映画「太白山脈」 | ある在日コリアンの位牌

映画「太白山脈」

ビデオメーカー太白山脈

 

 イデオロギーの醜悪さを見事に描いた傑作。

 何百万という民衆は、いったい何のために死んでいったのか……。

 まさにイデオロギーの餌食になったに相応しい。


 映画タイトルの「太白山脈(たいはくさんみゃく)」を韓国語で言うと「テベックサンメック」といい、朝鮮半島の東部を南北に走る山脈のことをいいます。まるで背骨です。

 韓国人の精神世界に少なからず影響を与えたといわれる映画です。


 1994年製作。監督は大物イム・グォンテク、原作はチョ・ジョンレ。時は1948年から朝鮮戦争(1950年6月~1953年7月)最中まで。舞台は韓国南部、全羅南道。主人公のアン・ソンギは地主の息子です。

 

 第2次世界大戦が終わり、日本の植民地支配から解放された朝鮮半島は、北部はソ連の影響下、共産化が進み、南部はアメリカの軍政下にあった。

 共産主義と資本主義、左翼と右翼の対立が激化する中、左右の融合を図ろうとした民族主義者たちは、イデオロギーの対立の中で国家の舞台からどんどん消えていき……。


 そして人々の間には、イデオロギー対立が生んだ報復と憎悪だけが残った。 

 

 朝鮮半島南部で共産主義勢力に掌握された町や村では、地主や資本家などが処刑される(すでに北部で実行済みだ)。

 また政府軍(資本主義勢力)がそこを取り戻すと、今度は共産主義勢力に協力した人たちが処刑される。同じ町や村で、人々は密告したり、されたりして互いに憎悪を募らせていく。

  

 以前までお隣さん同士だった人が、兄弟が、いとも簡単に相手を告発し死へ追いやってしまう。あまりに命が軽すぎる時代だ。

 昼間は政府軍、夜は共産勢力に支配される村もある。人々は、互いに知り合いを、責め、叫び、密告し、あるいは沈黙し、隠れ、生き抜こうとする。ときの支配者によって、うまく自身が立ち回らないと命はない。

 支配者はいったりきたりする。死ぬ対象もいったりきたりする。こんなことが何度も繰り返される。


 いったい、どういう時代だったのだろうか……?


 ある小作人とアン・ソンギの会話が印象的だった。

 小作人「共産主義はどういうものか知らないが、農地を無償分配してくれるというからいいものだろう」

 (この小作人のように、実際、ほとんどの人は共産主義が何なのか知らなかっただろう。土地をくれるから共産主義はいいと素直に思っているだけだ)

 アン・ソンギ「共産主義では、自分が収穫したものは直接自分のとこには入らず、国家に取り上げられる。そして分配される」

 (すると小作人は、いぶかしがる)

 小作人「自分が人よりもいい作物をつくっても自分のところに入らなんて……」


 たぶん、上記のような会話があったと思う。実際、映画の中の小作人が共産主義を理解したのかわからない。ただ、この会話でわかるのは、搾取するのが、地主から共産主義(国家)に変わっただけである。

 

 実際に歴史の中で起こった共産主義国の崩壊は、正しくこのようなことではなかったか。(主義主張とは異なって)ごく一部の特権階級(支配者)と、その他大多数の貧しい国民という矛盾の構図。


 1950年6月25日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)人民軍がいっせいに砲撃、38度線を越え南侵する。朝鮮戦争の始まりだった。3日後の28日、いとも簡単にソウルは陥落してしまう。

 

 そして今度は、国際規模の想像を絶する、おびただしい報復が繰り返されていく。

 愚かなイデオロギー対立が残したものは、戦況が反転するごとに積み上げられるものは、人々の屍(しかばね)ばかりだった……。

 

 韓国・アメリカ軍を中心とした国連軍(資本主義勢力)17カ国 対 北朝鮮人民軍・中国軍(共産主義勢力)の朝鮮戦争が1953年7月に休戦するまで、朝鮮半島の総人口の20%以上が死亡している。


 この映画、朝鮮戦争とは何だったのか知りたい人とイデオロギーに絡まっている人にお勧めます。

 追記:韓国ドラマ「天国の階段」のシン・ヒョンジュンが出ています。若いですね~。


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