作っていたから良かったら食べてね。昨日は本当にありがと、頑張るわ。また必ず来てね、それまでキーを預けときます。」
                                                         加奈子より

そう言えば名前を知らなかったんだ。加奈子かいい名前だ、一人感心していた。僕は彼女の作ってくれた朝食を食べ、メモに書き、大学へ行くため戻った。

「朝ご飯とても美味しかったよ。元気を出してください。応援してるよ! また来ます」
                                                        誠より

今週は、文化祭シーズンなので大学は活気に満ち溢れていた。僕も友人のサークルの手伝いをした。だが彼女のことが心配で、会いたい気持ちで一杯でいると、ついに友人に怒られてしまった。
土曜日の夜になり、ようやく学祭の片付けや飲みも落ち着いて、時間が空いた。
彼女のアパートに着くと明かりは付いていなかった。それでも迷ったがインターホンを鳴らしてから、預った鍵でドアを開けた。部屋の中は真っ暗だった。電灯のスイッチを探して明かりを点けると、ソファーの上にうずくまってる彼女がいた。

「電気も付けないで、どうしたの?」
彼女は仏を見るかのように、安堵した顔で見上げた。
「来てくれたんだ… ありがと」
僕も彼女の顔を見て安心した。
「…考えていたの、あなたのことずっとこの前はあんなこと言っちゃってごめんなさい」
僕も気持ちを彼女にぶつけた。
「僕もほんの一週間しか経っていないのに、辛かった、離れたくないよ」
まるで子供のような声で彼女は言った。
「あなたを、信じていい?」
「うん」
二人とも、ずっと孤独だった。過去がそうしたのだろうか? いや今この生きてる時、瞬間に感じる必然だった。二人は必要になっていた。神・仏が運んでくれた最高の導きに、やっと二人は出会った。
もう二人を隔てる心は完全に、なくなっていた。

「よかった。あなたがこの前、歳なんて関係ないって言ってくれて、本当に嬉しかったの。でもあなたのこれからのことを考えると、足手まといに成らないかと心配したの」
「分かってるよ。自分で選んだ道に後悔はしない。」と僕ははっきり言った。
僕は彼女の横に座ると、優しく抱きしめた。彼女の手は僕の背中をきつく抱きしめた。もはや二人には、一つになる事に何の躊躇いもなかった。
言葉でなく、お互いに愛を告げあった。

それから彼女のささやく声で気が付いた。
「もうこんな時間になっちゃったね、帰った方がいいわ、おうちの人が心配する」
二人で居る時間はあっという間に過ぎた。でもこれからはいつだって会うことができる。それに決して会えないとしても、気持ちがつながっているからそれほど、寂しくはないはずだ。
「そうだね、そろそろ帰らないと。もう平気だよね加奈子。」
恥ずかしくもなりながら、名前で呼んでみた。
「うん大丈夫、誠」
彼女も顔を赤くしながら言った。それからキスを交わした後、服を着て帰る支度をした。
「鍵は持ってて。いつでも来れるようにね」
「ありがとう。これからは、いつでも一緒だ」
僕らはお互いの手をぴったり握ってから、別れた。

それからも僕らは、彼女の家やあの公園で安らぎ合った。そしてよく話をした。大学での出来事や僕の将来や就職のことを相談すると、彼女は実によく一緒に考え悩んでくれた。いつも決まってこう言う。
「自分の一番やりたい事を選んでね」
僕はというと、彼女の弁当屋の話しを良く聞いていた。ベテランのおばさんに味が今一つ駄目だと言われたり、常連の客に褒められたりいろいろとあるものだ。
でも彼女の料理は最高に美味しかった。クリスマスに彼女の家で食べたごちそうは、忘れられない。あのコクのあるシチュー、茹で加減の絶妙なパスタ、デザートのホワイトケーキどれをとっても絶品だった。さすが弁当屋に行ってることはあるなと感心した。彼女は僕が褒めるとリンゴのように、顔を真っ赤にし、照れていた。
僕らにこれ以上のない、幸せな日々が続いた。そしてお互いに、この丸いちいさな星の中で最も必要なんだと知っていた。もはや誰にも、僕らの愛と絆は壊されないと確信していた。

年が明け寒さが厳しくなっても、二人の間には変わりはなかった。あえて挙げるならば、彼女は依然に比べると、すごく元気になったこと、そして若々しく綺麗になったことだ。二人の力が、そうさせたんだと思う。
さらに寒い冬を乗り切ると、新たな生命が満ち溢れる春が訪れた。今まで、ぐっすりと眠っていた動物や植物が一気に目を覚ます。そしてまた日差しがきつい、夏がやってくる。今年の夏には二人でいい思い出ができそうだ。僕らは外に出掛けるのが好きだったので、これからが楽しみだった。

「もうすぐ夏ね、いろいろな所に出掛けて、そして思い出もいっぱい作りましょう」
「いいよ免許もあるし」
彼女は嬉しそうに微笑んだ。そして思いついたように言った。
「明日は、誠、空いているんだよね。海と綺麗な星が見たいわ、どう?」
「よし、行こうか。車借りてくるよ」

僕は久々に、武の家に行き今までの経緯を話し、車を借りた。武は気分良く貸してくれ、そして僕らのことを人一倍喜んだ。

彼女を駅前の大通りで待っていると、一羽の鳥が突然、キョキョキョと、僕に向かって鳴いていた。ホトトギスが夏を告げているのだろうか。そして、 辺りは夕日で真っ赤に染まり、これからおとずれる暗闇を暗示していた。
僕らは一路、伊豆の方へと車を快適にとばしていた。だが、この車はラジオが壊れて聴くことができなかった。車は、外に何が起きているか半段させることもなく、周りの様子が見えなくなる程に、猛スピードで国道を飛ばしていた。

気が付くと伊豆までは、まだ少し距離があった。だが国道を外れ脇の道を入って行くと、ひとけのない静かな海が見えてきた。お互いにこの辺でいいと納得し、車を降りた。あたりは閑散としている。街灯が壊れているのか、ついてなかった。波がまじかに来る所で僕らは座った。海水はまだ冷たそうだった。ここは、小さな入り江となっている、奇麗な砂浜であった。もしかしたら、地元の人だけが知る穴場のような気がした。

二人とも得した気分になり、それから語りあった。
「とても綺麗な海だわ、星もあんなに輝いてる」
と彼女が僕を見つめながらがら言う。
「ほんとに奇麗だ」
僕は海や星の美しさに、彼女も負けないと感じた。
「良かった…あなたと一緒に居ると、とても安心できる」
「僕も、そうだよ」
「ありがとう、誠、これからも宜しくね」
彼女は寄り添って、改まって言った。
「もちろん、どんな時も一緒だよ」
それから、二人は将来を誓い合った。
こんな夜なのに、満ちた月に照らされながら水平線に向かって真っすぐ飛ぶ海鳥の姿が、かすかに見えた。僕らはじっと目の前の幻想を見ていた。

いままで足元まで来ていた波がなくなってた。いや、引いていった。静けさの中に着信音が響き渡った。
「やっと、つながった。マコッちゃん今大丈夫?」
「どうしたの?」
「凄い揺れだったけど」
武からだったが、何のことだかわからない。
「地震だよ二十分前に。海行くとか言ってたから心配で」

すぐに電話を切ると…スローモーションになった。車をとばしていて気づかなかったこと、ラジオが壊れてたこと、時間がかなり経ったこと… 辺りを見回した。ひどく静まりかえっているが、しだいに大きくなっていく波の音が聴こえる。次の瞬間に、
「…」
ゴゴォーッ 、ゴゴォーッ、と物凄いけたたましい音に変わった。白色の波が二人を襲い始めた。彼女は冷静で、今起きた事実を直ぐに把握したようだ。
「誠…」
一瞬、僕らは見詰め合い、瞳で会話をした。
「あなたを、愛してるの」
「僕もそうだよ。愛してる、君を」
どんな時でも、僕らは愛し合っている。二人とも幸せだ、そしてこれからも永遠に… 幸せだ。

僕は押し寄せてくる波のなか、全生命力を使って彼女を抱き寄せた。もう駄目だと分かっているが、この世界に、一秒でも一緒にいたかった。
二人は一つになると何も恐れることなく、すべてを受け入れた。生命の源に帰ることに。

かすかに深い闇に落ちて行く声が聞こえる。
「ずっと一緒だね」

「そうだよ、ずっと」

(作者より皆様へ)ここまで長い時間をかけて読んで下さりありがとうございます。この作品は僕が大学二年の時に書いた初作品です。まだ文章・表現力が余り無いとおもいますが、読んでいて一番楽しめる作品だと思います。感想を是非聞かせて下さい!
Makoto19792004@aol.comよろしくお願いします。

またこの作品を少し手直しし、「第22回新風舎出版賞」に出し2000編を超える応募の中、二時審査通過しました。審査コメントがりますのでよろしければメールにてお送りします。

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